第92話 カルト
アンネさんは竜王教会とは無関係だった。
しかしその影は確実にある。一度疑いだすといろんなものが見えてくるのだ。
たしかに奴らの活動は静かに広がりつつあるようだ。
アンネさんが病院に言った際には、竜王教会がシングルマザーや望まぬ出産をした若い女性の支援をすると勧誘に来たそうだ。
アンネさんの場合は家が裕福だし、なにより望んでそうなったので、その誘いは断ったそうだが、それでも宗教の勧誘のパンフレットを受け取っていたようだ。
ふむ、あやしい、事前に情報をもらってなければ何も違和感を持たなかっただろう。
宗教とは恐ろしいな。善行を隠れ蓑に何をしてるかわからない。
うーむ、日本でもこういうのあったなぁ、そういうのをカルトっていうんだ。
「アンネさんおめでとー、ご両親はなんて言ってたのかしら」
「ありがとう、それはもう大喜びで、母なんかは一歳の弟のまえで、貴方は来年からおじさんになるのよーって言ってたかしら」
うむ相変わらず親子の仲が良くてなによりだ。
しかし冷静に考えると凄い話だ。皆さん手放しでよろこんでいるが、学生結婚は日本じゃちょっとした事件だぞ。
いや、この世界でも結構な事だと思うが、しかし、この二人は既に婚姻届はだしてある。
結婚式は挙げなくていいのか? と聞いても「え? 結婚式って赤ちゃんが出来てからするんじゃないの?」
と聞き返された。そうなのか? シルビアさんに聞いたら違うそうだ。
どうやら彼女の両親がそうだったから自然とそれが普通なのだと思い込んでいたらしい。
つまり彼女らにとっては普通のことでなにも問題ない。
しかしそれでも、学生で妊娠するなんてな、いやアンネさんも今年で18才だし大人といえばそうなんだが。
それにしても皆ぼかしてるが妊娠してるってことはつまり。それをしたということだ。
「あはは、君達いったい、いつやってたんだい? 僕ら寮生活だっていうのに、まさか図書館で勉強と称して夜のお勉強してたんじゃないだろうね?」
ユーギ、聞きにくいことをぐいぐいと。いやこの場合は皆さん興味津々なのだろう。だれもユーギを咎めない。
「いいえ、ちゃんと週末のデートの時に宿を借りました。図書館ではそんなことはしません。……あ、そういえば消音の魔法の練習の後にちょっとだけ……」
ドルフ君はこの会話で真っ赤になっている。いや、まあ昼間からそんなドストレートな話は俺も引くけど。
まったくうらやましい限りだ。
ん? 図書館でいたしてたのか? これは俺も少し許せんぞ。
(私も気づきませんでした。しかし消音魔法は完璧にマスターしたようで何よりですね)
「ねえ、アンネ、そのどうだったの? その、痛いの? 初めてのときとか」
「あら、ローゼ、貴方はカールとまだだったの?」
「ええ、その、彼のはちょっとまだダメみたいで、そのトラウマというかなんかそういう感情になると、思い出すらしくって……」
昼間っからまあ、猥談で盛り上がるものだ。リア充とはこういう物なのかもしれない。知らんけど。
しかしカール氏のあれはダメなのか。まったく、せっかくくっついたというのにトラウマってなんだよ。
股間に鉄砲でもくらったか? あ、俺が撃ち込んでやったのだった。
本当にすまないと思ってる。なんてな。
俺達の会話に聞き耳を立てていたのだろう、カール氏は同じく気まずさに悶えているドルフ君に声を駆けると立ち去ろうとしていた。
だがユーギがそれを見つけると逃がさぬと言わんばかりにカール氏に話を振る。
「おやおや、ローゼちゃんのナイスバディを見て、アレ立たぬとは、失礼な男だ。イーディーってやつかい、そういえば去年は僕の裸を見ても無反応だったな。君、それはまずいぞ、ぶふっ!」
ユーギが大声で喋ってしまった。
おい、はしたない、それにカール氏の恥部が周囲にばれてしまったじゃないか。
「う、うるさい、僕のせいじゃないぞ! それに時間の問題なんだ。その、そういう雰囲気があれば俺だってやってやるさ、俺だって男だぞ!」
おい、それはローゼさんが悪いみたいな感じになってるぞ? 修羅場は勘弁してくれ。
「ふーん、なるほど、ローゼちゃんに魅力がないと? 冗談はよしておくれよ。
っと、そうだねぇ、でもそれは一理あるかも。よし、なら僕が奥手なローゼちゃんに色々と技術を授けようじゃないか。僕はいろんな技を知ってるんだよ」
いつの間にやらローゼさんに飛び火した。可哀そうに、ローゼさんはうつむいている。
「……その、教えてください。その、いろんな技を」
「よし、なら、さっそく今から図書館に行こうか、ハンス君、君も付き合ってくれたまえ、ほら、相手がいないと教えられないだろう?」
「おい、ユーギ! 図書館をそんなことにつかうな! お前は図書委員だろう、それに今はその話は後にしてくれ」
どうも話がずれてしまった。とりあえずアンネさんが貰ったという竜王教会のパンフレットについて調べるのが先だ。




