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第26話 ゴッドハンド


(マスターいいですか? 力は必要ありません、ゆっくり優しくです、身体ごとゆっくり動かすのです)


「あ、はあ、あん! 痛い!」


(ほら、やさしくですよ、気持ちいいところを探すのです)


「シルビア、ここ?」


「あ、痛い、まって、そこは、ああ!」




 …………シルビアさんはマッサージを受けている。


 普段、運動したことがないお嬢様がここ最近無理しすぎである。



 俺はロボさんからマッサージのアドバイスを受けながら、シルビアさんの体に実践しているところである。


 ロボさんは本格的なマッサージを俺に教えてくれているので技術はプロ級……ちょっと痛くしてしまうが、本物のプロでも痛い先生はいるから問題ない。


 補足しておけば、この身体はマッサージスキルがデフォルトである。俺が作ったから間違いない。俺も随分お世話になっていた。つまり言い換えれば医療資格はあるので安全は保障されているということだ。



 無免許医師に任せると逆に悪化するし怪我する可能性もあるからな。とくにリラクゼーションマッサージというのは怪しい、すべてがそうというわけではないが事故はよく耳にする。


 

 ちなみに今痛がっているのは、シルビアさんは相当お疲れなだけなので問題はない。後は彼女が気持ちよくなる加減を探り探りという状況だ。



 しかし、シルビアさんはいい物をお持ちである。体操服越しではあるが大きいのは分かる。



 それにしても慣れとは恐ろしいものだ。前世では異性との会話でさえ難しかったというのに。


 不思議と俺は女性の身体に触れているのに動揺しないメンタルを得た。

 

 それとも今の身体に精神が引っ張られているのか。そういえば俺はもう男性ではないのだ。

 いや、それでも興味がなくなったわけではない。実に不思議な感じである。


 しかし、本当に大きいな……普段は下着で小さく見せていたのだろうか。なるほどこれは肩が凝るというものだ。



 ということでスポーツマッサージの予定だったが、これから本格的に指圧を体験してもらおう。



 真面目マッサージというやつである。



 まず、肩もみはガシガシやってはいけない、じっくりとツボを探して、じわーっと押すのがベストなのだ。


「シルビアどう? ここ硬くなってるでしょ?」


 ビー玉くらいのコリを発見した。おれは指先でこれを転がすようにじわーっと押す。


「うーん、ああ! 痛い! ……けど気持ちいいかも」


 肩こりマッサージはとても気持ちいい。俺も何度か受けたが癖になってしまう。


 俺は自分が受けてる時の記憶を思い出しながらシルビアさんにも体験してもらっているのだ。


 ゆっくりと、硬くなった部分を円運動させながらほぐしていく。場所を徐々にずらしながら彼女の背中を優しくさする。



 次は肩甲骨だな。彼女をベッドに倒し、うつぶせにした。



 さてとシルビアさんよ、覚悟はいいかな? これは本当に気持ちがいい。俺も受けているときの記憶がよみがえりうっとり顔になる。


 肩をゆっくりさすりながら持ち上げ、肩甲骨をはがすように4本の指を挿入していく。


「シルビア、どう? 気持ちいい?」



「……んっ、ああっ!」



 そうだろう、目の前で星が散ったんじゃないか? これは絶頂せざるを得ない。肩甲骨マッサージはマジで中毒性があるのだ。


 特に魔法使いみたいなインドア派には効果は抜群であろう。



 しかし、シルビアさんの仰け反り具合を見るに、そうとう疲れが溜まっているのだろう、普段運動したことがない癖に無理しすぎだ。


 何事も順番が大事だ。俺たちはまだ一年生なんだ。ゆっくり考えればいい。



 最後の仕上げは叩打法だ。ぽんぽんと背中を叩いたり、小刻みに叩いたりとしていると、シルビアさんの声は「ふぇ~」とだらしなくなっていった。


 心も体もすっかり緩んだようで何よりである。



 その直後、部屋の扉が勢いよく開いた。ノックくらいしてほしい。おっと鍵をかけていなかったか。


 女子寮だと思って油断していたかな。


 でも知り合いしかいないし問題はないだろう。やましいことをしているわけではないので隠す必要もないのだ。



「ちょ、ちょっと……お二人とも、声が外にもれてますわよ、いくら女の子同士とはいえこれはちょっと……破廉恥すぎです!」


 そう言いながらアンネさんが勢いよく部屋に入ってきた。後ろには乗り気でないローゼさんが気まずそうについてきている。


 誤解だ、シルビアさんのお声がエッチなだけで俺は関係ないぞ、それにこれは真面目なマッサージだ。


 あとマッサージが終わった直後に扉を開けるなんて、君たちの方がよほど破廉恥だ。ずっと聞き耳を立てていたのだろう。



 俺は真面目マッサージをしていただけだ。むっつりなお二人には、お仕置きが必要だろう。


「アンネさんローゼさん、私のゴッドハンド、体験してみる?」


 その日、女子寮内の一室で、いやらしいことが行われていると噂になった。


 だがそのすぐ後に俺のゴッドハンドは有名になり、しばらくは俺たちの部屋はお客さんで満員になっていた。



 魔法使いは基本肩こり持ちが多い、というかほとんどである。ローゼさんは特に酷かった。趣味は読書だといっていたのでさもありなんである。


 しかも分厚くて重たい本を常に持ち歩いている。現代の魔法使いには珍しく本をよく読むそうだ。


 これはやりがいがある。石でも入ってるんじゃないかと思うくらい彼女の肩はガチガチだった。


 俺は、遠慮なく指圧をお見舞いする。彼女の絶叫はとても凄かった。寮全体に響いたんじゃないだろうか。



 実際響いていた。寮母さんが乗り込んできたのだ。「何をしているの!」と、もの凄いけんまくだった。


 だが、安心してほしい。


 寮母さんくらいの年齢が一番、俺のゴッドハンドに弱いのである。


 ほらね、怒られるどころか寮母さんはリピーターになってしまったのだ。


 ……しかし寮母さんは本当にお疲れ様であった。それはそうだ、毎日忙しく働いている。


 俺は翌日、彼女に全身90分コースを振舞った。寮母さんのうっとりしている顔を見ると俺も嬉しい。



 俺は前世でしたことがなかった親孝行を彼女にすることにしたのだ。実際にこの寮のお母さんに代わりないのだ。

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