第99話 シルビア・ベルナドット
私が彼女? いえ彼? アールと初めて会ったのは入学試験の日だった。
最初はとても綺麗だけど、世間知らずでどこか危なっかしい女の子だという印象だった。
けど、一生懸命で不器用な姿に私は惹かれていった。それに何物にも媚びない自由な姿がどこかうらやましかったのだろう。
私は公爵令嬢で、婚約者もいる。魔法学院を卒業したらグスタフソン伯爵家に嫁いで、公爵家と伯爵家の仲を取り持ちつつ良き妻で良き母として生きていかなければと思っていた。
けど、あの事件があった。ふふ、あのときのカールは本当に最低だった。傲慢そのもので今の彼とはまるで別人ね。
お酒を飲んで我を忘れて襲い掛かるなんて。それでも彼にも事情があったと後で知ることが出来たし。ふふ、それにちゃんと罰も受けたし。
その罰で今も彼は悩んでいるようね。自業自得だけどローゼには迷惑だったかしら。でもそのおかげでローゼたちは上手くいっているし。
結果オーライかしら。
アンネなんかはもうお母さんになろうとしている。
私はどうなるんだろう。
そういえばアールは私を好きって言ってくれてるけど、どこが良かったんだろう。
あの時、バンデル先生の事件のときにアールは自分が勇者であるといった。
それに身体は彼が作ったメイドロボットだという。ロボットは魔導人形の発展形で意思があるらしい。
転生した勇者だと聞いたときはおどろいた。
では本当の彼はどんな姿なんだろう。少し興味がある、もちろん今のままでも素敵だし問題はない。
周りの人はアールを女性だと思っている。本当の事を知ってるのは周りにいる仲間たちだけだ。
そういえば女性同士の結婚については相当揉めたようだった。もちろん両親は私がそれでいいならそうしなさいといってたけど、問題は親戚の貴族たちだ。
次期当主である兄の説得のおかげでしぶしぶ納得しているようだけど、直ぐに揚げ足を取ってくることが予想されるそうだ。
子供は望めないしであれこれとうるさいのだそうだ、特にご婦人方の目が厳しいそうだ。
女性の義務を全うしてこその貴族令嬢なのだとか。
それなら養子を迎えるのだっていいかもしれない。現に子宝に恵まれなかったご婦人はそうしている。
……いっそ孤児院でも立ち上げようかしら。
「どうした、シルビア、例の彼女のことでも考えていたのか? 言っとくがまだ親戚には反対派の連中がいるんだからな」
「お兄様、私、卒業したら孤児院でもやろうかと思いまして」
「ほう、それは素晴らしいと思うが、孤児院か。そういえば竜王教会については何か分かったのか? お前たちは何か調べてるんだろう? 議会でも話題になっているからな、ぜひ聞かせてくれないかな」
「まったく、お兄様、すぐに仕事の話にすり替えるんですから。まあ孤児院といえば今は竜王教会の話題になるのはわかりますけど。
たしかに怪しいですね。教義も気になりますが、問題は支援金の使途が杜撰ですし。領収書も抜けが多いですね」
「ふむ、その言い方だと竜王教会は黒か、残念だ。俺は彼らのやってることは素晴らしいことだと思って、議会にも良き前例として議題に上げたというのに」
「お兄様、そう悲観しなくても、おかげでスヴェンソン先生は彼らの行いに疑問を持ったといって詳細を調べたのですから、お兄様の空回りもたまには役に立つのです」
「たまにはって、まあ、誉め言葉と受け止めておくよ」
「それよりもお兄様の問題です。ソフィアさんのことはどう思ってるんですか?」
「うん? なぜ今、ミス・グスタフソンの話題が?」
「もう、お兄様も大概にへなちょこですね。ぼんやりとした女性支援活動に時間を浪費するくらいなら、目の前の女性を優先してください!」
ソフィア・グスタフソンはカールの姉であり、愚弟について申し訳なかったと事件の後に謝罪を受けたことがあった。
その後ソフィアはアンドレの研究室に配属になると、シルビアは兄について色々相談に乗るようになったのだ。
ソフィアは兄のことが好きらしい。直接言ってるわけではないがきっとそうだろう。だけど兄はそんな甲斐性があるように思えないから。
こうして兄にはっぱをかけているのだ。
でも兄は相変わらずだった。まったく、でも時間の問題でしょうか。
私は兄の研究室を出るとソフィアさんが入り口でそわそわしたまま立っていた。
「ソフィア先輩、私が退室するのを待ってらしたんですか?」
「あーね、シルビアちゃん。アンドレ先生の好きなお菓子これで有ってるかな、……その自身無くなっちゃって、確認したくて待ってたんだ、アハハ……」
「あっ、ごめんなさい、私が邪魔をしてしまったでしょうか。これからは兄の研究室にはできるだけ近づかないほうが良かったですか?」
「あー、ないない、それはない。というかむしろ来てほしいっていうか、その、先生は私のことなんか言ってました? その、なんでもいいですから」
ソフィア先輩も案外へなちょこだった、でも、微笑ましいと思った。この人なら義姉さんと呼んでもいい。いや義姉さんになってもらわなくちゃ。
応援しよう、心の底からそう思ったのだった。




