第39話 不死の万能兵士との闘い
遠くで何かの爆発音が聞こえる。
普段は静寂な森に、遠くから聞こえる爆発音が反響しより不気味さを増した。残された者たちは息を呑む。
彼らはこの音を初めて聞いた。似ている音でいえばお祭りのシーズンに大道芸人が使う花火に近いだろうか。
そして耳鳴りのような高音と、ブーンという巨大な生き物のような咆哮が周りに響く。
「ドルフ、あれを見て、アールさんのドラゴンよ」
アンネは治癒の魔法で回復し意識を取り戻したドルフに膝枕のままの状態で話しかける。
「いや、ドラゴンって伝説の生き物で実際はいないんじゃなかった? 勇者の物語にでてくるお供のドラゴンの話」
ドルフがそう言うとハンスはそれに答える。
「あれがアールさんの言ってた故郷から呼んだ援軍なのか。もの凄い音だね、彼女は本当に勇者なのかもしれない」
シルビアは空を自由に飛び回り、時折、火炎を吐くドラゴンを見ながら。
「アール、本当に勇者様だったの?」
現実的には5000年前の伝説の勇者が、いつも一緒にいた少女だったなんて信じられないだろう。
しかし、目の前の事実がそれを肯定してしまっている。
シルビアはそのことに頭を悩ませているが。今はそれどころではないと気持ちを切り替える。
逃げることを考えないといけないのだ、未だにこの場所はネクロマンサーのテリトリー内なのだから。
「ひっ、だれだ!」
カールは森に向かって叫ぶ。
人間、いや違う。バンデルの召喚したアンデッド【不死の万能兵士】だ。
一体だけしかいないが、それで彼らを殺すのに十分だとバンデルは判断したのである。
それに今はアールに戦力を集中させる必要があるためでもある。
「ドルフ、動けるかい」
「ああ、俺とハンスで前衛をやろう、アンネとシルビアさんは後衛だ、カール、君はどうする? つらいなら無理に戦う必要はないよ」
ドルフは立ち上がり、アンデッドに近寄る。
「だ、大丈夫だ。 僕だってこの状況で何もしないなんて、そんな卑怯者になりたくない。それにローゼに嫌われてしまうからな」
「よし、さすがはカールだ。皆もいいね! いくよ、支援魔法を皆に掛ける、マイト、シールド、ヘイスト」
ハンスは全員に支援魔法を掛けるとドルフのやや後につく。
ドルフは魔法使いというよりは魔法で肉体強化をする接近戦が得意であるため。彼が直接アンデッドに対峙し。
支援魔法が得意なハンスがそのやや後方でサポートするポジションである。
アンネは回復魔法に専念し。カールとシルビアは隙を伺いつつ攻撃魔法を仕掛ける。
アンデッドは彼らが準備を整えるのを待っているようなそぶりを見せる。彼らを甘く見ているのか、直立不動なのだ。
アンデッドに感情はないはずなのに。
先ほどのスケルトンメイジですら言葉は発してもそれは機械的で感情はみられなかった。
しかし目の前のアンデッドには感情があるかのように思えた。
以前アールはこのアンデッドをユニソルと呼んでおり。その特徴を詳細に話してくれたことがあった。
ユニソルとは超人的な身体能力を持ったゾンビであり。火が弱点という特徴は他のアンデッドと同じであるが。
生きた肉体は殴打に高い耐性を持っており刺突や斬撃はすぐに再生してしまう特徴がある。
感情はないが生前の記憶の残滓というか、本能的なものは残っているのだという、例えば戦闘経験がそれにあたる。
つまり強者としてのプライドが不意打ちという最も効率的な手段を本能的に否定しているのだろう。
ドルフが近接戦闘の構えをとると相手はそれに答えるように同じ構えをとった。
「前回は見事に蹴られて気を失ってしまった。だが、あれから俺はもっと強くなった、甘く見ない方がいいぜ」
相手は答えない。
しかし突き出した右手の拳を開き、手の平を内側に向けて手招きの動作をした。
あまりの人間味のある動作にドルフは一瞬沈黙した。だが。
「なめるなよ!」
ドルフは挑発されたと思ったのかユニソルに勢いよく殴りかかる。
ドルフの拳が、ユニソルの顔面を殴る。が、その手前で腕をとられて投げ飛ばされてしまう。
ユニソルは地面にたたきつけた状態でとどめを刺すべく下段突きの構えをとる。
「させるか、エアーインパクト!」
ハンスは風の魔法による衝撃波で相手を吹き飛ばす。
「ファイアーボール!」
シルビアとカールが同時にファイアーボールを放つ。
完璧なコンビネーションで敵は炎に包まれた。
「やったか!」
カールがそういうと。全員が彼を睨みつけた。それは言ってはいけないセリフだと以前アールから教えられたのを皆、思い出したからだ。
「ご、ごめん、でも今のは完璧だったよね」
燃え盛る炎に包まれた人影は地面にうずくまり動かなくなった。
やがて炎は収まり、黒焦げになった死体はその場にとどまっている。
「ね、ねえ、シルビアさん。アンデッドって倒したら消えるんじゃなかったっけ……」
「そのはずだけど、こんなのは初めて見るわ」
シルビアは死体に近づこうとする。
瞬間、死体は、立ち上がりシルビアに襲い掛かる。
「あぶない!」
腹部に手が突き刺さった。ユニソルは腹部から手を引き抜くと身体を回転させて蹴りを放つ。
「…………グハ!」
「そんな、カール! どうして私をかばったの!」
「はは、これで許してくれると嬉しいな、ローゼにはもう許してもらえないから。せめて君だけでも……」
「喋らないで! 治癒魔法を」
シルビアは動揺した。自分のせいでクラスメイトを死なせてしまうかもしれないということに罪悪感を覚えた。
「アール、私はどうしたら」
ユニソルはカールを蹴飛ばした位置から動いていない。傷を回復しているのだろうか。
全身やけどの状態であったが、蒸気を上げながら、徐々に傷が塞がっている。
火炎が聞かないアンデッドの倒し方なんて、ましてやターンアンデッドは効かないだろう。
バンデル先生は自分よりもはるかに高位の魔法使いだ。
その時シルビアはアールから預かっている拳銃を思い出した。
中には麻酔弾ではなく特殊な火炎弾が入っていると言っていた。これなら倒せるかもしれない。
シルビアは拳銃を構えると敵に向かって発砲した。
ババババと連続して発射したが銃身がぶれてうまく当たらない。
外れた弾は敵の上側にそれて骨の壁に命中する。青白い炎が上がり骨の壁の一つが崩れ落ちた。
ユニソルはその威力を危険だと察知したのか、シルビアめがけて突進してきた。
シルビアはアールに説明をされたように拳銃のセレクターをセミオートに切り替える。
間一髪、発砲した一発は突き出した拳に命中しそのまま肩を吹き飛ばした。肩から先は青白い炎を上げて消失した。
しかしユニソルはそれに構わずもう片方の手で、シルビアに刺突を仕掛ける。
間一髪でドルフがユニソルの腕を取り投げ飛ばす。
「これでお相子だ、サドンデスといこうじゃないか」
ドルフは手の平を内側にして手招きをした。
ユニソルはそれに答えるようにドルフに対峙する。
「僕も忘れてもらっては困るな」
ハンスはナイフを抜くとドルフと対角の位置に立つ。
…………。
シルビアは絶句した。
ユニソルは片腕をなくしているのに二人相手に互角に戦っているのだ。
片腕でハンスのナイフをさばきながら、ドルフには片足で相手をしている。
シルビアは拳銃で狙いを定めようとしても射線にハンスかドルフが入ってしまい攻撃ができない。
しかも数回射撃のチャンスがあったが、軽く身体をひねってよけられてしまう。
「こんなに強いなんて。どうにかして動きを止めなければ……」
シルビアは辺りを見回す。先ほど銃弾が当たって崩れた骨の壁の一部が槍のようにとがっていた。
「……!」
シルビアは拳銃をフルオートに切り替え。ユニソルから一番近い骨の壁に向けて横なぎに射撃した。
「シルビア何を!」
骨の壁を構成している数本の骨の柱が崩れる。根元の部分の断面は不ぞろいで目の粗いノコギリのようになっていた。
「ハンス! ドルフ! あれにぶつけるの!」
二人はすぐに理解した。
ハンスはナイフをユニソルの顔面に投げつける。ユニソルはそれを片手で払うが、
その一瞬の隙にドルフはローリングソバットを放つ。
隙だらけの腹部にくらったユニソルはバランスを崩し後ろに仰け反るが、あと一歩のところで踏ん張る。
「エアーインパクト!」
カールが起き上がり最後の一押しをした。
風の魔法で吹き飛んだユニソルは後ろにある崩れた骨の壁に背中から倒れた。
とがった骨が背中から突き刺さり、腹部から胸部にかけていくつもの骨が先端をのぞかせている。
ユニソルは何事もなかったかのように立ち上がろうとするが。刺さった骨が抜けずにもがいている。
「これで最後よ」
素早くマガジン交換をしたシルビアは至近距離からフルオート射撃をする。
青白い炎を上げながら。ユニソルは今度こそ完全消滅した。
「やったわ」
カールはぎょっとした。
「大丈夫よ、アールがくれた武器ですもの完全に消滅したに決まってるじゃない。それにあなたのことは許してあげる。でなきゃローゼに叱られちゃうわ」
カールはほっとした顔をすると地面に崩れ落ちた。腹部から血を流している。
完全に治ってないのに無理をしたのだろう。アンネは急いで回復魔法を続けた。
シルビアは遠くの空を見つめる。なにも見えないが、遠くからはまだ戦闘しているのだろうか爆発音が響いていた。
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