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27. ヘタレな主人


「それで? マリー嬢は主人のお顔を見て何とおっしゃったのですか?」


 ガルシア侯爵家からラヴァンディエ伯爵邸へ向かう馬車の中で、リー・イーヌオは人の悪い笑みを浮かべて問うた。


「……素敵だと言った……気がする」

「気がする?」

「お前が現れたから、それ以上マリーも何も言わなかったんだ」


 マリーのことを少し思い出すだけで頬を赤く染める主人を見て、リー・イーヌオはもはや呆れた様子を隠さない。


「まさか祖国では冷酷無慈悲な商会長と恐れられる貴方が、一目惚れした相手のことをそこまでお可愛らしい表情で想うなんて……国に残った商会のメンバーは誰も信じませんよ」

五月蝿(うるさ)い。それにしても……マリーはフランク殿の婚礼が終わるまではこの国を離れたがらないだろうし、もう一年くらいここで仕事をして帰るか」


 祖国の商会に残したメンバーからは、カリスマ的存在の会長が居なくてなかなか苦労していると報告は受けていた。

 しかし、リー・イーヌオもこの国が案外気に入っていたのだ。


 此度親しくなった主人の義兄となる予定のフランクという人間は実に面白いし、この国にはなかなか商売になるものも多い。

 もう少し色々と見て回ってから帰っても良いかと判断した。


「そうですねぇ。もう暫くハオラン()には祖国で一人、頑張ってもらいましょうか」

「リー・ハオランは兄であるお前と違って真面目で信頼できるから、もう暫く滞在が延びたところで大丈夫だろう。上手く祖国でやってくれるさ」

「きっとそう伝えたら泣いて喜びますよ(嫌がりますよ)


 リー・イーヌオは祖国に残した弟の叫びが聞こえてくるようであったが、それよりもこのなかなか面白い国でもう暫く主人に付き添ってみたいという自分の欲の方が勝ったのだった。


「ああ、それと。リー・イーヌオ」

「なんですか? 我が主人」

「プラドネル伯爵家との今後の付き合いについてだが、あの馬鹿娘(サラ)を修道院にでも入れて更生させるならば今まで通りの付き合いをすると伝えておけ」

「おやおや、えらく寛大な処置ですね? 主人らしくない」


 そうリー・イーヌオがリュウ・シエンに向かって言えば、リュウ・シエンはそっぽを向いて答えた。


「あんまり非道な事をして、もしマリーの耳にでも入ったらどうする? マリーは優しいから俺の判断が厳しいと怒るかもしれない。本当ならばマリーのことを傷つけたあんな女は、行方知れずにでもなって貰っても良いのだが……。まあ今回だけは温情を施してやることにする」

「成る程。承知しました」

「あと、アルバンのことはお前に任せる。俺より余程お前の方が人を嫌な目に合わせるのが上手いからな」

「承知しました。あの馬鹿げた性格をしっかり叩き直してやりましょう」


 リー・イーヌオは今から楽しみだと意地悪げに笑った。

 この様子だと、きっとアルバンは地獄を見ることになるだろう。

 

 商会長のリュウ・シエンは冷酷無慈悲だと言われるが、その右腕であるリー・イーヌオは他人の苦しみが自分の悦びだというタイプなのだ。

 今までもその厄介な性質の犠牲になった輩は数えきれないほどにいたのだから。


「そういえば、マリー嬢に贈った宝飾品はよく似合っていましたね。きちんとお話になったのですか? 主人が贈ったものだと」

「……カボチャ頭の時にそう告げた」


 耳まで真っ赤にしたリュウ・シエンはボソリと呟くように答えた。

 長年仕えているリー・イーヌオも、このように感情豊かなリュウ・シエンを度々見るのは珍しい。


「それで? マリー嬢は何と?」

「気恥ずかしくなって、そのあとすぐに口づけをしたから何も言ってなかったような……。いや、でもその前にセンスが良いとかなんとか言っていたな」

「へぇー……。主人は本当にマリー嬢のこととなるとヘタレなんですねぇ」


 リュウ・シエンが女一人にまさかこんなに骨抜きにされるなど、リー・イーヌオも意外ではあった。


 しかし主人の幸せを願っているのは本心なので、この際マリーと幸せになってくれれば良いと思っている。


「何とでも言え。マリーがあんなに可愛いのが悪い。はじめは『この瓶底眼鏡は何を言っているんだ』と思っていたが、今ではフランク殿の言うことがよく分かる」

「我が主人が幸せそうでなによりです。兎にも角にも主人が機嫌が良いのは私としても嬉しい限りですね」


 普段はかなり()()()()()()()使()()()()()リュウ・シエンも、機嫌が良ければ控えるかも知れないと期待するリー・イーヌオは、すぐさまその希望を打ち砕かれる。


「今から忙しくなるぞ。婚礼の準備もしなければならないし……。ああ、でもマリーに似合う衣装を仕立てるのはさぞ楽しいだろうな」


 何を想像しているのか、にやけた主人に向かってリー・イーヌオはもっともな事を尋ねた。


「それで、主人はマリー嬢にきちんと求婚されたんでしょうね?」

「……そういえば、してない」

「はい? あれほどテラスで十分な時間を与えたでしょう? 一体何をしていたんですか?」


 ガックリと肩を落として、今はもうカボチャではない頭を抱えたリュウ・シエンに、リー・イーヌオはトドメのように言葉を発した。


「我が主人がマリー嬢のこととなるとそこまで詰めが甘いとは。さっさと求婚してくださいね、本当にヘタレなんですから」

 








 


 


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