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24. 真実は


「確かに、いつもと雰囲気が違うな。しかし、よく似合っている」

「この宝飾品、珍しくお兄様から渡されたんです。いつもこんなセンスの良いものを選んではくれないのですけれど。ふふっ……」


 マリーがそう言うと、リュウ・シエンは何故かカボチャ頭の額の辺りに手をやってホウッとため息を吐く。


「……もうすぐ日付が変わるな。ハロウィンというものを最初にはじめた民からすれば一年の終わりは今日だそうだ。日付が変わればまた新しい年が始まる」

「そうらしいですね。私も本で読みました」

 

 マリーはリュウ・シエンが一体何を言いたいのかは分からなかったが、このまま取り留めのない話をするだけでも楽しいだろうと考えていた。


「マリー、今ここで試してみるか? 呪いが解けるかどうか」

「……え?」

「『愛し、愛される者からの口づけ』で解ける呪いがどうなるか、知りたくないか?」


 咄嗟にすぐ答えることの出来ないマリーに、リュウ・シエンはそっと近づいた。


 カボチャ頭の目のくり抜かれた部分から、マリーが心を踊らされる黒い瞳が覗いているのが分かるほど近くまで歩み寄ってきたのだ。


「……知りたいです」


 小さく、でもはっきりとしたマリーの答えに、リュウ・シエンは懐から出した懐中時計をチラリと見た。


 そしてマリーの両肩に手をやり、美しいイヤリングが着いた耳元で囁いた。


「その宝飾品は俺からの贈り物だ。よく似合っている」


 マリーは驚いて、思わず目を見開いてからリュウ・シエンの方を見ようとしたが、すぐ目の前がオレンジ色に染まって何も見えなくなった。


 そして、唇に冷たく硬いカボチャの皮の感触が触ったかと思えばスッと離れて行った。


「リュウ・シエン様……?」


 二人の距離はまだ近く、リュウ・シエンはマリーの肩に手を置いたままであったが、その顔はカボチャのままで。

 

 くり抜かれた部分からは黒い瞳がじっとマリーを見つめている。


「やっぱりダメでしたね。ごめんなさい……」


 マリーはリュウ・シエンが自分に対して『愛する』気持ちを持っていないからだと思った。


 自分はリュウ・シエンを愛しているのだから、お互いが想い合っていれば解けるはずの呪いは、未だ彼を蝕んでいるという事実は、リュウ・シエンがマリーのことを愛していないからだと。


「……あれ? 何故だ?」


 リュウ・シエンはまた懐から懐中時計を出して時間を確かめている。


「何故って……、貴方が私のことを愛していないからでしょう……」


 マリーはみるみるうちに涙をそのアメジストのような瞳にたたえて、悲し気に声を震わせた。


「いや、待て! 俺はマリーを愛している! 何なら、マリーが俺のことを知る前からずっと、俺はマリーのことを想っていた! いや、それよりも……。何故日付が変わっているにもかかわらず呪いが解けないんだ⁉︎」

「日付……?」

「この呪いはハロウィンの日が終われば解けることになっているはずで……!」

「なっているはず……?」


 二人の間にシーンとした空気が流れた時、テラスと広間を隔てるカーテンがシャッと開いて、そこからリー・イーヌオが手を叩きながら現れた。


 その後ろには申し訳なさそうなフランクもついて来ている。


「我が主人、よくぞおっしゃいました。貴方はこうでもしなければきちんとマリー嬢に()()()気持ちを伝えないでしょう? もしこのまま呪いが解けたらチャンチャン、めでたしめでたしという感じで終わらせてしまうつもりだったでしょう」

「リー・イーヌオ、お前は……。時計に細工したのか?」

「はい。まだ日付の変わる三十分前です」


 リュウ・シエンは(うずくま)って頭を抱えている。

 そんな主人を見てリー・イーヌオは不敵に笑った。


「我が主人、気持ちは言葉にしないと伝わらないものです。きちんとマリー嬢に全てをお話ください。いいですね?」

「……リー・イーヌオ、分かったからマリーと二人にしてくれ」


 それではと、リー・イーヌオとフランクは再びカーテンの奥へと消えて行った。


「マリー、ごめんよ」


 去り際にフランクはマリーに向けて泣きそうな顔で一言謝っていく。


「リュウ・シエン様、一体どういうことなのか説明してくれますよね?」


 マリーは頭が混乱して訳が分からないが、とりあえずリュウ・シエンが自分のことを愛していると言ったことだけは理解できた。


 気を抜くと緩みそうになる頬に叱咤しながらリュウ・シエンを問い詰めた。


「マリー、どうかフランク殿を怒らないでくれ。全ては俺がフランク殿と計画したことだ」


 そう言ったリュウ・シエンから語られたことは、マリーにとっては嬉しい誤算であったが、同時に何となくモヤっとした気持ちが残る内容であった。


 フランクと知り合った後にたまたまマリーを見かけてから、一目惚れしたこと。

 それでマリーのことを色々調べあげたこと。


 兄であるフランクと話した結果、認めてもらって協力を得るために自ら呪いにかかったこと。


 実は『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』の老婆マーサもグルで、マリーとの仲を取り持って貰うために『愛し愛される者との口づけ』が呪いを解く条件だと告げてもらったこと。


 しかし実はこのカボチャ姿はハロウィンの夜までの期間限定の呪いであること。


 今更マリーに本当のことを言うのが怖くなって、時間を合わせて口づけを交わして呪いが解けたことにしようかと思ってしまったことを明かした。


「はぁー……」


 マリーはそれはそれは大きく息を吐いた。

 


 


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