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4 必要素材


 この街の勢力は二分されている。


 東側には星教会が、西側には冒険者組合が、それぞれ本部を構えているからだ。


 その影響力も二分され、そのちょうど中央に位置する緩衝地帯にダンジョンは存在する。


 街中に存在するにしては実に古めかしい苔むした外観を持つ神殿。


 石畳みの地面を歩き、石柱を幾つか通り過ぎ、白亜の建材で構築された入り口を潜れば、内部には床面積のほとんどを占める円盤が配置されている。


 この円盤は昇降機やエレベーターと同様の役割を持ち、日々冒険者たちをダンジョンへと誘うもの。


 終着地点はダンジョンの第一階層、選別の間。


 その名の通り、冒険者はこの第一階層で洗礼を受け、ダンジョンによって選別される。


 選ばれなかった者の末路は言うまでもなく、この第一階層での死亡者数はどの階層よりも多い。


「よう。これからダンジョンに挑戦か?」


 円盤から降りて第一階層に足を付けると、帰りの冒険者から声が掛かった。


 一仕事終えたばかりと言った風貌の土と擦り傷に覆われた壮年の男性冒険者。


 背負った大剣は血で妖しく彩られていた。


「悪いこと言わないから帰ったほうがいいぞ」

「コーヒーの匂いでもしました?」

「コーヒー? あぁ、今日の預言か。いや、そうじゃなくて今日は魔物が騒がしくて難易度が上がってるんだよ。老婆心ながら、ダンジョンがお前たちを選んでくれないかも知れないと思ってな」

「気遣いをどうも。でも、残念。俺も啖呵切ったばっかりでさ」


 ちらりとシオンを一瞥する。


「引くに引けないんだよ」

「はっはー、そりゃ引くわけにはいかないわな。んじゃ、とにかく気をつけな。身の危険を感じたら意地を張らずにすぐ逃げろ。死んだら元も子もないからな」


 俺たちと入れ替わる形で名前も知らない冒険者は円盤に乗って地上へと戻っていく。


「引き返すことは恥ずかしいことではありませんよ。あの鍛冶職人の方も生きて帰ってこいと言っていたことですし、日を改めることも選択肢の一つです」

「言葉の綾みたいなものでああは言ったけど、別に恥ずかしいだなんて思ってない。あとに引けなくなってる訳でもないぜ。困難を越えてこそ冒険者だろ」

「私は冒険者ではないのでよくわかりませんが。つまり、マゾということですか?」

「とんでもない誤解だ。その理論でいくとアスリート全員マゾヒストだぞ」

「ではサドですか」

「特にどっちかに偏ってる訳じゃねぇよ! 強いて言うならニュートラルだ、俺は!」

「なるほど、エヌということですね」

「そこまで言ったらもう知らない専門用語だよ、ホントに」


 本当にあるかも知れないSでもMでもないNが。


 聞き馴染みはないけれど。


「というか、なんの話をしているんだ。ダンジョンにまで来て。性癖大公開スペシャルかよ」

「視聴者の大半がチャンネルを変えそうな特番ですね」

「俺だって変えるわ、そんな番組」


 放送局にクレームを付けてやる。


「そう言えば聞いていませんでしたが、メモの内容は?」

「あぁ、そうだな。えーっと……」


 周囲への警戒を維持しつつ、腰に巻き付けた雑嚢鞄からメモを取り出す。


「第一階層にあるものばかりだな。取れる場所も魔物の少ないルートもあらかた把握してるし、今日中に集められそう」

「随分と冒険者が板に付いてきましたね」

「お陰様で」

「もっと感謝してください」

「皮肉で言ってんだよ、こっちは!」


 冒険者になる切っ掛けは決してポジティブなものじゃなかった。


 少なくともシオンに感謝しなければならない謂われはない。


「馬鹿やってないで行くぞ」


 いい加減、スタート地点から動くために行動を開始。


 第一階層、選別の間は剥き出しの岩肌と延々と続く迷路のような通路で構成されている。


 ただ通常の洞窟や洞穴とは違い、ダンジョン内は常に光で満たされていて視界は良好。


 光源らしい光源が見当たらないのが実に不思議なところだけれど、とにかく暗闇に乗じて魔物に迫られる可能性は皆無となっている。


 とはいえ、警戒は必要なので凸凹とした岩肌の地面に足を取られないように気を付けつつ入り組んだダンジョンを進んでいく。


「お、いたいた」


 見付けたのは地面の抉れた部分にすっぽりと収まった一匹の蛙。


 全長一メートルほどはあろうか。


 見る人が見れば卒倒しそうなサイズではあるが、この魔物は人畜無害だ。


 すぐ側まで寄っても微動だにせず、軽くこちらを見やるとゆっくりと瞼を閉じた。


 なんだ、人間か。


 そう言われているような気さえする。


「すこしもらうぞ」


 この蛙の正式名称はオーアフロッグといい、背中に煌びやかな鉱石を生やしている。


 食性が関係しているとかどうとかと小耳に挟んだことがあるけれど、詳しいことは憶えてない。


 背中の鉱石は手で簡単に取れ、目当ての素材を一つ手に入れられた。


「ありがとさん」


 オーアフロッグから鉱石をすべて奪ってしまうと死んでしまうためもらうのは一つだけ。お礼にと置いた餌団子は長い舌でぺろりと平らげられた。


「この調子で幾つかポイントを巡ろう」

「意外と地味ですよね、冒険者って」

「魔物と戦うだけが冒険者じゃないからな。俺は好きだぜ、こうやってコツコツと素材集めるのとか」


 レベリングとか苦じゃないタイプだった。


「蛙巡りの間にほかの素材も集められそうだな」


 オーアフロッグの生息域を巡る道すがら、目当ての素材を蒐集していく。


 結晶で出来た透き通る木。地上に生える珊瑚。鉄の花。


 蛙巡りも何事もなく終えられ、必要素材はあと一種。


「ロックリザードの体内結晶か」

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