初日12:35:00/日向町立図書館/前田千尋
駐在警官の襲撃を逃れた私達は、真っ赤な霧が漂う町を駆けて、図書館に身を潜めた。
少し息が上がって、精神的に参っている彼を、図書館最奥の適当な椅子に座らせると、私は単身で図書館内を見回る。
入るときにも、誰もいないのを確認しているが・・・念のためだ。
一通り確認を終えると、窓の外を確認する。
辺りは不気味なほどの静けさに包まれていた。
先ほどまでここで・・・人ではない何かが破壊活動にいそしんでいたのがウソみたいだ。
「なあ、千尋・・・病院に誰かいるんじゃないのか?」
浩司の下に戻ると、彼が言った。
郷土資料コーナーの窓の奥、ちょうど私が確認できていなかった所だ。
誰かが割ったのか、窓が割れていた。
彼の言葉通り、図書館横の病院の一部が不自然に明るい。
「人・・・?だと思う?」
「さぁな・・・ただ、奴らが電気つけるほどの頭はないだろ」
「・・・なら・・・人か」
「行くか?」
「いいや・・・その前に少し休んでて」
私はそういって彼の向かい側の椅子を引いて、手に持っていたM1を机に置く。
丁度、郷土資料のコーナーに居るのだから、調べておきたいことがあった。
本棚から、以前の事件で眺めていた、いくつかの目ぼしい本を取って椅子に座る。
暗がりの中、懐中電灯の明かりを頼りにページを捲った。
「それは・・・?」
「・・・前の事件の時も、ここで調べてたんだ。この町のこと・・・今回も何かあればいいのだけれど」
「この状況のことが本に書かれててたまるかよ」
「一つでも可能性があるなら、諦めないことさ」
私は流し読みをしながら、次から次へとページを捲る。
「嘘みたいな、あの儀式のことだって本にあったんだ」
「・・・」
「だから・・・きっとどこかに在る筈さ」
静寂に包まれた図書館で、ただただページを捲る音だけが聞こえる。
普段の夜なら、虫の鳴き声くらいは聞こえるのだが・・・それすらも聞こえない。
浩司も、一時の休息とあって・・・今までのショッキングな出来事を振り切れずも、少しは休めていそうだった。
私は、いくつかのページを折って目印にしながら、本を見続ける。
3冊目に入ったころだろうか?
ふと、外から流れる空気が少しだけ揺らいだ。
「浩司、そのまま黙ってて」
私は、本を開いたまま机に置くと、M1を持って立ち上がる。
懐中電灯を消して、割れた窓からM1を構えて外を見ると・・・何体かの異形が病院前にぞろぞろと集まってきていた。
その直後、病院の明かりがともっていた部屋から、ガラスが割れた音がする。
一瞬だけ、見えた人影は入り口の方へと駆けだしたように見えた。
そして、物音に引きずられるようにして、徐々に闇から異形の者が姿を現す。
「浩司!墓場を回って丘の上の教会まで引こう。数が増えてきた」
私はそういうと、一発だけ引き金を引いた。