第29話 ダンスパーティー
ダンスがはじまる。
そうだ始まってしまった、俺はダンスが好きじゃない。
男と踊るのは正直ちょっと…… と思っていたら。一年生のみんなはそれぞれの仲良しグループでいつもの授業のように踊っていた。
ああ、そうかここは社交界ではないのだ。あくまで楽しむためのパーティーである。
別に全員がパートナーを作る必要はないのだ。
踊りたい人が踊ればいいのである。
もちろん、それでも勇気ある男子は、女子のグループに入っていってダンスの申し込みをしている。
お互い赤くなっているのを見ると実にほっこりする。これが学園恋愛というものだろう。
ローゼさんは負のオーラをまとっていた。そうだった、キャンプでいい感じになった二人はここでお互いの気持ちを確認するのだそうだ。
彼女のお父さんは、ここでお母さんにプロポーズをしたそうだ。
「ローゼさん、黒い、黒いオーラがだだ洩れ」
「は! 私ったら……はしたない」
はしたないというか怖かったよ。でも、そうだな、みんなで楽しめばいいのだ。
俺たち4人組は交代でパートナーを入れ替えて、男性パート女性パートを交互に踊った。
それだけで一時間くらいは過ぎただろう。
端には、カール氏がこちらをみている。俺ではない、シルビアさんでもない。ローゼさんだ。
ち、次のターゲットはローゼさんか? だが俺がどうこうする問題でもないし、お節介も焼く必要はない。
堂々と申し込めばいいのだ。それでローゼさんがいいといったら応援するだけだ。もしまた強引な手段にでたら鉛弾をくらわすのみ。
それに二人は幼馴染だったのだろう? 多分、というか俺の憶測だが彼の恋愛対象はずっとローゼさんだったように思える。
今にしてみれば、シルビアさんに冷たかったのも周りに見境なく声をかけていたのも、ローゼさんに見てもらいたかったといったとこだろうか。
面倒くさいやつだ。それが許されるのは思春期の男子までだぞ。いや、そうだったな、まだ彼は16才だったか。でも酒癖の悪さは直しとかないとな。
「シルビアさん、これは素敵だね。見違えたよ。で、お楽しみのところ申し訳ないんだけど、そろそろ僕達ともお話してくれると嬉しいな」
ナンパ野郎かと思ったらそうじゃない、生徒会の皆様だ。このパーティーの功労者達である。
俺は生徒会なんて大人の雑用係だとか散々ディスってたから申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
皆さん美男美女でいらっしゃる。キラキラオーラが見えてきそうだ。もちろんシルビアさんが一番だが。
「じゃ、シルビアここでいったん解散しよう。私たちもちょっと周りを見てくるから」
「おや、君が噂のアールさんだね。見事シルビアさんを射止めた謎のご令嬢。僕達、生徒会にとっては今年一番の関心ごとだよ」
む、このイケメン生徒会長、俺について何か知ってるのか? これは警戒レベルを上げておかないと。
「ご、ごめん、アールについて毎日話してたらいつの間にかこんなことに……」
犯人はシルビアさんか。警戒レベルは解除だ。
「ほんとほんと、毎日ね、私も恋しちゃうくらい語ってたわね」
この綺麗なお姉さんは副会長だろうか。なるほど生徒会は顔面偏差値で決めているのだろうか疑いたくなるくらいのキラキラ具合だ。
おっと、挨拶しとかないと。
「シルビアがお世話になっています。これからもシルビアをよろしくお願いします」
なんだそれは、お母さんか。まあ初対面相手ではまだこうなる。逆に初対面でペラペラしゃべれるやつがおかしいのだ。
「うん、シルビアさんの言ってた通りの人だね。こちらこそよろしく、あと、たまには生徒会にも来てくれると嬉しいな」
生徒会か、少しだけ考えておこうか、見学くらいならね。
シルビアさんは生徒会の皆様と一緒に挨拶周りをしに行った。大人の雑用係といって悪かった。彼らは大人だ。もう社交界の人間といっていいだろう。
招いた音楽隊の人たちや教授たち、それと、誰だろう知らない大人たちに挨拶して周っていたのだ。
「あの、アンネさん、その、もしよかったら次のダンスのお相手になってくれますでしょうか?」
おや、俺たちを見ていたもうひとりの男子、ドルフ君だな、前回のキャンプでフラグが立っていたな。
その隣にカール氏、うん? 俺を見てる? 彼を見返すと「ひっ!」と失礼な態度を見せる。
ああ、カール氏が怖いのはローゼさんではなく俺だったか。やれやれだぜ。たかが第三の足とその他いろんな箇所に弾丸をお見舞いしただけだというのに。
……ごめん、俺も悪かったよ。
「アンネさんローゼさん。私、少し外を見てくるね。あとローゼさんは何かあったら報告よろしくね。例のアレは持ってきてるから」
アンネさんはいいだろう。ドルフ君はいい男だ。唯一問題といえば彼は平民だというだけだし。卒業したら準貴族になるだろう何も問題ない。
ご両親はやんちゃだったがアンネさんは落ち着いている。流石に両親と同じ過ちは犯さないだろう。いや過ちと言ったらアンネさんに失礼だ。
問題はローゼさんの方だろう。カール氏は頑張れるのか、ドルフ君の後ろに隠れている態度はいただけない。あ、それは俺がいたからか。
まあ、お節介、お節介がすぎるな。
そう思いながら。グラスを2つと、ワインの入ったボトルを持ち出して外に出た。
誰もいない学院の庭園。ひょっとしたら茂みでこそこそしている破廉恥なやつらがいるかと思ったがいないようで安心した。
「さて、ロボさんお疲れ様」
俺は、2つのグラスにワインを注ぐ。
(おや、マスターめずらしくロマンチックなことを思いつきましたね)
「そういうな。俺は君に感謝しているんだ。それにやっぱり申し訳ないと思うんだよ。俺が幸せな時間を送るってことは君の幸せな時間を奪っているんだ」
(で、ちょっとおセンチになっているということですか?)
「うーん、相変わらずの言い方。君は変わらないね」
(それでも変わりました。マスターは私の時間を奪っていると言いましたが、マスターは私に5000年の時間をくれたのです)
「変わったか、そうだな君は随分と感情豊かになった。でも基本はそのままだ、結構きつめの言動とか……」
(はい、でもまさか私が結婚をするとはあの時は思いませんでした。私はマスターが亡くなるまでの命だと思っていたのですから……)
俺は少年、魔王の人生を心配していた。俺がロボットを作ったのはもちろん俺の生活の補助の為だったが。彼のその後の為に半永久的な寿命をこの身体に持たせた。
マスター権限も少年に譲渡して……。でもその心配は無駄だったというか、まさか嫁に迎えるとは予想外だった。いや彼はいいやつだったな。
前の魔王も決して悪人ではなかったか。別人格とはいえ、そうだな悪人とは何だろうか。これ以上は酒が回りすぎて悪酔いしそうだ。ロボットでも悪酔いはする。
言葉通りの意味ではないが。するのだ……。
おっと、一人で考え込んでいた。
(……ですので、これからマスターが何をしようとも文句は言いません。それに旦那様も文句は言わないでしょう。想像してください。彼が俺の嫁を返せとマスターに言うと思いますか?)
「いや、言ってほしいぞ、そこは……いや、でも少年は言わないだろうな。5000年一緒だったから平等に5000年くらい平気ですといいそうだ」
言うだろうな、彼はそういう性格だ。流石にそれはさせないぞ。少年はそこがおかしい。寿命のない魔王ならではの価値観といえるが。
だが、そうだな、俺にとっては先輩ご夫婦のご厚意もあってこの世界にいる。俺たち身内の問題はそろそろ割り切るか。真剣にシルビアさんのことを考えよう。
俺は、生まれて初めて家族以外で本当に好きな人ができたのだ。
「……うむ、それはそうだ。結婚か、俺もシルビアさんと結婚したいと思ってるよ。そうだ先輩としてアドバイスはないかい?」
(そうですね、結婚してくれと言えばいいじゃないですか? 私はそれで結婚しましたよ?)
「むう、それは……単純すぎないか、あるだろうその駆け引きとか。俺の正体も話さないといけないし、タイミングとか」
(それはそれです。というか、私としてはその程度の問題でしかないと思いますよ? 前向きに考えてください。今はそうですねシルビアさんともう一度ダンスでもすればいいのでは?)
ごもっとも。さてと、それなりに時間をつぶしたし会場に戻るとしよう。




