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光の魔法使いクララ・パドヴァールの放浪記 昔々の縁から

 やっと自己紹介の時間か。

 手を引かれて、奥へ奥へと進んでいく。きっと外を見れば私が知らないような”未知”が待っているのだろう。


 (この樽に穴でも開けてやりたい…………)

 勿論そうすれば空気のない状況で、延々と上にまた登るまで空気を生成しなければならないが。

 それでも、目の前に木目しか見えないのは凄く残念に思う。

 ………………海中遊泳の魔法を作ろう。そう決意した瞬間だった。


 「ふげっ!」

 前のめりに転んでしまった。ついでに、手を引いていた彼女も巻き込まれてしまう。


 (なになに!? 見えない、暗い…………)

 樽は全ての視界を閉ざして、手で何とかどうなってるか探る。


 柔らかな感触とヌメった何か、よく分からない感触に心が掻き乱れる。


 「えっ、ねえ何処! 何処に居るの?!」

 叫んでも、すぐに返事は返らない。もう樽を外して、何か魔法を唱えようとしていると、


 「っぅ、…………押し倒すなんて、やっぱり……」

 取り敢えず声が聞こえたことに安堵する。そして彼女の言葉を咀嚼しながら、


 「えっ! ごめん!」

 何とか立ち上がり、一呼吸した後で水の抵抗を感じなくなっていた。おそるおそる樽を外して、自分の前に置く。


 目の前には、イソギンチャクのような大きな何かが少し岩場から傾いていた。


 「…………ごめん」

 巨大なイソギンチャクの傾きを立て直し、彼女を探す。


 辺りは洞窟のような場所で、露出した岩に光る苔のような何かが照らして、彼女の後ろ姿を見つけた。


 「…………あっ、本当にやばい。助けて」

 ヒレの足で土の上をまともに歩けるわけがなく、ばたつかせながら、彼女は言った。


 私は樽に水を入れ、彼女を持ち上げて、その中に入れる。


 「ふぅ、案外力持ちなのね」

 「魔法使いに貧弱な人はいないよ」

 そう言って、樽を抱えながら彼女に訊く。


 「…………そういえば、名前は?」

 「確かに言ってなかったわね。私はルルレアよ。貴女は?」

 「私はクララ。魔法学園キテージの魔法使いだった」

 簡単に名乗っておく。学園の名前は結構有名のはずなので、身分を指し示すものとしては十分だろう。


 「キテージ? あぁ、雷帝の所ね」

 「そう。そのジジイに旅しろって言われて…………漂流してた」

 自分の紹介はこの程度で構わないだろう。


 「ふーん、じゃあお姫様って訳だね!」

 その言葉に私は下に目を落とす。


 「…………なるほど。お姫様って自分と同じような感じなのか」

 魔法学園に身分による支配はない。

 基本的に学びに来る生徒が『教授』や、『司書』の人たちに教えを請い、研究しあう場所。

 その二つの称号は試験によって、その証を貰うことが出来る。


 皆が魔に導かれ、深淵を探求する学びの園。

 それが魔法学園キテージ。


 しかし、例外的なものが一つ。それが『雷帝』である。


 立ち位置的には『学園長』で、一応学校のほぼ全ての権限を握っていると言って良い。そもそも学園の土地は『雷帝』となったものが治める決まりだ。……でも、特にあのジジイが権力を振り回すところを見たことがない。何気に忙しいそうだし。

 絶対やりたくないと心の中で思うくらいに。


 故に、その血を引く私はそれなりに身分は高いと思うのだが…………


 (みんなフレンドリーに魔法をぶっ放して来るし、互いが研究を盗み見るのが当たり前。

 昔だから忘れたけど、物語でお姫様が出てくるのがあったな、へぇー。あれって、私と同じ感じで暮らしてるのか)

 そう思いながら、ルルレアの方をチラリと見る。


 「私が想像してお姫様って、もっと派手なドレスをいつも着てるものだと思ってたんだけど」

 「姫だからって、常に着てるわけないわよ。寝るときには寝衣を着るし、少しぐらい悪戯心で騎士を困らせるぐらいのユーモアがあっても良いはずよね」

 ルルレアは少しはにかみながら、満足気に笑っている。



 「…………その騎士は一体どれほど貴女に待ちぼうけさせられたのでしょう?」

 前を見ると、もりを手に持ち、肌の露出度が高い服を着た女性が立っていた。髪は暗い緑、目は透き通った水色でクールな印象を受ける。手や足などの末端、顔の一部に鱗がある。間違いなく海族だろう。


 「ふふっ、貴方がいなかったから簡単に外に出れたわ」

 手を腰にやり、胸を張ってそう答えるルルレア。

 対して、女騎士の方は手で頭を押さえている。


 「…………はぁ、何事もなさそうで良かったです。それで貴女は?」

 明らかにルルレアに振り回されてきた被害者だな、と思いつつその質問に答える。


 「私はクララ。キテージの魔法使いだった?」

 「なんと! キテージとは、また。…………だった?」

 「今はあのジジ……、『雷帝』に旅しろって言われたから」

 女騎士は凄く不安な顔をしながら、私に再度尋ねた。


 「壁ですか? 民家ですか? それとも今度こそ城に穴を開けるつもり?」

 「そんな物騒なことしないわよ! 何でそんなこと訊くの?」


 女騎士はほっと胸を撫で下ろし、

 「前回の雷帝はここに訪れ、現・乙姫様と酒を飲んでおられたようですが。…………酔った勢いで魔法を発動させたんですよ。しかも、そのまた前の雷帝も気ままに魔法を発動して…………」

 前回は壁、前々回は城の瓦が抉れましたと追加で捕捉してきた。


 「えぇ、…………でも私お酒飲めないです。節度も、キテージでは褒められるくらい…………」

 「それはあまり誇れないと思います。それに、もはや伝承レベルで語り継がれてるんですよ『乙姫と雷帝は混ぜるな』と」

 すごい真顔でこちらを見つめる女騎士。キテージ基準はダメなの?


 「でもっ! それって乙姫がいればでしょ。そもそも私はまだ『雷帝』じゃないし」

 雷帝と乙姫。古の誓約で結ばれ、遥か昔から君臨していた称号。

 雷帝は代々私の一族が継いでいる。たった一つの『魔法』を完成させる為に。

 乙姫のことはよく知らない。

 知ってることは、海族の長ということだけだ。


 「…………それなら良いのですが、はぁ。ルルレア様、次期『乙姫』たる貴女はもう少し自覚をお持ちになってくれることを願いますよ」

 「もぅ、酷いじゃない。私が驚かせようと思っていたのに」

 ルルレアは残念そうな顔をしつつ、こちらの顔を見ると笑った。

 次回は取り敢えず宴会じゃぁー! たぶん……

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