第97話 アンドレ・ベルナドット
魔法学院魔法学科教諭。
シルビア・ベルナドットの兄であり、元々は公的機関の研究員だったが、現在は魔法学院で教鞭を執っている。
後々には公爵である父親から家督を継ぎ、議会議員として将来を約束されているスーパーエリートである。
魔法学科は一年と二年の基本的な魔法に関しての座学と演習が主な内容となっている。
三年は実戦訓練がメインとなるので座学自体はない、もちろん個別の指導は生徒が希望すればその限りではない。その場合は四年生の学生も指導に回る。
四年生はこの学院に残り、研究職か教員を目指す生徒たちのみで基本的には三年生で卒業する生徒が大半である。
「ベルナドット先生、妹さんは進級はしないそうですね、少し残念ではないですか? 彼女の才能は後進の為に発揮してほしいものですが」
アンドレに話しかけるのは、四年生の生徒で、アンドレの研究室の助手として、彼の仕事の手伝いをしている。
「ふぅ、私もそうなるだろうと思っていたのだがな。しかし、彼女を籠の鳥にするのも、それは違う。彼女の意思を尊重しよう」
アンドレとしては、教師になるか、あるいは良家の嫁として公爵家の地位を盤石にしてほしいと思っていたが。
「まあ、それも時代遅れと言わざるを得ないか……」
「先生、なにか言いましたか?」
「いや、なに、女性の権利について考えることがあってな。結婚の在り方ひとつとってもまだまだ世間は保守的なのだなと痛感したんだよ。私にはまだ力はないが、議会に女性の地位向上を訴えたところだよ」
アンドレはユーギ・モガミという異国の生徒に対して何も反論できなかった。
そう、議論する立場にないのだと自分の勉強不足を恥じたのだった。
「先生……、いつからフェミニストになったんですか? 正直いいますけど、その思想、女の私としても余りいい印象がないというか、ドン引きなんですけど……」
「ん? なぜ君がそこまで拒絶するのだ。女性の権利向上だぞ? 当然のことではないのか?」
「いやいや、今でも普通に自由にやらせてもらってますよ、これ以上の権利を求めたら逆に女性が圧倒的な強者になってしまいます。
まあ、この国が王国だったころはそうかもしれませんが、共和国になってからは男尊女卑なんてないと言えますよ? むしろ女性の方がしたたかに生きている印象すらあります。
問題は男女にかかわらず、貧困のせいで今も搾取される弱者の救済に尽力すべきですよ。
先生はこの国の貧困街についてもう少し関心を持たれた方がいいと思いますよ?
たしかに、その場所は未だに旧時代的な搾取が行われているように思いますので」
「ふむ、なるほど、君は社会学に詳しいようだ。今度時間を取るから研究室の皆で勉強会でもお願いできないかな?」
「ええ、それは問題ありません、が!」
「が? なにか都合が悪いのか」
「はぁ、私の名前くらい覚えてくださいよ。女性の権利向上とか、そんなぼんやりとした目標の前に、目の前の一人の女性にもっと関心を持ってください」
「ああ、すまん、それは失礼した。えっと……ミス・グスタフソン」
「先生……ソフィアですって、もう、ほんと肝心なところが抜けてるんですから」
◆
ドラゴンヘッド盗賊団。
かつては凶悪犯罪者の集団として名をはせた盗賊集団だったが。
冒険者ギルドによる大規模な殲滅作戦の結果、壊滅した経緯がある。
しかし、団長をはじめとした幹部の数名は逃げており、未だに指名手配中である。
その後はどこかに身をひそめているのか、あるいは内部分裂で解散したのか。
彼らによる事件はぱったりと亡くなったため存在自体が疑問視されるようになり数年がたっていた。
現在の彼らは特定のアジトをもたず、現在では表の仕事として、貧困街の見回りなどの治安維持など率先して行っている。
治安を守る代わりに店から報酬を受け取るというビジネスモデルである。
ある娼館の一室にドラゴンヘッドの団長とその配下たちが集まる。
「団長、今回のターゲットは公爵家の御曹司ですかい?」
「そうだ、ここで教団に大きな恩を売っておくのも悪くないと思ってな、お前達、腕は鈍っていないな?」
「はは、どうでしょうね、すっかりなまっちまってしまったかもですぜ、誰か殺せばまた研ぎ澄まされるんですがね」
「そうねぇ、アタシらすっかりご無沙汰で、欲求不満だわ。その貴族の坊ちゃんはイケメンだと聞いたから、わくわくしちゃう、いったいどんな声で鳴くのかしら」
「その通りだ、で、団長、殺しは解禁ってことでいいんですね?」
「ああ、そうだ、狙えたら各自の責任においてやれ、共闘するもよし。だが、わかってるな? 組織の足がつくような真似はするな」
「わかってますわ、決して徒党を組まず、各自単独犯として行う。捕まったらそれは自己責任ってことで、それで今回はアタシらだけですか?」
「いや、バンデルの旦那も独自に動いている、魔法学院をターゲットにしているようだ。運悪く巻き込まれて死にたくなければ学院への襲撃はやめたほうが身のためだ、俺からは以上だ」




