初日11:02:05/日向町立病院/北原直人
「結構やっちまったな」
病院の診察室で一人つぶやく。
無我夢中で窓を突き破ってたどり着いたのが、病院でよかった。
適当に包帯とかを探してきて、診察室に入り、扉に鍵をかけると、先ほど負った傷を包帯で覆っていった。
一通り処置し終えると、診察室のベッドに横になる。
今思えば、この町に迷い込んでから、今の今までずっと働きっぱなしだった。
ちょうどここには化け物もいない。
病院内をだいぶうろついたが、奴らのうめき声すら聞こえなかった。
そしてここは3階。
念を入れて窓にはブラインドを下したし、扉には鍵もかけた。
安心しきるわけにはいかないが、ちょっと休むにはいいだろう。
俺はため息をつくと、改めて診察室を見回す。
綺麗に整頓された机の上には誰かの診断書。
ふと手に取ると、平元浩司という人物の診断書には、何かのプリントが挟まれており「機密事項」と赤い判子が押されていた。
「ん?」
俺は何気なしにその診断書を見てみると、最初に書かれた文章で絶句した。
”8月15日 午後10時00分 死亡予定”
「予定?」
俺は興味を惹かれ、診断書と、プリントを読み進めていく。
”死因 ーーー”
”翌日より0号電波の発信”
”8月22日までに全町民の記憶から忘却させること”
”その後、確認ののちこの文書を破棄すること”
”日向町 町長 桜井十郎”
奇妙・・・の一言に尽きた。
この・・・平元浩司という男・・・中学生が?死亡した後にこういう診断書が書かれるのはまだわかる。
死亡予定ってなんだ予定って・・・?
俺は頭を押さえて、診断書を眺めた。
文章をそのままの意味で読み取ると、この平元浩司という少年は8月15日に”殺して”、その後1週間をかけてモミ消すつもりだったらしい。
ただし、モミ消すならできるだろうが”記憶から忘却させる”ってことは町民の記憶からこの少年を忘れさせるってことだよな?
できるのか、そんなこと・・・
そして、”0号電波”というのが何なのか気になるが・・・
「ただ、この町がただの田舎町だなんてことはなさそうだな」
俺はそう呟いて、診断書とプリントを織り込み、着ていたベストのポケットに入れる。
直後、強烈な眠気に襲われ、そのままベッドに倒れこんだ。
少し、休もう。
話はそれからだ。