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13. サラという苛烈な令嬢


 それから数日、リュウ・シエンは屋敷内でリー・イーヌオに指示を出しながら商談をまとめていた。


 まさかカボチャ頭では商談の場に出向く訳にはいかず、軽い伝染病にかかっていることにしてリー・イーヌオを代理としていた。


 マリーはそんなリュウ・シエンとリー・イーヌオの様子を気にかけながらも、フランクと共に行う領地経営や家政の取り仕切りに忙しく日々は過ぎていく。


 あれから時々マリーとリュウ・シエンは魔女部屋で過ごすことがあった。

 大概は時間の空いた時にリュウ・シエンがマリーを誘って、あの部屋にある奇怪な道具や物について講義を受けるといった形であった。


 リュウ・シエンは商売人だから、『これは売れるかも知れない』だの『こうしたらもっと人気が出る』だの考えているようで、マリーはそれでも共に同じ物についての話題を共有出来る仲間が出来たことを喜んだ。


 今日はフランクが他の貴族の招待を受けて社交場へ出掛けることになっていた。

 朝からマリーは招待に相応しい服装をフランクにさせてから、やはりずれてしまう眼鏡を直してやった。


「お兄様、大丈夫? あまり緊張しないでね」

「うん……。心細いけど、そうも言ってられないしね」

「最近のお兄様は以前と比べて随分と堂々としているから、社交場でもきっとうまくいくわ」

「ありがとう、マリー。行ってくるよ」


 フランクを送り出した後、マリーは肩の力を抜いてホッと一息ついた。

 共にフランクを送り出した家令のジョルジュが、そんなマリーに気を利かせて声をかける。


「マリーお嬢様、サロンでお茶でもいかがですか? せっかくですから、リュウ・シエン様とリー・イーヌオ様もお誘いしては?」

「そうね。二人に声をかけてきてくれる? 先にサロンで待っているから」

「承知いたしました」


 そう言って、玄関ホールでジョルジュと別れたマリーはサロンの方へと足を踏み出した。

 その時玄関のすぐ外に馬車が停まる音がして、マリーは足を止め扉の方を振り返った。


「お兄様、忘れ物でもしたのかしら?」


 傍で控えていたエマが玄関扉の方へと向かうと、エマが手を掛ける前に扉が勢いよく開いた。


「マリー・ド・ラヴァンディエ! いらっしゃるんでしょう⁉︎ 出てきなさい!」


 突然玄関ホールの内部へ飛び込んできたのは、クルクルと縦に巻かれた金髪、それにエメラルドのような緑の瞳が美しいが少々キツい顔立ちの女性だった。


「失礼ですが、どなたですか? 本日お嬢様はどなたともお約束はないはずですが」


 エマがさっと前に歩み出てマリーを視界から隠すようにすると、マリーは近くの柱の影に隠れた。

 もし不審者であれば非常に困ったことである。


「どこかで見たような気もするのよね……」


 柱の影で呟いたマリーは、やがてハッと思い出して玄関ホールの方へと一歩を踏み出した。


「サラ・ド・プラドネル伯爵令嬢、ごきげんよう。本日はどのようなご用向きですか?」


 マリーは堂々とした身振りで目の前の令嬢に向かい合った。


「あなた! よくも私のアルバン様を奪ってくれたわね! アルバン様には私というものがいるにも関わらず、家の事業を盾に婚約しろと脅しているそうじゃない!」


 どうやらサラという伯爵令嬢は、背後に控えるビクつく侍女一人だけを連れて乗り込んできたらしい。

 

 マリーはつとめて冷静に、目の前の令嬢の対応をするべくスッと胸を張って答えた。


「何か勘違いなさっていらっしゃるようですが、私はアルバン様とは何の関係もございませんし、婚約を強いているという事実もございません」


 マリーの言葉を聞いたサラは、尚更頬を真っ赤にしてその目を吊り上げた。


「そんなはずはないわ! アルバン様からお聞きしたのですから! よくもまあそんな嘘を吐けること!」


 どうやらこのサラという令嬢は、アルバン本人からそのように説明を受けたようだ。


 アルバンは女癖が悪くてほうぼうに節操なく手を出すような男だったから、サラとの別れ話をする際にマリーの名を出して利用したのだろう。


「それで、何がおっしゃりたいのですか? サラ・ド・プラドネル伯爵令嬢。このように突然訪問してそのように興奮されては、一体私に対して何がご希望なのか分かりませんわ」


 マリーはアルバンに対する苛立つ気持ちを抑えきれずに、つい棘のある言い方になってしまった。


「アルバン様に婚約を迫るのをやめなさいよ! アルバン様と婚姻を結ぶのはこの私なんですからね!」

「……そうですか。それではそのように先方にお伝えいたします」

「何なの⁉︎ まるでアルバン様の方が貴女を望んでいるような言い方をして! 思い上がるのも大概にしなさいよ!」


 別にマリーだって婚約を望んでいるわけでもなく、勝手にアルバンが言っているだけなのだ。


 それなのに何故こんなにも敵意をぶつけられなければならないのかと、マリーはその理不尽さに歯を食いしばっていた。


 その時、廊下の方からリュウ・シエンのはっきりと通る声がした。


「それではそのアルバンとかいう奴に、マリーには他に婚約者が出来たと伝えておいてくれ。アンタもそれなら安心するんだろう」


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