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1 冒険者として


 星詠みの巫女と七人の騎士を擁する星教会は冒険者組合に匹敵する一大組織として名を馳せている。


 夜空に浮かぶ星々の光を紐解き、宇宙からの意思を受け取り、それを人に伝わる形式へと落とし込み、言葉として発信することで星詠みの巫女はこれを預言とした。


 星詠みの巫女の予言は絶対であり、仮に外れるようなことがあれば、それは予言の受け手側に不備があったのだと、そう解釈される程度には信奉されている。


 時には何が何でも預言を的中させようと組織だって行動することもしばしば。


 日々、ダンジョン攻略に精を出す冒険者たちからは狂信者と揶揄されることも珍しくない。


 だが、そう言う冒険者たちも星詠みの巫女の預言を完全に否定している訳ではない。


 星教会が的中させるために動いているとはいえ、預言の信憑性は高いとされている。


 預言の内容次第ではダンジョン攻略の日を改めたり、ルートを変更したり、活動を切り上げたりと、信じない者のほうが多いものの気にする者も少なくない。


 預言を無視して成功した者はたかが預言だと吐き捨て。


 失敗した者はやはり預言には従うべきだと考え直す。


 冒険者たちにも多かれ少なかれ預言を信じさせている星教会は事実上、この世界で最も影響力を持った組織と言っても過言ではない。


 だからこそ、なのかも知れない。


 俺が追放されたのは。


 星詠みの巫女と七名の騎士を擁する一大組織。


 騎士の中でも最高位に位置する星騎士に、俺は登り詰めていた。


 若干二十一歳。その理由は俺が有していた魔法であり、追放された原因でもある。


 名をホロスコープ。星の力を振るう魔法。


 星教会では星に近い魔法ほど好まれ、炎や雷のような光を伴うものは厚遇された。


 その点で言えば俺の星魔法は満点以上を貰えるこれ以上ないほどのものだった。


 周囲の反応はこちらが怖くなるほど良く、一部の者たちからは星教会の跡継ぎとさえ言われていた。


 実際に、そうなる未来はあったのだろう。


 誰もが期待を寄せた星魔法がこの世界に存在しない星座を用いるという、星教会にとって許されざる性質を持ってさえいなければ。


 それは星教会の現体制を否定するに等しいものだった。


§


「おはようございます。異端者さん」

「その言い方辞めない? ライトって名前があるんだけど。監視員さん」

「私の名前はシオンです。人の名前くらいきちんと呼んでください」

「こっちの台詞だ! それは!」


 星教会から追放された者を監視する役割を担う星の信奉者シオン。


 緩いウェーブの掛かった髪は紫紺色に染まり、その瞳の黒にも同じ色が混ざっている。 歳は十八、整った目鼻立ちから受ける印象は実年齢よりも大人びていた。


 ここ数日、外出のたびに行動をともにしているけれど、彼女の態度はキツい。


 言動が痛々しいとかではなく、厳しいととも少し違う。


 言うなら異端者である俺に当たりがキツかった。


「まったく。お宅も大変だな、平日の朝っぱらから星教会とはもう関係ない男の監視なんて」

「星教会の教義に反するような虚言の流布を防ぐためですので。まぁ、四六時中あなたと一緒に居るのが大変なのは否定しませんが」

「人をずっと見てないといけないわけだしな、監視って」

「いえ、べつに監視のほうは大変ではありません」

「ほうってなんだ、ほうって」


 まるで俺のほうは大変みたいな言いぐさだな。


 いや、実際そうなんだろうけど。


 シオンは星教会の信奉者で、俺はそこから爪弾きにされた異端者。


 自分とは違う価値観、忌避すべき主張を掲げる俺と行動を共にするのは、それなりの苦痛を伴うことなんだろう。星教会から命じられていて、もう嫌だと投げ出すことも出来ないのなら尚更だ。


「ところで、今日もダンジョンに?」

「あぁ、俺はもう冒険者だからな。星教会を追放されたってのに簡単な試験だけで冒険者にしてくれたんだ。どっかの教会とは懐の広さが違うよな」

「星教会は広く門戸を開いていますよ。どこかの誰かさんはその門戸から逆走していきましたが」

「俺をマナーのなってない迷惑な奴みたいに言うのは止めろ」


 ただ、そう。逆走したのはたしかだ。


 星教会の教義に反する魔法を持ったが故に。


 自ら逆走したといえばそうだし、させられたと言えばさせられた。


 どちらも引く気はないとくれば、立場の弱い方が出て行かざるを得ない。


「前から思っていたのですが、なぜ冒険者になろうと?」

「俺が冒険者として有名になったら困るだろ?」

「……まさかそれだけのために?」

「まぁ、動機の半分くらいは星教会に対する嫌がらせだよ。もう半分は個人的な理由。前から興味があったし、俺はこの魔法を認めさせたいんだ。冒険者として名を馳せれば認めざるを得ないだろ、星教会も」


 俺の魔法、俺だけの魔法だ。


 それを星教会の教義なんて勝手な都合で否定されてたまるか。


 俺はこの魔法を冒険者の歴史という星教会の手が届かない場所に刻む。


 それが存在の証明になるはずだ。


「まぁ、そっちにとっちゃ都合の悪い話なんだろうけど」

「そうですね。実現すれば」

「あ、出来ないって思ってるな? 一度は星教会を手中に収めかけたんだぞ、こう見えて」

「でも実現はしなかった。今回もそうなります」

「いいや、ならないね」


 自宅玄関の扉を閉めてシオンに合流する。


 俺たちはダンジョンに向けて歩き出した。

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