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誘う心は八重の叢雲

 白銀くん、あまり出番ないな。

 「……ユラちゃん、今日も美味しかったわ。…………ごめん、少し疲れたから先に寝させてもらうよ」

 既に食事を終えた私は重い瞼を何とか持ち上げる。

 「今日は早いね、お姉さん」

 「……うん。魔法を適度に使うと眠くなるのよ」


 実は、魔法使いの基本的な日常は規則正しい。図書館で殆どの時間を過ごすイメージが物語に出てくる魔法使いに多いが、本当の魔法使いは外で魔法の実験や模擬戦などをしている。

 そして魔法は身体を酷使する。だからか、必然的に規則的な生活になってしまうらしい。


 「じゃあ、おやすみ」

 「ふわぁ、…………おやすみ」

 「おやすみ、お姉さんたち」

 頭をうつらうつらとしていたルルレアとともに寝室に向かう。


 *


 「お父さん、なんで今朝いなかったの? 朝ご飯も用意してたのに…………」

 ユラは口を膨らませて、父であるウロをジト目で見る。


 「すまん、ユラ。やらなきゃいけないことがあってな」

 「それは朝に出なきゃいけないほどの用事だったの?」

 腰に手を当てて、座っているウロを睨むが目線の高さは同じくらいだった。まだ身長が足りないのでいまいち迫力に欠ける。


 「ああ、早めにやらないと面倒だったからな」

 「む、最近は忙しくないって言ってたのに…………」

 釣り上がっていた目は、先ほどと違い悲しそうに目を伏せた。


 「いや、別に仕事が増えたわけじゃないぞ。おおっと、そう言えばプレゼントを用意してたんだったな」

 懐を漁り出し、一つの小包をユラに渡す。


 「えっ?」

 「偶然店頭に並んでたのを見かけてな。ほら、いつまでも棒立ちしないで開けてみろ」

 包装を丁寧に解くと、中から出てきたのは狐の根付だった。表面は黒く、模様は金の線で引かれて上品さと美しさを内包している。


 「…………むぅ、しょうがない。これで許す」

 「そうか、許してくれるか。…………本当なら言いたくねぇんだが、少し俺の話を聞いてくれるか、ユラ」

 流れがいきなり変わったことに困惑しつつ、ユラは頷く。


 「実は、シノのことなんだが…………」

 夜は未だその暗闇を深め続ける。

 その闇は何処までも深く、何処までも絡み合う。

 空は重々しく、雲を重ねて隠してゆく。

 ただ金の瞳がその様子を眺め続けていた。


 *


 どさっ、という衝撃とともに閉じていた瞼をうすらと開ける。

 「うぅっ…………」

 「ユラ……ちゃん? どうしたの?」

 啜り泣く声に気付き、私の懐に入ってきた少女の様子に驚くが思考が寝起きで纏まらない。しばらくはユラちゃんを抱きしめながら、頭を撫でる。


 「何でもないっ…………何でもないの……」

 きゅっ、と貸してもらった寝衣が引っ張られるが、うわ言のように呟いた言葉と同様に少しずつ声が小さくなっていく。


 生まれて早々に妹と離れた私にはこれ以上何をすれば良いか分からないが、明日も良い日になれば良いなと思い私も瞼を閉じる。

 白銀「お前、いつまで話してるんだよ、カツ丼は出ないからな」

 少年「うぅ、そうですか……残念」

 白銀「ほら、もう話終わったんだろ? ちっ、もうこんな時間かよ。帰った、帰った。ここはお前がこんな時間までいて良い場所じゃねえんだからよ」

 少年「えっと、実は……今日は家賃を払わないと退去させられる日で……だから、宿ないんですよ。てへっ」

 白銀「はぁっ?! お前、普通それを先に言うべきだろ」

 少年「ついつい、熱くなってしまって……」

 白銀「ああ、もうここに泊まれ! もう、どうにでもなりやながれ!!」←自棄率300%

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