第100話 お祭り
夏だ、俺達三年は冒険者ギルドの以来で夏祭りを盛り上げてほしいと言う依頼をうける。
シルビアは生徒会長なので忙しく運営側の指揮をしている。
俺といえば屋台を一つ任された。
たこ焼き屋の屋台に憧れがあったのだ。
たこ焼きはこの世界の食材でも再現可能だ。
小麦粉に卵はもちろん存在しているし、ソースだって試行錯誤を繰り返して再現できた。
タコも海には似たような軟体の魚介類はいる物だ。
まあゲテモノの類で沿岸の都市以外ではあまり好まれていないようだが。
たこ焼きは見事に生地に隠しているので案外気にならない。ようは黙ってればバレないのだ。
仮にばれたとしても散々おいしくいただいてクレームをつけるという恥ずかしい行為は俺には効かない。
「お前はさっき美味しくいただいたのに何が不満なんだ?」といえば大抵は黙るものだ。
もちろん、宗教上の理由であれば別だが、事前にスヴェンソン先生に聞いており、この世界にはタコを禁忌とする宗教は存在しないことは確認済みだ。
タコといえば、ドラゴンの街タートルロックでぼこった盗賊団の団長、いや今は警備隊長さんの、名前はまあタコでいいか。
タコ隊長さんどうしてるだろうか。
あの時はローゼさんの活躍にはビックリしたものだ。
あんなことがあったのに自分の力を拒絶せずにネクロマンサーとして立派に成長している。
ちなみに夏ということで広場の中央には氷の彫像が立っている。
カール氏監修の氷の彫像だ、タートルロックで買ったドラゴンフィギアを原型にユーギが氷の魔法で作った巨大な氷のドラゴン。
周囲の気温がぐっと下がりとても良い感じだ。自然とその周辺に人は集まり涼をとっている。熱中症は侮れないからな。
ローゼさんも自分の出来ることで夏祭りに貢献しようとしている。
ローゼさんもドラゴンだ、こっちは氷の彫像と違って動く、動き自体はコミカルで可愛いともいえるが。
問題はあった。アンデッドなのだ……、骨で出来た3メートルくらいスケルトンドラゴン。それはちょっと怖くないか。
俺は差し入れのたこ焼きをローゼさんに渡しながら言った。
「さすがにそれは怖いと思うよ、子供たちが怖くて固まってるじゃないか」
「あら、そうかしら。可愛いと思うんだけど。せっかく頑張ったのに残念ね」
残念そうにローゼさんが魔法の解除をしようとしたときユーギが近づいてきた。
「お、たこ焼きだね? 懐かしいねー、おひとつ貰おうかな。
ところでローゼちゃん、そのスケルトンドラゴンを可愛くする方法を思いついたんだよ。ちょっと耳を……ごにょごにょ」
「ユーギさん! 私、初めてユーギさんが凄いと思いました」
「む! 言い方が引っかかるな、それはそれとして、じゃあいくよエターナルブリザード! ドラゴンモード! と雪のトッピングをのせて」
骨のドラゴンはたちまち氷と雪に包まれた。
次の瞬間、そこには氷の肉体を持った、真っ白で美しいドラゴンが現れた。
しかも氷の彫像とは違いこれには骨格があるため歩く、たちまち子供たちに人気になった。
先ほどまで遠くで固まっていた子供たちは近くに駆け寄るとペタペタと触ったり。
ドラゴンに抱っこされて大はしゃぎだ。
それに子供だけじゃなく。大人にも人気なようだ。どうして氷が動くのか不思議がっている。
「ふむふむ、素晴らしいですな。お嬢さんがたがこれを? こんな魔法は見たことがないですな」
魔法使い風のいかにもな黒いローブを被った初老の男性が俺達に話しかけた。
「はい、実はこれの中には骨が入ってまして。それで関節が動くようになっているんですよ」
ローゼさんは律儀にこの男性に返事をした。
「骨、ははは、お嬢さんはネクロマンサーですかな? そういえばネクロマンサーの中でも由緒ある一族は黒髪が多かったと聞きますし」
やけに食いついてくるなこのおっちゃん、まさかネクロマンサーに偏見を持ってる手合いじゃないよな。
俺は、おっちゃんを睨む。
「失礼、警戒させてしまったかな。決して侮蔑の意味で言ったわけではないのです。ほら、実は私もネクロマンサーですので」
そういいながらフードを外すと、おっちゃんは黒髪だった。
彼は姿勢を正すとやや頭を下げ貴族風の挨拶をした。
「私はユリウス・バンデルと申します。失礼ながらお名前をお聞かせ願いますかな?」
ローゼさんも姿勢を正し、スカートの裾をつまみ膝を少し曲げながら挨拶を返した。
「これはご丁寧に、わたしはローゼ・ヨハンソンと申します」
「ほう、ヨハンソン子爵のご令嬢でしたか。はは、それはそれは名門ではないですか」
名門? 俺は違和感を覚えた。ローゼさんの家はすでにネクロマンサーとしては衰退していたはず、それにユリウス・バンデルと名乗った?
「バンデル? おっちゃんはバンデル先生とはどういう関係ですか?」
「はて、私の家系に教師はおりませんでしたが。ふむ、案外遠縁の親戚かもしれませんな。おっと、急ぎの用があったのでした。ではお嬢様がた失礼します」
ロボさん、あれは怪しい。奴はローゼさんしか見てなかった。何かあるな、調べるぞ。
(はい。既にマーキングをしておきました。やつの動きは全て把握できます)
◆
貧民街で一番大きな娼館の一室にて。
この日は、一人の娼婦がロクサーヌを訪ねてきた。
「あの、ロクサーヌ様、私どうやら妊娠してしまったようで……」
「あら、大変、あなた、薬はちゃんと飲んでたの?」
娼館の主ロクサーヌは、娼婦たちに特別な薬を手渡していた。
竜化の薬。
自身に竜の力を授けるために作られた、古代の魔法をもとに竜王教会が長年の研究の末に開発した薬。
一時期はその有用性から一部の信者に出回っていたが、多くの人間には竜の力に身体が耐えきれずに禁止された薬。
ごく少量の投与であれば死ぬには至らないが得られる竜の力も微弱である。
しかし避妊効果はあるため、避妊薬として配られるのだ。
それでも妊娠したばあい、生まれる子は竜人となる。もちろん外見も人間と変らないし、力自体は竜とは比べ物にならないが。
それでも竜としての遺伝子はある。
目の前の娼婦はもちろんそのことは知らない。避妊薬として毎日飲んでいた。
「はい、言いつけ通りに飲んでいたのですが、どうしたらいいでしょうか」
「そうね、残念だけど完璧な薬はないから。でも安心しなさい。竜王教会はそういった女性の保護を目的としています。これも竜王様の思し召しよ。あなたの身体と生まれてくる子は教会の宝となるでしょう。
そうね、せっかくだから。休暇を与えるわ、タートルロックには保養所があるし、教会支部もある。そこでお子さんが生まれるまでゆっくりなさいな、あなたと同じ境遇の先輩方もいるから心配はないわ」




