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赤い空に終焉を  作者: 朝倉春彦
1.初日0時~3時:赤空の亡霊
9/78

初日02:38:41/日向町公民館/高橋美奈子

私と恵美は命からがら公民館に逃げ込み、中に誰もいないとわかると、体育館の出入り口全てに適当な机でバリケードを作り、隅っこに座り込んだ。


「先生・・あのお兄ちゃんは?」

「浩司は家に戻るって・・・止めたんだけれど・・・」


私は浩司が握っていた金属バッドを見ながら言う。

学校で襲われた後、逃げ込んだ図書館で浩司と合流できたが、またしても怪物に襲われ、逃げてきたのがここだ。

図書館で一通り怪物を撃退し、倒れた怪物の顔を確認した後、私たちは無言で首を横に振った。


「みんなどうしちゃったの?」

「恵美はまだ知らないほうがいいわ」


まさか昨日学校で手を振って別れた級友がいたとは、お疲れさまでしたと言って別れた同僚がいたとはとてもいえない。

浩司と普段一緒にいる村田さんと東君がいたのもショックだった。


公民館につくと、浩司は思いつめた様子で家に行くと言った。

私は止めたが、千尋のことが心配だと言っていた表情を見ると何も言えなくなった。


「・・・」


静寂が暗い体育館を包み込む。

時たま聞こえる何かの発射音が鳴り響くたびに、私は恵美を抱きしめた。


「近い・・・」


今まで聞いた数発の音の中でもさらに近くで鳴り響く。

私は小刻みに震える体を押さえながら、息をひそめた。


「・・・か?」


その後、静寂があたりを包み込んだ後人の声が聞こえた気がする。


「誰か・・・か?」


それは今まで化け物が発していた人の声とは言えないような声ではなく、どこかで聞いたことのある声だった。


か細く、透き通っているのに、なぜか通りの良い声・・・


「先生?この声」

「誰だろう・・・恵美ちゃんはここで待ってて・・・すぐに戻ってくるから・・・」


私は恐る恐るバリケードのある入り口の1つに近づいてく。


「誰かいませんか?」

「その声・・・・千尋ちゃん?」


私は聞こえてきた声の方向に向かって言う。


「先生?」

「そうよ・・無事だったの・・・」

「これは・・・扉が開かないのは・・・」

「ごめんなさい・・・急いで作ったんだけど」


私はバリケードを越しに言う。


「いえ・・中が安全ならそれでいいです」

「今よけるから・・・」

「いえ・・私は大丈夫ですから・・先生は一人ですか?」

「いいえ、恵美ちゃんと・・知ってる?」

「ええ、あの子も・・・」

「あと、浩司もいたんだけど・・・あなたをさがしに家に・・・」


そこまで言うと、向こうで驚いた声が上がる。


「浩司・・・あそこは・・・」

「え・・?」

「先生・・ここでじっとしてください・・・それと、もし何か逃げなければならないのなら志久湖か丹合に逃げて・・」


早口で、あの無表情無感情で毒舌な子が焦った様子でそう言った。

そして、私の返事も聞かずに走っていく音だけが奥から聞こえてくる。

最後に公民館の重たいドアの音が鳴り響き、また辺りは静寂に包まれた。


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