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5. とんでもない提案


「呪いを解く方法が分かりました」


 サロンへと入るなり、マリーはリュウ・シエンとフランクに報告をした。


 フランクはソファーで俯いて、その都度重みでズレる眼鏡を何度も直したのであろう。

 やっとマリーの姿を認めると、顔を上げてマリーと同じ紫色の瞳を潤ませた涙目で喜んだ。


 カボチャの顔をしたリュウ・シエンの方は表情はもちろん分からないが、きっとマリーの報告に喜んだに違いない。


「リュウ・シエン様の呪いは、これで多分呪いは……きっと……大丈夫だと思います」

「それで? 俺のこの呪いはどうやったら解けるんだ?」


 リュウ・シエンが食い気味に尋ねてきたのがその証拠でもあった。

 マリーは更に言葉を続けた。


「呪いを解く方法は、『愛し、愛される者からの口づけ』でした」


 瞬間、サロンはシーンと静まった。


 滑稽なカボチャの被り物と異国の服という非日常の組み合わせが目の前に存在するということだけで、マリーは油断すれば吹き出してしまいそうであったのに、シーンと静まりかえったことがスイッチとなって、もはや堪えることができなくなってしまった。


「ふふっ……うふふ……」


 マリーは自分の声が静まり返ったサロンに響くのがまた可笑しくなってしまって、とうとう笑いが堪えられなくなった。


「あははっ……! ご、ごめんなさ……い! うふふ……」


 まだマリーの笑い声以外はシーンとするサロン、それにカボチャの顔をしたリュウ・シエンは微動だにしない。 


 もう何もかもが可笑しくなって、自分が何が面白くて笑っているのかさえ分からないままにマリーは笑い続けてしまう。


 やっとひとしきり笑い終えた頃、今度マリーを襲ったのは『お客様を笑ってしまう失礼を犯した自分』と『そのお客様を害してしまったのは紛れもなく実の兄』だという事実だった。


「も、申し訳ございません!」


 今になってみればどうして笑ってしまったのか分からないマリーは、サァーッと顔色を悪くした。

 マリーの赤い髪と青い顔は対照的な色味で、本当に顔色が悪く見えた。


「マリー、その背中に付いているのは何だ?」

「え?」


 フランクに指摘されて背中を見ようとするが、見えずに四苦八苦していると、ビリッとリュウ・シエンがマリーの背中から何かを破って取り上げた。

 ゆるく編まれた赤い髪を前に垂らしていたから、背中は出した格好であったのだ。

 そこに何かを貼られていたらしい。

 

 それは見たことのない模様の入った細長い紙のような物であった。


「これは……『笑札(わらいふだ)(時間差)』と書いてある。(まじな)いの札か?」

「えっ?」


 リュウ・シエンから札を受け取ると、確かに異国の文字で何か書いてある。

 リュウ・シエンが読めたのだから彼の国の言葉かも知れない。


 そしてその札の隅には『これはアンタの兄が店の商品をダメにした罰だよ』と書かれてある。


「マーサだわ。お兄様が店の商品をいくつか落としたりしたと言っていたから、きっとそれの仕返しね。どうりで無駄に笑いが込み上げてきておかしいと思ったのよ」

「でも、マリー……。僕は確かにたくさん壊してしまったんだけど、全部お金を払って弁償したんだよ?」

「何ですって? それならば完全にマーサの趣味ね」


 マーサは悪戯(いたずら)好きな老婆だから、きっと揶揄(からかわ)れたのだろう。


 しかし呪いを解く方法は本当なんだろう。

 だってマーサは言っていたのだから……『今から言うのは本当のことさ』と。


「とにかく、先程は失礼しました。リュウ・シエン様の呪いは口づけで解けますのでご安心を」


 そうマリーが言った時、リュウ・シエンはポツリと呟いた。


「……俺を愛する者などいない」


 それを聞いたマリーが思わず咳払いをしながら聞き返す。


「ゴホンッ! ……え?」


 カボチャ頭のリュウ・シエンは、自分を愛する者がいないと言う。

 それはカボチャになる前に恋人だの妻だのがいなかったということだ。

 ……ということは呪いは解けないのだ。


「何だったらそのままカボチャ頭で過ごすなんてことは……?」

「それはどう考えても承伏しかねる」

「ですよねぇ……」

「仕事にも差し障るし、おかしな噂がたってもいけないから泊まっていた宿にも帰れない。さあ、どうするか……」


 さあ、困ったとマリーは腕組みをして考え込む。

 カボチャ頭は心なしかフランクの方をじーっと見ている気がする。

 すると、フランクが恐る恐る口を開いた。

 

「あのー……、宜しければ暫くここにご逗留(とうりゅう)頂いては? 元はと言えば僕の不注意のせいですから……」


 フランクが尤もらしいことを述べたが、それはそうとしてもこの屋敷でいるうちに愛し愛される者を用意するのは難しいのではないか。

 マリーがそう思ってため息を吐いた時、カボチャ頭のリュウ・シエンがさも名案が思いついたようにして両手を合わせて打った。


「よし、マリーとやら。俺はアンタを愛することにするから、アンタも俺を愛してくれないか」

「えっ……⁉︎」


 カボチャ頭の人にそう事務的に言われても、もちろんトキメキも何もなく……マリーは顔を引き攣らせた。


「……そんなに嫌なのか」


 カボチャのくり抜いた口部分から聞こえたリュウ・シエンの声は、とても落ち込んだように聞こえた。


「い、いえ……嫌というか……。なかなか難しいことではないですか?」

「いや、一時的で良いんだ。この呪いが解けさえすれば良いのだから。俺も()()()()()()()()()()努力しよう。だから、アンタも協力してくれないか」


 事務的どころか、百年の恋も冷めるような言い方をされたマリーは思わず冷めた声で答えた。


「それは無理ですね」


 マリーのキッパリとした返事に、きっとあのカボチャの下では目を見開いて驚いているのであろう。

 大声を上げたリュウ・シエンは思わず聞き返した。


「なっ! 何故だ⁉︎」


 マリーは目を細めて答える。


「愛とはそのような物ではないのですから」


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