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第98話 シスタークロエ

 竜王教会大聖堂の隣に併設された孤児院。

 ここには保護した子供たちが生活している大部屋とは別に。

 シスターが住んでいる、小部屋がある。

 国からの支援で成り立っているため必然的に書類仕事が多い。


 普段なら机の上には大量の書類が積まれているのだが、今は部屋中に散らばっている。

 まるで泥棒が入った後のように家具や衣類なども散らかっている。 

 もちろん泥棒のせいではない。この部屋の主であるクロエが感情に任せて散らかしていたのだ。

 

「きもいきもいきもいぃぃ! 男が私を見た! いやらしい目でみた、消毒しなければ」


 クロエは頭を掻きむしりながら棚から薬の瓶をとりだし。無造作に数粒取り出すとそれを飲み込む。

 

「シスター大丈夫ですか? 少し横になられたら」


 もう一人のシスターがクロエの背中をさすると、少し落ち着きを取り戻した。


「……大丈夫よ、そうだ、祈りを捧げないと、身体を浄化しないと。おのれ、冒険者ギルドの連中、次は女性だけでボランティアをよこせと散々言ってたのに! あの受付の女、女のくせに、これだから男に媚を売る女は!」


 竜王教会は保護した少女の孤児院も兼ねており男子禁制の教会になっている。

 住んでいる少女たちが男性に強いトラウマを持っているためである。

 それにクロエ自身も過去につらい経験があるためだ。


 だが荷物の運搬には女性は向かないため、冒険者ギルドとしては善処するといったあいまいな返答しかしない。

 それが余計にクロエを不愉快にさせた。


「シスタークロエ、ロクサーヌ様がいらっしゃいましたがどうしますか?」


 クロエはもともと孤児だった。彼女が幼いころに娼婦だった母親は、アルコール中毒の父親になぐられて死んでしまった。

 父親はどこかに逃亡しており、身寄りのないクロエは夜の街をさまよい、娼館の主であるロクサーヌに拾われたのだ。


 ロクサーヌは部屋に入ると散らかった部屋を見ると優しく微笑んだ。


「クロエ、相変わらずね、まだ男性は苦手かしら」


「ロクサーヌ様、お見苦しいところを。ですが、やはり男は獣です。それは子供だって同じ、獣の子は獣ですから」


「ふふ、それはもっともね、ところで、孤児の子たちの顔を見せてくれるかしら、今年で16才になる子は何人いるのかしら」


「はい、3人です、彼女たちは立派に育ちました。全てロクサーヌ様の支援のおかげです」


「それはあなたが頑張っているからよ、彼女達のことは私に任せなさい。好待遇な仕事を約束するわ、子供たちが自立できるのはあなたのおかげ、きっと感謝してるでしょう」


 ロクサーヌのいう好待遇の仕事とはもちろん娼婦である。

 しかしクロエは知らない、いや知っていても彼女には何もできないのだ。

 それに少なくない支援を彼女自身も受けているため今さら何もできない。


 クロエ自身も結局は同じ穴のムジナということだ。


「そういえばクロエ、マクシミリアン様は貴方のことを特別に褒めていらしたわ、直に昇格の話もあるでしょうね、頑張りなさい」


「司教様が? そういえば最近司教様はいろいろと忙しいご様子ですね。この間は多くの支部の方々と打ち合わせをしておりました」


「ええ、そうよ、最近、我々を妨害する者たちがいるようでね。だから貴方もこれからは中枢での仕事を頑張ってほしいと思っているのかもしれないわね」


 ◆


 竜王教会司教マクシミリアン


 彼は、ドラゴンの街タートルロックに訪れていた。

 公な目的は竜王教会支部の視察ということである。


 タートルロック支部はドラゴンの聖地ということで、様々な観光産業で他の支部に比べて表向きに使える資金が潤沢である。

 だからか、教会自体も観光名所となっており。信徒以外にも一般公開されている。


 建物の外観は石造りのアーチが特徴的な巨大な大聖堂である。

 そこには多くの観光客が長蛇の列を作っている。人気スポットのひとつだ。


 しかし、マクシミリアンは大聖堂の入り口には向かわずに裏口から地下室へ入る。


 螺旋階段は金属で出来ており、実用性のみの飾りのないその階段は、外の装飾華美な大聖堂とは対照的で異質な雰囲気を醸し出している。

 10メートル以上はあるかと思われる階段を降りると、そこには竜王教会のタートルロック支部の支部長が待っていた。


「これは司教様、先日はそちらに伺えず失礼しました。それにわざわざご自身で確認にこられるとは恐縮の極みです」


「なに、研究が佳境に入っていると聞いては足を運ばずにはいられん。それにここには多額の金がつぎ込まれているからな、この目で見ておかねば」


「は、ではさっそくですが、案内いたします」


 大聖堂の地下には上の建物よりもはるかに巨大な地下空間が作られていた。

 そこには大小さまざまな魔道具が並んでいる。

 いずれも現代の魔法技術では再現できないものばかりだ。

 数十年かけて世界中からかき集めた魔道具である。

 購入したもの、盗賊団に依頼して盗んだものさまざまである。

 

 その古代の魔道具に向かって、多数の魔法使いや研究者が集まり忙しく働いている。


「主任! マクシミリアン司教がお見えだ。少し時間をくれ」


「は、支部長。これは司教様、ようこそ。私が竜王復活計画の主任のイワノフと申します。お見知りおきを」


「うむ、ではさっそくアレの進捗を見せてもらおうか」


 マクシミリアンはそういうと上を見上げた。

 様々な魔道具の中でも別格に大きな物体が鎮座していた。


 金属の鎧をまとった巨大なドラゴンである。

 考古学者であった竜王教会の教祖が発見し、彼の弟子たちが極秘に発掘したドラゴンの化石。

 しかし、それは決して石にはなっていなかった。

 代を重ねるごとに竜王教会という宗教は大きくなっていった。

 それに伴い、優秀な魔法使いの調査もあり、ドラゴンはまだ生きているという結論に達した。


 古代の魔道具のいくつかはこのドラゴンの鎧の一部であったり、武器であることも分かってきた。

 しかし、ネクロマンサー曰く、このドラゴンには魂がないとのこと。

 正確には魂が宿るとされる心臓が無いのだ、その部分には人が一人入れる謎の空間がある。

 研究者はそこに何らかの魔道具を入れる必要があるのではとの疑問を持つに至った。


 時が経ち、現司教のマクシミリアンの時代になると。

 ネクロマンサーと研究者たちは偶然発掘した古代の文献の解読を終えた。


 文献によるとドラゴンを復活させるにはドラゴンの魂の代替品である、魂のコアとなる魔道具の作成が必須なのだと。


 マクシミリアンは確信している、我々の代で竜王は復活すると。

 イワノフは一通りの報告を終えると、マクシミリアンに質問をした。

「それで、司教様、ドラゴンコアとなる素体の方は順調でしょうか?」


「問題ない、今は本部にて竜化の儀式を行っている。失敗は続いているが完成度は日に日に増している。あとは、時間の問題であろう、さすれば竜王の復活と我らの悲願がかなうだろう」

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