18. 呪いを好機に
アルバンの急襲によってフランクの本当の姿が明らかになってからというもの、マリーは兄に少しばかり厳しくなった。
「マリー! どうしよう、今日の夜会にはどの服がいいかなぁ?」
「お兄様、どの服を着ていけば相応しいのか、本当はよく分かってらっしゃるんでしょう?」
「……マリー、なんだか僕に冷たい。ジョルジュ、マリーが僕に冷たいよ」
フランクは近くに立つジョルジュにそう訴えかけたが、ジョルジュは呆れたようにため息を吐いてから口を開く。
「ですから、そのようにお嬢様をわざと困らせるような態度は改善なさいませと何度も申し上げたでしょう。いつか露呈して困る日が来ますよと、この爺はそう申し上げて参りました」
妹に構って欲しいがために情けない兄を演じてきたフランクに、ジョルジュは何度となく進言してきたのだが、フランクは『マリーは、情けない兄だからこそ優しくしてくれるんだよ』と言って聞かなかったのだ。
本当に、フランクのマリーに対する愛着と執着は並大抵のものではない。
「マリー、そう言わずに今日の服を決めてくれないか? 頼むよ」
フランクが瓶底眼鏡の奥でウルウルと涙目になれば、マリーはハァっと大きく息を吐いてから服を選び始めた。
「仕方ないわね。お兄様、今日はこちらを着てお出かけください」
なんだかんだと言いながらも、マリーは兄のフランクに甘いのだった。
それも仕方あるまい、もうこの世の中でたった二人だけの家族なんだから。
「ねぇ、マリー。マリーはリュウ・シエン殿のことはどう思う?」
フランクが服を着替えながらのんびりとマリーに尋ねた。
あれからもリュウ・シエンはなんだか忙しそうに大量の書類手続きをしていたり、リー・イーヌオも頻繁に屋敷の外へと出かけていた。
「どう思うって……」
「リュウ・シエン殿との契約恋愛は順調なの? 呪いは解けそう?」
「……お兄様、どうしてそんなに他人事なんですか? 元はと言えばお兄様が……!」
マリーは図星をさされたような気がして、思わずそのようにつっけんどんに返してしまった。
しかし、今日のフランクはそんなマリーにも怯むことなく言葉を続ける。
「でもマリー、君はリュウ・シエン殿のこと好きでしょう?」
優しく穏やかに、まるで天気の話をするかのように自然り問いかける兄の質問に、妹のマリーは一瞬グッと言葉に詰まった。
しかしそれでも家族であるフランクにはきっとずっと隠し通すことなど出来ないと、素直な気持ちを吐露した。
近頃胸につかえていた悲しみとか辛さとかを、ただ一人の肉親であるフランクに受け止めて欲しかったのかもしれない。
「私は契約恋愛なんて関係なくあの方のことが好きなの。でも、リュウ・シエン様は呪いを解くために私に優しくして下さってるのよ。それが辛くて悲しくて、どうしたら良いか分からないの」
いつの間にか着替え終えていたフランクはマリーをギュッと抱きしめた。
そして優しく、愛しい妹を包み込むように囁いた。
「マリー。君が思うほど、事態はややこしくはないんだ。ごめんね、僕がややこしくしちゃったんだね。でも、きっとマリーは幸せになるよ。僕がきっと、マリーを幸せにするから」
「……お兄様? なんだかお兄様が私に求婚しているみたいだわ。ふふっ……」
「ははっ……、そうだね。でもね、僕はマリーの幸せを願っているよ。その為にはもうひと頑張りだ。マリー、ハロウィンまで待っていて。きっとその日までには全てうまくいくから」
フランクは一見取り留めのない話をしているように聞こえた。
しかし、なぜかマリーはとても安心したのだった。
「分かったわ、お兄様。ハロウィンはもうすぐね。それまで私も、出来るだけ自分の気持ちに素直になるわ。リュウ・シエン様の呪いというキッカケを、この恋にとって好機にしてみせるわ」
そうマリーが意気込むと、フランクは何故か困ったような顔をして笑った。
「マリーが取られちゃうとなると、僕は寂しいなぁ」
「何言ってるの。お兄様も早くどなたか良い方と縁を結んで幸せになってね」
マリーとフランク、たった二人だけの兄と妹はそう言って笑いあった。




