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第36話 ネクロマンサー


 バンデル先生の屋敷は随分と山奥にあった。


 近くの街まで馬車で休まず走ったとして半日はかかるだろうかという距離である。



 俺たちは乗り合い馬車から降りると最短の街で情報収集をすることにした。


 得られた情報によるとバンデル先生の実家は随分前に領地の統治権を譲渡しており、誰とも交流を持っていないとのことだった。


 今では誰も近づかない幽霊屋敷としてうわさ話になる程らしい。



 それでも数人の使用人はいたようでたまに街にやってきて買い物などをしているのは確認できたそうだ。



 しかし、その使用人も最近になって暇をもらったといって次の雇用先を探すために街から出ていったそうだ。


 いよいよ怪しいな。



 とりあえずはこの街で一泊して翌日、早朝に出かけることにした。


 


「やっぱりおかしいよ。結婚したんだよね。なんで使用人をクビにしたんだろう。さすがにローゼを使用人にしようなんて思ってないだろうし」


 バンデル家の敷地内に向かいながらカール氏は言った。



「さすがに二人きりになりたいからって理由でも大げさよね」


「でも僕なら少し理解できるかも。アンネとは二人きりで居たいって思うよ」


 二人だけの空間で会話が盛り上がっている……少しは自重してほしいものだ。



 しかし今回はカール氏に同意である。新婚で二人きりで過ごしたいという理由にしては極端すぎるだろう。



 それにいくら辺境とはいえ、ここまで人を避けて暮らす必要があるだろうか。


 乗り合い馬車から降りて、しばらく歩くと森の奥深くににバンデル家の邸宅が見えた。


 中流貴族で辺境にあるためか敷地は結構広い。建物も最近まで使用人がいたそうなので綺麗なものである。


 だが違和感がある……。


 いないはずの使用人が数人いるのだ、いや、あれはアンデッド? ゾンビだ。動きに意味がなくうろうろと庭を徘徊している。


 その中心にスケルトン? ローブを着ている。おそらく魔法使い系のアンデッド、スケルトンメイジというやつだろう。



 そのスケルトンメイジは俺達を見つけると喋りだした。


「我が名はバンデル。エリック・バンデルである。我が屋敷に侵入する者は誰であろうと許されない」


 あれはなんだ。バンデルと名乗った。


 いやそれよりもマズい、言葉を話すアンデッドは高位の存在である。


 それにゾンビが次々と地面から這い出てきて俺たちに向かってきたのだ。


 突然の出来事に皆、硬直している。まずいな。



「止まれ!」


 決して大きくはないがはっきりと響く声が邸宅の奥から聞こえてきた。


 その声でアンデッドたちは動きを止め、左右に分かれるとその中心からバンデル先生が歩いてきた。



「先生! どういうことなんですか! ローゼはどこに、ローゼに合わせてください!」


「カール・グスタフソンか、君は彼女の幼馴染だったか。それに君たちとは仲が良かったな。……すまない、ローゼは死んだよ」


「うそだ! 僕たちが邪魔だからってそんなこと言わなくても、一目会いたいだけなんだ!」


 カールが大声を上げている。他のみんなは彼とバンデル先生とのやり取りを黙ってみていた。


 表情を見るに混乱しており何が起こっているのか理解できていない様子だ。


 俺だってそうだ、事態は予想していたよりも最悪な状況だったのだ。



「嘘じゃないさ、僕は嘘が一番嫌いだ。嘘は我が一族の存在だけで充分なのだから」


 たしかに先生は嘘をついたことがない。この場所だって先生本人に聞いたのだ。


「今ここを離れれば見逃してやる。それから、君たちは学院に戻らない方がいいだろう、そうだな出来ればどこか遠くの国に逃げるといい」


「ふ、ふざけるな、お前がローゼを幸せにするなら俺は大人しく身を引こうとしたんだ」


 カールは我を忘れている。アンデッドの大軍がいるネクロマンサーの領域に足を踏み込むことの意味を知っているはずなのに。


「ばか、敷地内にはいるな」


 バンデル先生の側にいたスケルトンメイジが再びしゃべりだす。



「我が名はバンデル。エリック・バンデルである。我が屋敷に侵入する者は誰であろうと許されない」


 先ほどと同じ言葉を繰り返している、知性があるようには思えないがあれは領域に侵入すると反応するタイプのアンデッドということだろうか。


 カールは怒りに任せての攻撃魔法を連続で放つ。


「ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール!」


 ファイアーボールはアンデッドに有効な魔法だ。周囲のゾンビは炎に包まれて消滅しているが、目の前のスケルトンメイジには効果がない。


 カールは次の魔法の準備に入る。


「ターンアンデッド!」


 驚いた。半年前には使えなかったターンアンデッドを彼は詠唱省略で使えるようになっていた。努力したのだろう。


 光りがスケルトンメイジを包み込む。ターンアンデッドの光でアンデッドはそのまま消失する、はずだった。


「ボーンスピアー」


 スケルトンメイジは何事もなかったかのように魔法を発動させる。肋骨のような鋭い骨が地面から飛び出しカールの胸に突き刺さった。


「ぐは! ……そんな、失敗したのか」


 ドルフ君が急いでカールを救出しアンネさんは回復魔法を掛ける。


「いや、成功だ、だが格上のネクロマンサーの使役するアンデッドにその魔法は悪手だと教えたはずだぞ。我を忘れるとは魔法使いとしては失格だ。

 ……いや、すまない。ローゼを殺してしまったのだった、ならばお前たちにこの悲しみを味合わせるのは酷というものか。僕はまだいい人であろうなどと……

 愚かだ、実に愚かだ。ふ、馬鹿馬鹿しい。愚かだな――――」


 バンデル先生の様子がおかしい。何者かに話しかけるように空に向かって言葉を発している。


「いったん逃げよう、少し離れればアンデッドは追ってこないはずだ、……シルビア!」


 シルビアさんは放心状態だった。俺もこの状況をある程度予想していなかったらおんなじ状態だっただろう。


 彼女もバンデル先生とは一緒に図書館で何度も会話をしていたのだ。魔法についての相談なんかもしていた。


「――え? ええ、……そうね今は逃げましょう」

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