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1.プロローグ

 太古の昔。世界に魔法が降り注いだ。その魔法は世界に花を咲かせ、世界を魔力で満たそうとした。

 結果的には、満たされることはなかったが。

 しかし、影響はあったようだ。

 ある一人の老婆が、その花を一輪見つけ、こう言い出す。「魔法だ。魔法の世界を今こそつくりだそうじゃないか」と。きっと、当時はメルヘン思考がとても、強かったのだろう。だから、人々は皆魔法に憧れを抱いていた。

 今でもそうではあるが。


 というわけで、その老婆のせいで、私は今、魔法使いなんてものになってしまっているのである。コンチクショー、と叫びたい。


 さて、私が何故、こんなにも私自身が魔法使いである、ということを毛嫌いしているのかという理由を話そう。答えは単純だ。


 太古の昔にいた(頭のおかしな)老婆の発言に耳を傾けた者は、ほとんどいなかったのである。魔法に憧れを抱きはすれど、魔法の世界をつくりだすことについては殊更興味はなかったのである。しかし、私のご先祖様はどうやら、それに耳を傾けてしまったらしい。そして、現在、私は周囲の人間たちに奇異の目で見られている……。




「……転職しよう」




 そうだ。そうしよう。現在の私は、学生兼魔法使い。これは、普通の女子高生と言えるのだろうか。否、言えない。中二病というものを患ってしまって、それが高校生になってまでも引きずってしまっている、頭がちょっとかわいそうな女子高生、として見られてしまうだろう。老婆よ。タイムスリップして私の魔法であなたのイカれた頭をぶち抜いてやりたいよ。まったく、もう。


 ……と、ここまで、不満たっぷりに話してはいるが、ブーブー言っていても自分のお家の習わしには逆らえないので、私は今日も河川敷で目立たないように魔法の特訓をしていた。




「だいたい、今どき、魔法って。今は二十一世紀。科学の力がブイブイものを言わせる時代ですよ、ってもんだ、ったくぅ……」




 自分の背丈よりも大きい杖を軽々と振り回し、その杖の先に、魔力を宿らせていく。今、この溜めている魔力をぶっ放してしまったら、暴走して街ごと破壊しかねないので、丁寧に所定のことを行う必要がある。

 まずは、限界まで杖を振り回す。くるくる、くるくる、くるくる、と。

 次に、魔力がなんか良い感じに溜まったな、と思ったら杖をゆっくりと下げ、前に向ける。

 そして、最後に、詠唱する。

 無詠唱でも魔法を繰り出すことはできるが、魔法を扱う私自身にも魔法が向けられてしまうので、詠唱はしておいた方が良い。詠唱をしないと、大怪我どころでは済まなくなってしまう。




「出ろ。魔法」




 詠唱をしたら、見事に杖の先から氷魔法が繰り出された。魔法というものは、フィクション作品では扱うのが難しそうに描かれているけれども、実際はこんなにも簡単なものなのである。

 ちなみに、今、私は詠唱をほとんど省略していた。これでも、一応、詠唱判定になるらしいので、わざわざ長ったらしい呪文を唱えるのも面倒くさいし、詠唱は必要最低限の長さで良いだろう。




「わー! すごーい! これ、あなたがやったの!?」


「……むっ。誰です?」




 振り向くと、背後に私と同じ高校の制服を着たアホ毛がくりんくりんの女の子が立っていた。私が彼女のことを見るなり、彼女は私の手を取ってブンブンと振っていた。ずいぶんと、馴れ馴れしげな人間である。




「あなた、人間ですか」


「えっ? もちろん、人間だよ!」


「そうですか。では、お帰りはあちらになります」


「おけおけ~……って、まだ帰らないよ!?」


「帰ってくれた方が、静か……騒々しくなくて、良いのですが……」


「言い直せてないよ」




 なるほど。こんなにアホ毛がくりんくりんな人間ではあるけれど、どうやら、見た目通りの人間ではないらしい。くっ。敵の力を侮ってしまったか。




「何が目的なのです。さあ、話すが良い。五秒です。五秒だけ時間をくれてやります。さあ、早く。さあ、話すのです」


「な、なんで偉そうなの~……」


「……目的は、ないのですか?」


「目的?」


「私の魔法を悪用してお金をわんさか儲けるだとか、嫌なヤツを消し炭にしてやるだとか、そういった目的です」


「ぶ、物騒だね。そういう目的は……ないかなぁ?」




 ほう。では、何故、このアホ毛女は私の方に寄ってきたのだろう。




「……ハッ、まさか、あなた、そういうことなのです!?」


「えっ、ごめん。どういうこと?」


「そうですか。あなたも苦労しているんですね。でも、見知らぬ者に介錯してもらうよりも、見知った人間に介錯してもらった方が良いですよ。……ああ、いや。もしや、あなた、見知った人間に介錯させるのが嫌で、私を利用した、と。……なるほど、あなたの見た目の割りには、考えましたね。ですが、私はお断りです。あなたを介錯できるほど、私には心の余裕がないので」


「……ごめん、本当に何の話?」




 くりんくりんアホ毛女は、困惑した表情を浮かべていた。どうやら、私に介錯をさせようと近寄ってきたわけではないらしい。




「私はね、あなたとお友達になりたいの」


「お友達ですか?」


「うん!」


「私はべつに構いませんが……」




 構いはしないのだが、それは彼女のことを考えたら、お断りをするべきだろう。

 魔法使いというものは奇異の目に晒されてしまう、と私が心の中で言っていたことを思い出してほしい。私が奇異の目に晒されてしまう存在である、ということは、私と関わってしまった人間にも同じ被害が及ぶ可能性は高い。

 というわけで、私はこのお誘いは、丁寧に断ってあげるのが、マナーというものだ。




「……でも、ごめんです。私はあなたのお誘いをお受けすることはできない」


「ええ!? なんで!?」


「それが、マナーだからです」




 マナーなのだから、仕方がない。これは、そういうものなのだ。




「じゃあ、破っちゃえばいいよ」


「……マナーをです?」


「うん! 私は気にしないし!」




 快活そうに目の前のくりんくりんは言った。




「それは……あなたに悪いです」


「もう決めてしまいました~拒否権はありません!」




 なんて、勝手な人間なのだろう、と思ったが、その勝手さが何故だか心地よかった。




「あなた、お名前は?」


「千夜泉理夢」


「わあ! 素敵なお名前! 私は邑夕和茜! よろしく!」


「よ、よろしくです……」




 その場限りの関係にすれば問題はないし、まあ、いいか、と私は考えながらペコリとお辞儀をした。




「じゃあ、理夢ちゃん!」


「馴れ馴れしいので、その呼び方やめてください」


「……うーん、理夢ちゃん!」




 茜は一瞬だけ考える素振りを見せて、すぐに私のことをそう呼んでいた。




「やめてください、って言ったばかりなのですが……まあ、面倒なのでもうその呼び方で良いです」


「ねえ、理夢ちゃん」


「はい、理夢です」


「今日、しばらくいっしょにいても、良い?」


「……べつに、構わないですけど」




 なんだか、茜といると調子が狂うような気がする。なんだろう。このふわふわしたオーラは。断ろうとしていたのに、いつの間にか、お友達になることを約束してしまったし。




「では、魔法の特訓を再開しますけど……たぶん、見ていても暇ですよ?」


「うん、いいよ?」


「……そうですか」




 茜のことは気にせずに、特訓をすることにしよう。そうしていれば、もしかしたら、このお友達とかいう関係も、私の頭の中から消えてくれているかもしれない。




「じーっ……」


「…………」


「じーっ……」


「な、なんですか?」


「ううん。べつに!」




 茜にジロジロと見られていると、魔法の方に集中できない。ダメだ。完全に私のペースを茜に乱されてしまっている。




「えっと、今から、雪を降り積もらせる魔法を……放ちますです」


「わぁ……!」




 私が言うと、茜は無邪気な子どものようにパアッとした笑顔になっていた。茜はわかりやすい人間である、ということはこの短時間でわかったけれども、それで、どうこの人間を私から引き剥がしたら良いものか。とりあえず、ゴキブリホ○ホイでも使って、引き剥がれてくれるか試してみてみようか。




「……魔法を見たかったみたいなので、まあ、ゆっくりと見ていってくださいよ、です」


「うん、ありがとう!」




 ため息を吐きたい心情だったのだけれども、茜が嬉しそうな顔をして杖の先っぽを見ていたので、なんだかそんな気持ちも忘れてしまいそうだ。




「では、まず、杖をくるくると回します」


「回す?」


「ええ、回します。コツは、全身を使って大振りに回すことです」




 私は杖を回しながら、茜に説明していく。




「結構、力作業なんだね~」


「ええ。ですから、意外と魔法使いの方は、体力があるんですよ」


「へぇ~」


「私なんか、兄から『脳筋』と言われてしまうくらいですから」


「えっ、そうなの!?」


「ええ、そうですよ。ちなみに、私、握力七十五キロありますから」


「えええええええええええええええっ!? そ、それって、男の人でも強い方に当たるんじゃないの!?」




 茜は言いながら、驚いて腰を抜かしていた。古典的な驚き方。予想はしていたが、これほどまでにベタな人間だとは。




「今度、腕相撲でもしますですか? 茜の腕を見事、骨ごと折ってみせましょうです」


「それはダメ! それはダメダメダメダメー!」


「……というのは、冗談です。アザ程度にしておきますです」


「それでもダメー!?」




 そんなこんな茜と会話をしていたら、程よいくらいに杖をくるくるすることができ、次のフェーズに移れるようになった。




「茜。杖を下げて、前に向けます。危ないので、下がっていてください」


「うん、わかった。……これで、良いかな?」


「まあ、そのくらいなら問題はないでしょう。一メートルくらいだと、下手したら凍死しますけど、五メートルくらいなら、全身がカチコチになるくらいで済むはずです」


「……もしかして、もっと離れた方が良い?」


「お好きにどうぞ」




 言って、私は前を向いた。




「……下げました。茜。あとは、詠唱して終わりです」


「ほぇ~実際の魔法も詠唱あるんだ!」


「……べつに、詠唱しなくてもできますけど、詠唱は『私には当てないでください』って魔法にお願いするようなものです」


「つまり……?」


「詠唱をしないと、私も魔法に掛かります。私は至近距離で魔法というか溜まった魔力を受けることになりますので、下手をすれば死ぬことになります」


「ひ、ひえぇ!?」


「そうならないようにするために、詠唱をするのです」




 茜に説明をし終えて、私は杖に力を込める。そして、詠唱をする。




「降れ。魔法」




 詠唱をした途端、杖の先から光が放たれていた。




「……えっ、詠唱、それだけ!?」


「ええ。終わりです。……んっ?」




 杖をその辺に置いて茜の方に近づこうとしたら、突然、冷たい感覚に襲われる。雪だ。どうやら、魔法は成功したらしい。




「わ~すごい! さっきまで晴れてたのに、本当に雪が降ってきた!」


「さて。特訓はもうおしまいです。では、気をつけてお帰りになってくださいです。茜」


「うん、またね!」


「『またね』……? ええ、またね、です」




 私たちはお互いに手を振り合って、それぞれの帰路に着いていた。

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