第18話 夏の思い出
夏休みの後半は寮で過ごした。
先生方や生徒の大半は帰省しているため学院内は実に静かである。
もちろん帰省しない学生や当直の先生はいるので、学生食堂などは営業している。
図書館ももちろん営業している。お客さんは相変わらずいないが……。
いや、数人の学生、4年生かな? あと彼らの担当の先生などはいた。何かの研究で夏休み返上だろうか。
そうか、卒業論文とかあるのかもしれないな。大学時代を思い出した。
図書館にいる以外はシルビアさんと過ごした。拳銃について熱く語ったりした。
シルビアさんも今ではエッチな要素はないと理解したので真面目に話ができる。
それに例の一件以来、シルビアさんも護身用としての銃に興味を持ってくれたようだ。仲間が増えた。嬉しい限りである。
取り巻きの令嬢たちは帰省しているので、俺が図書館に行ってるときは彼女は一人である。何をしているのかときいたら。お散歩だといった。
そういえば俺はシルビアさんの取り巻きの令嬢さん達とも喋るには喋るが。シルビアさんが居なくなると間が持たないといった距離感がある。
二学期からは少し頑張らねば。
シルビアさんも読書に誘ったが、そこまで本がすきではないようだ。図書館へは来てくれなかった。
それとも彼女もバンデル先生が苦手なのだろうか。いい先生なんだが……。
今日はシルビアさんに付き合ってお散歩だ、たまにはこういうのも悪くはない。
魔法学院は結構広いし歴史ある建造物でもある。庭園もきれいに整備されている。観光スポットとしてとてもいいのだ。
だがしかし。
「……シルビア、お散歩ってその格好でしてたの?」
驚愕の真実、彼女はメイド服をきて学院の内外を歩き回っていたのだった。
しかも一緒に着てお散歩しましょうと提案してきたのである。
むう、似た髪型のメイドが二人で歩く。まあ悪くはない、彼女はニコニコしている。それが何よりだ。
いつの間にか手を繋いで歩いていた。双子の姉妹みたいだった。シルビアさんは金髪なので双子とはいえないが。同じ髪型と同じ服なのでそう思えたのだ。
「ねえ、アールさん……アールさんは好きな人はいるの?」
好きな人、異性のことだ。ここではぐらかすほど鈍感ではない。というか俺の心は決まっている。
「シルビアが好き」
「え? ……そういう意味の好きじゃなくて、男の人で好きな人、ほらバンデル先生みたいな人とか……」
バンデル先生はたしかに同じ男として好きだ。かっこいいし尊敬できる、おれの理想の大人とは彼のことだ。
「バンデル先生は尊敬できる人、師匠、でも好きな人はシルビアよ、私はシルビアのこと大好き」
そうだ、ごまかす必要はない、ここに時間を費やす必要など皆無だ。俺はシルビアさんが好きだ。
(おめでとうごさいます、マスター、言えたじゃないですか。私はてっきりはぐらかすものだと思いました)
ロボさんや、その皮肉は今はありがたく受け取ろう。それよりもシルビアさんだ。返事は……
シルビアさんは泣いていた。
「わ、私もアールさんの事、好き。大好きよ……」
ついに泣き崩れてしまった。俺も好きだ、その後は彼女を抱きかかえ寮に戻った。
そしていっしょに夕食をすませて、同じ部屋で眠った。
翌日、お互い少し照れくさい感じがしたが、いっきに仲良くなった気がした。
それから一緒にいる時間が増えた。シルビアさんは図書館に来てくれた。
どうやらシルビアさんは俺がバンデル先生のことが好きで図書館に通っているのだと思って遠慮していたそうだ。
それからというもの俺達は常に一緒にだった。
新学期が始まる当日、俺は朝早く寮の外にでた。シルビアさんはまだ寝ている。もちろんベッドは別である。
(マスター、ゆうべはお楽しみでしたね)
「ロボさんや、それは誤解がある、それに今日で何度目の質問だ?」
俺はこれでいいのか? シルビアさんは好きだ、一生大切にしたいと思っているが、この身体は俺の物じゃない。
(ぶしつけながら、この身体はマスターの物です、マスターによって作られました。マスターが幸せになるならそれでいいではないですか?)
……。
…………。
わからん、俺は人生で初めて恋愛というやつをしている。どうしたらいい……この気持ちはどうしたものか。しかもこの身体は俺の物じゃないのだ。
やるべきことがある。それに彼女をだましている、俺の正体がばれたらきっと嫌われるだろう。俺は男だって。
(はぁ……マスター、一つだけ約束してほしいことがあります)
「お、おう、何かね?」
(そんなに難しいことではありませんよ、シルビアさんを一生大切にしてください。
それにマスターは正体がばれたら嫌われるとか思っていらっしゃいますが、
正体がばれたら、それこそ大変ですよ? 考えてみてください、嫌われるどころか神話の世界の勇者、英雄、救世主、すべての人類の祖先があなたなのですから)
あ、そうだった。俺は歴史の授業を思い出した。俺も初めて知ったが現在の人類の祖先は俺だったのだ。
この国のメジャーな宗教によると俺は神の生まれ変わりらしい。流石にそれは無いだろう、あいつと一緒にされてはたまらない。
しかしそうだな。
「ありがとうよロボさん、わかった、シルビアさんを一生幸せにする。悪いがこの身体を返すのはすこし遅れそうだ」
(了解しました。もともと百年後に私は活動停止の予定でしたのでそれに比べれば誤差の範囲です)
「そのとおりだ、俺の使命は君の魔力を回復させること、それ以外はないと思っていたがそれ以外が一つ増えただけだなんてことはない」
俺が決意を決めると寮の扉が開いた。シルビアさんだ。寝間着姿で出てきている。まだ早朝だったため誰もいないが無防備だ。
俺も寝間着姿だったがそれはそれである。
「アールさん、こんなに早くにどうしたの?」
(マスター、キスです、キス)
「うるさ、いえ、なんでもない、ちょっと考え事」
「アールさん、泣いてたの?」
泣いていたのだろう、頭が沸騰していた、だから冷却装置が働いて涙がでたのだ。
「うん、シルビアのこと考えてた」
シルビアさんの今後の人生を俺が幸せにできるのか真剣に考えていたのだ、足りない頭で、そしたらこの身体の頭脳もオーバーフローを起こしたのだ。
そんなことを考えていたら。いつの間にこちらに歩いてきたのか目の前にシルビアさんがいた。
シルビアさんは俺を抱きしめていた。
「アールさん、いえアールって呼んでもいいよね、これが私の気持ち、だから泣かないでよ。いろいろ考えてくれているのは知ってた、公爵家とか家の問題とかあるけど――」
唇と唇が重なる。静寂が支配した。一瞬のようで長い時間が二人に流れた。 いつの間にか朝日が昇り、周りは明るくなっていた。




