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23. どうして魔女と呼ばれるようになったのか


 まだ宴が始まったばかりのせいか、テラスには他に人がおらずマリーとフランクはシャンパンで乾杯をして喉を潤した。


 ハロウィンというだけあって、テラスから望める庭には何人かの仮装した人々が見える。

 数多くのランタンで明るく照らされた庭は、美しく手入れされており人々は咲き誇る花々を酒を飲みながら鑑賞しているようだ。


「マリー、実はね報告したいことがあるんだ」


 満月に照らされたフランクは、微笑みながらそう切り出した。

 フランクの頬は酒のせいか早くから少し赤く染まっている。


「なあに?」

「実はね、僕結婚しようと思うんだ。相手はマリーも知ってる女性なんだけど、やっと了承してもらえたから」

「お兄様にそんな方がいたなんて知らなかったわ! もっと早くに教えてくれても良かったのに」


 紫色の瞳をまん丸に見開いて、驚いた声音でマリーはフランクに抗議した。


「いや、タイミングがね……。それで、マリーにもお祝いして欲しくて。今日はラヴァンディエ伯爵家にとっても事業立ち上げ成功のおめでたい日だから、ちょうどいいかなって」

「それで? どなたなの? どこで出会ったの?」


 マリーは兄の相手がどのような人なのか、とても気になって前のめりに尋ねた。


「エマだよ」

「エマって、あのエマ?」

「そう、僕はずっとエマのことが好きだったんだ」


 兄の言ったことを、マリーはゆっくりと噛み締めるようにして理解する。

 その意味がようやく分かると、花が綻ぶような眩しい笑顔になって手に持ったグラスを置くとフランクに抱きついた。


「おめでとう! お兄様! エマは私の本当の家族になるのね! 嬉しいわ!」

「良かった。マリーが祝福してくれて僕も嬉しいよ」

「それで? いつ式を挙げるの?」

「まだそこまでは考えられていないけど、準備をしていたら半年くらい先になるかなぁ?」


 マリーは花嫁姿のエマを想像して本当に嬉しくなった。

 なるほど、今日のエマの態度はそういうことなのかと納得がいったのだ。


「素敵だわ! お兄様、エマと幸せにね」

「ありがとう、マリー」


 二人は微笑みあってもう一度シャンパンで乾杯をした。


「失礼します。フランク様、少しよろしいですか?」


 テラスと広間を仕切ったカーテンから声をかけてきたのはリー・イーヌオだった。


「リュウ・シエン殿もこの事業に深く関わっているからね。このパーティーに呼ばれているんだよ」


 そうマリーに説明してから、フランクはカーテンの近くへと寄った。

 そこで一言二言やり取りをしてから、マリーの方へとすまなそうな顔をして声をかけた。


「ごめんね、マリー。どうしても行かないといけないみたいだから、ここで待っててくれる? リュウ・シエン殿が僕の代わりに一緒にいてくれるから」

「えっ……! お兄様!」

「じゃあね、マリー。行ってくるよ」


 そう言ってフランクはリー・イーヌオと連れ立って何処かへ行ってしまったようだ。

 そして入れ替わりにテラスへと出てきたカボチャ頭のリュウ・シエンは、どこか落ち着かない様子だった。


「フランク殿が帰るまで、俺が共にいよう」


 そう言って、マリーの傍まで歩み出たリュウ・シエンはいつもより豪華な刺繍の入った異国の衣装を纏っていて、マリーは見慣れぬそれに思わず見惚れていた。


「あ、ごめんなさい。思わずその衣装に見惚れてしまって……」

「そうか? これは祖国ではありふれたものだが、確かにこちらに来てからは皆に声を掛けられるな。今となってはこの顔の方が目立っているが、今日は仮装している客も多いから俺も悪目立ちしないようだ」


 確かに今日は仮装している客も多く見られたから、カボチャ頭でうろついていても目立つことはないだろう。


「もしかしたら、それもガルシア侯爵様の計らいでは?」

「そうかもな。さすがに聡明な方だ。俺がこのような姿になったことを逆に楽しんでいたぞ」

「……それでも、この晴れの日までに元に戻すことが間に合えば良かったのですが……。お役に立てず申し訳ありません」


 マリーが申し訳なさそうにしてそう言うと、リュウ・シエンは暫く沈黙した。


 そして、懐から懐中時計を出して時間を確認する。


 カボチャの頭をしているからその表情はよく窺い知れず、マリーは不安そうな表情になった。

 そんなマリーを知ってか知らずか、リュウ・シエンは取り留めのない話をし始めた。


「なあ、マリー。聞きたかったんだが、どうしてマリーは魔女令嬢と呼ばれるほどに、魔女に憧れて研究をすることになったんだ?」


 思わぬ質問にマリーはたじろいだ。

 それでも一度首を傾げて考え込んでから、ポツリポツリと語りはじめた。


「そうですね……、きっかけは両親が馬車の事故で二人とも急に亡くなった事です。その事を色々と言う人たちがいたんです。『こんな不幸な事故は何かの呪いだ』とか。まだ子どもだった私には、それがとても恐ろしくて……」


 リュウ・シエンは黙ってマリーの話に耳を傾けていた。


「家族が兄と二人だけになってしまった時、もし兄にも呪いがふりかかって居なくなってしまったらどうしようと私は本気で心配になったのです。それで、初めて『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』へ行ってお守りを買い、兄に渡したんです。そしたら、兄は『ありがとうマリー』ってすごく喜んでくれて……」


 未だにフランクはあのお守りを執務室の机の引き出しに入れてくれているのをマリーは知っていた。


「それからです。『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』に入り浸るうちに、魔女に憧れて色々と集めたり研究し始めたのは。両親が亡くなったのは呪いなんかじゃないって、自分と周りをを納得させたかったのかも知れません。今では勿論、そんなこと馬鹿げた事だと分かっています。でも、その時は必死だったから……。お陰で両親が居なくても、兄と魔女の部屋があれば私は心穏やかに暮らして来れました」


 両親が一度に亡くなった悲しみを紛らわせるように魔女の研究に没頭する事で、マリーはその辛さを乗り越えることができたのだった。


「今では魔女令嬢と呼んで馬鹿にされたって、気にしてないんです。だって、私に勇気をくれたのは確かにあの魔女部屋と不思議なアイテムたちだったから。この黒いドレスも、社交界では最近になって人気が出てきたのですって。はじめは皆気味悪がっていたのに……不思議ですよね」


 マリーはそう言って、体に沿ったラインの黒いドレスをヒラリと翻した。

 満月の光に照らされたマリーは、赤毛の美しい魔女が魅惑の瞳で誘惑するかのようにリュウ・シエンに視線を向けた。


「どうですか? このドレス、少し大人っぽい物を(あつら)えてみたんです」


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