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7. 惚れ薬は他に使い道があるので


 ガチャリと黒い扉が開かれると、奥の部屋は薄暗く何やら多くの物が置いてあるようだった。


 手慣れた様子でマリーが部屋のそこかしこにある蝋燭へ火をつければ、室内の全体像がぼんやりと浮かび上がってきた。


 何かの像やら、魔法陣のような図柄の入った絵やら、器のような物、怪しげな液体の入った瓶などが多く存在している。


 他にも鍵の束や杖のようなもの、天秤や訳の分からない粉のようなものまで……とにかく怪しげな品々が所狭しと並べられているのだ。


「ようこそ、私の『魔女部屋』へ」


 マリーは蝋燭の明かりを受けて、あえて妖しげに微笑みながらカーテシーを披露する。


 赤い髪は蝋燭の明かりによってなおさら美しい輝きを放ち、マリーの紫色の瞳は神秘的な光をたたえた。


「やはりマリーは魔女ではないのか?」


 室内をキョロキョロ見渡すように、カボチャ頭をあちこちへ向けるリュウ・シエンはマリーへ問うた。


「私は魔女ではありません。しかし、魔女に憧れて魔術の類や呪いについてなどを色々と研究しているのです」

「ほう、それがマリーの()()()()()()()()()か」

「まあ、そうですわね。驚かれました?」


 カボチャ頭のリュウ・シエンが腰を抜かさなかったことは(いささ)か不満ではあったが、期待を込めてマリーは尋ねた。


「まあ、珍しい趣味ではあるな。だが、俺の趣味に比べればまだ真っ当な物だと言える」


 リュウ・シエンの言葉に、マリーは愕然とした。


 せっかくこの澄ましたリュウ・シエンを驚かせようとしたのに、全く驚くことなどなく……それどころかこの変わっていると言われがちな趣味を認めているようでもあるのだ。


「で、では……、そういうリュウ・シエン様のご趣味とは何ですの?」


 マリーは思い通りの反応が返ってこなかったことが悔しくて、一体どんな趣味の持ち主なのかとリュウ・シエンに尋ねた。


「俺の趣味は……、欲しいものを何としても手に入れること。その経過すら楽しむこと、かな」

「……確かに、とても自信がおありの(傲慢な)貴方にはぴったりの趣味のようですね」


 やはり若くして大きな商会の会長になるほどの人物だけあって、人よりも貪欲で傲慢なところがないとやっていけないのだろうとマリーは納得した。


「だが、なかなかマリーの趣味も面白そうだ。これは何だ?」


 そう言ってリュウ・シエンが手にしたのは、紫色の液体の入った小瓶だった。


「ああ、それは惚れ薬ですわ。それこそ、『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』で購入したものです」


 それを聞いてリュウ・シエンはカボチャ頭のままで首を(かし)げた。


「首が辛そうですね」


 カボチャは大きいから首が辛いのではないかと、マリーは明後日の方向の心配をする。


「確かにこの頭は少し重いな……。いや、そうではなくて。この惚れ薬とやらは何のために購入したんだ? こんな物があるならばさっさと使えば良いのでは?」


 確かにリュウ・シエンの言うことはもっともだった。

 

 無駄に時間を使わずとも、惚れ薬を二人が飲んで口づけを交わせば呪いは解けるかも知れないのだ。


「それは……、私が近々使おうと思って購入したものだったので。すごく貴重な物で、今はひと瓶しかありませんし、効果は短時間しかないのです」


 マリーはスッと瞳を伏せて、どこか元気のないように見えた。

 リュウ・シエンはそんなマリーの様子に、何故か声を震わせながら言葉を投げかけた。


「……もしかして、既に心に決めた相手がいたのか?」


 その問いに、マリーは即座に首を振って否定する。

 すると、リュウ・シエンはホウッと息を吐いた。


「それならば何故? 何故惚れ薬など使う必要があるんだ?」


 確かにマリーの言いたいことは良く分からない。

 好きな相手がいないにも関わらず、短時間しか効果のない惚れ薬を使うと言う。


「三ヶ月後、私の大嫌いな男性が私との婚約を結ぶ為の書類を持って屋敷を訪れるのです。そこに私がサインをしなければならないのですが、どうしても生理的に受け付けられなくて。それでは書類にサインを出来そうになかったので、惚れ薬で相手のことを好きになれば苦痛なくサインができるかと思って……」


 マリーはすっかり元気がなくなって、ポツリポツリと惚れ薬を使う理由を話したのだった。


「そんなことは伯爵から一言も聞いていない」


 低い声でリュウ・シエンがそう呟くと、マリーは慌てて兄を庇う。


「兄はまだ知らないのです。どちらにしても、断れる縁談ではないのですから。相手は私どもの領地経営にとって大切な取引先でもあるのです。それに、幼馴染ですから気心知れているといえば知れているので。書類にサインして婚約さえ結んでしまえば、きっと私は諦めもつきますし……大丈夫です」

「でも、相手の男のことを嫌いなんだろう?」

「まあ、私はあのような放蕩者(ほうとうもの)は大嫌いですね。何故婚約までしてこの領地との繋がりを持ちたいのかは分かりませんが」


 それを聞いてからはカボチャ頭の顎のあたりに手をやって、リュウ・シエンは何か考えているようだった。


「それでは、その不届きな(やから)が来るまでの三ヶ月以内にはこの呪いが解けるようにしなければならないな。そんなおかしな輩であれば、不貞だの何だの騒いで何をするか分からないだろう」

「まあ、そうかも知れませんね」


 カボチャ頭のリュウ・シエンはマリーの方へと向き直ると、至極真剣な声音で問うた。


「それでマリー、お前の好む男とはどのような男なんだ?」





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