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オリヴィアお嬢様は婚約できない  作者: 玻璃斗
第1章 ウィリアム
9/15

1-08 起爆剤のオリヴィア

少しでも読んでくださった方、ブックマークをしてくださった方、ありがとうございます。作品を続けるモチベーションになっています。

やっと本編です。よろしくお願いいたします。


『神の愛し子、オリヴィア』


 それは『魔術具』の発明により得た圧倒的な経済力で世界の覇権を握ったギリスティア王国の伯爵家の令嬢。


 オリヴィア・ローウェルがギリスティア王国の王室で拝謁を行った際につけられたあだ名である。


 二百年以上続く名門家で辺境伯の末娘にして、母親から受け継いだ誰もが目を奪われる端正な顔立ち。

 かつ、舞踏会で人の目を釘付けにした優雅なダンスに著名な学者でさえを圧倒させるほどの知識。


 神々から愛されているからこそ、たぐいまれなる才を受け取った。


 だから『神の愛し子』

 初めはそれが由来だった。


 しかしオリヴィアに婚約の話が出てからこのあだ名の意味が変わっていく。


 身分も容姿も文句無しのオリヴィアの婚約話が申し込まれる度にご破算になり続けたのだ。


 その回数、クロフォードの件も含めなんと十一回。


 例で上げるなら。


 婚約者話が持ち上がったことで、今まで親に言えていなかったが心に決めた相手がいるとわかりその相手と結婚に至った。

 や

 婚約者話が持ち上がったことで、実は貴族の身分を捨ててでも夢を叶えたいと気づき家を飛び出した。


 など。


 といっても、これらはまともなお断り理由なので()()いい例。


 悪いものだと


 婚約者話が持ち上がったことで、実は娼館通いの絶えない、しかも女性に対して加虐趣向のある変態ということが公になったや。

 婚約者話が持ち上がったことで、詐欺を行っていることが発覚し警察に逮捕されたなど。


 オリヴィアとの婚約話が出ると良くも悪くも必ず相手側の秘密が暴露され、婚約どころではなくなってしまうのだ。


 こうしてオリヴィアのあだ名は

『神の愛し子、オリヴィア』

 から

『神の愛し子、起爆剤のオリヴィア』

 へと変わっていった。


 神様が遣わした、たぐいまれな才で人の真意を見定め運命を変える起爆剤。


 腫れ物に触るような意味として。


 そして今宵の、リリグス伯爵主催の舞踏会でも『起爆剤のオリヴィア』は注目の的となっていた。


 話題の種は勿論、先日のオリヴィアとの婚約の噂が上がった隣国アリアス共和国のブノア子爵の嫡子。

 クロフォード・クルーニーとの醜聞。


『ついに隣国にまでその力を及ぼしたか』


 人々はそう口にした。


 また同時に、ある疑念を抱き始めていた。


 果たしてこれらは全て偶然なのだろうか?


 と。


 何故ならオリヴィアは婚約が上手くいかない代わりに、アーネスト伯爵の不利益になる、または危害を加えようとする相手は必ず断罪されるからだ。


 今回のクロフォードとの件も。


 ブノア子爵は以前から金銭面に関してがだらしのないところがあり、何度か貿易で不正など問題を起こしていたが、相手は代々続く名家。

 上級階級の面々と揉めたくないアリアス共和国政府は下手につつかない方が得策だと考え、見て見ぬ振りをしてきたところがあった。

 つまりアリアス共和国との外交を任されているアーネスト伯爵にとっては目の上のたんこぶ。


 それがオリヴィアとの婚約話が出た途端、夜会での婚約破棄に浮気の暴露。


 社交界での居場所をなくしたブノア子爵は、エバンス家から婚約破棄され、援助も打ち切り。

 このまま行けば経済的に没落、所領経営も難しくなりお取り潰しになることは間違いなし。


 自身の罪が()()()()オリヴィアとの婚約の噂が上がったのと同時期に発覚したからというのを理由に。


 そんな都合のいい話などあるのだろうか。


 本当は全てを知っていて、オリヴィアが。

 ローウェル家が仕組んだことではないか。

 その疑いを濃厚にさせていた。


 だからだろう。


「彼女が私を階段から突き落として殺そうとしたんです!」


 一方的に謂れのない罪で糾弾されているオリヴィアに誰も助けの手を差しのべないのは。


『また起爆剤のオリヴィアがやらかしたか』

『やはり彼女には何かあるのではないか』

『やっと彼女も見納めか。私をコケにした報いだ』


 彼女の醜聞の多さに呆れるもの。

 彼女の真意を見定めようとするもの。

 彼女の破滅を喜ぶもの。


 それぞれの思慮が入り交じり、彼女に向けられている。


 対して、階段の踊り場で貴族の淑女らしい悠然とした態度を取っていたオリヴィア・ローウェルだったが、内心ではこう思っていた。









 ……どうしていつもこうなるのでしょうか?



 と。




 ===========




「オリヴィアちゃんー!」


 王国創生の物語が緻密に描かれた美しき天井画に、広々とした空間を明るく照らし出す煌びやかなシャンデリア。

 そんな贅を尽くされたギリスティア王室が所有する御殿、ウェルシェル宮殿の豪奢なダンスホールで、壁の花にしては些か華やかすぎる白銀髪の少女。


 オリヴィア・ローウェルに向かって大きく手を振りながら深紅のドレスを身に纏った女性が駆け寄ってきた。


 後ろにいる二人の男性にも見覚えのあったオリヴィアは三人へ向け、ドレスの裾を軽くつまみ丁寧に腰を折る。


「サー・フレッド・ヒース、キーリス卿、ロザリアス夫人。お目にかかれて光栄です。今宵はお招きいただきありがとうございます」


 オリヴィアのカーテシーに対し。


「やーん。いつも通りにアメリア様って呼んでもらっていいのに。相変わらず真面目ねぇ。まぁ、そこがオリヴィアちゃんらしいんだけどぉ」


 いたずらっぽい笑みで返すのがシナモン色のウェーブ髪をなびかせた妖艶な美人。

 ドレスに合わせ身に着けたレッドベリルと同じオレンジ色の瞳を持つロザリアス夫人こと。

 故ロザリアス子爵の夫人、アメリア・サリヴァン。


「これはこれはどうもご丁寧に。だけど僕もいつも通りフレッドと呼んでいただいて構わないよ」


 オリヴィアに倣い、一礼した優男は今宵の主宰、リリグス伯爵家の三男。

 準男爵の爵位を授与したばかりのセピア色の髪とモズグリーンの瞳が特徴的なフレッド・ヒース。


「………………ああ」


 最後に会場の演奏音に掻き消されそうなか細い声で返したのが、マルグリット侯爵の次男でキーリス伯爵、黒髪短髪の精悍な顔つきの青年。

 ランドン・ヘリオット。


 三者三様の挨拶を交わし終えると、アメリアはオリヴィアの周りを見渡した。


「そういえばアーネスト卿の姿が見えないけどぉ。どちらに行かれたのかしらぁ」


 アーネスト卿とはアーネスト伯爵を叙されたオリヴィア父、アンドリュー・ローウェルのことである。

 彼女らはアーネスト伯爵の知人なのだ。


 オリヴィアは深々と頭を下げた。


「父はあいにく仕事でして。私のみが出席する運びとなりました。ご足労いただきましたのにご挨拶できず大変申し訳ありません」

「あらぁ。そうなのぉ? 自分の娘をほっぽって、仕事を優先するなんて相変わらず仕事人間ねぇ」

 眉尻を下げるアメリア。

 フレッドは肩を竦めた。


「アーネスト卿がお忙しいのはいつものことですから。仕方ないですよ」

「………………アリアスの件も」

「キーリス卿のおっしゃる通り。ここ最近は隣国のアリアス共和国との関係もありますからね。五大辺境伯爵としての対応に追われているのでしょう」


「名門貴族って大変ねぇ。それはそうと隣国といえば」


 アメリアはオリヴィアに顔を寄せた。


「聞いたわよ。ブノア子爵の嫡子との婚約話」

「ちょっと、アメリア様!」

 いきなり切り込んだアメリアにフレッドは止めにはいる。

 アメリアは口を尖らせた。


「違うわよぉ。他の連中と一緒にしないで。私はねぇ、興味本意ではなく、純粋に心配してるの。どうしてろくでもない男に当たっちゃうのかと。それにみんなオリヴィアちゃんのこと誤解してるわぁ」

「……まぁ、僕も招待した方々にどうして夜会にローウェル家の令嬢を呼んだんだ。何を企んでるんだなんて言われましたしね」

「………………」


 目を伏せるフレッドと無言のランドン。

 アメリアは頬に手を当てる。


「ほんと、どうしてなのかしらねぇ。オリヴィアちゃん。別に()()()()()()わけじゃないのにねぇ」


 アメリアに目配せされたオリヴィアはぎこちない笑みを浮かべた。


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