みんなの未来②
「え、いいのですか?」
敗者復活戦が、四年も延長されますけども。
「もちろん。君の幸せは俺の幸せでもある。でも、一つ提案させてくれないかな。二人の夢を同時に叶えるのは、どうだろう。大学に通いながら夫婦生活するのも、悪くないだろう?」
「……学生結婚?」
そんなこと、考えたこともなかった。どう返事すればいいか分からない。おでことおでこをコツンと合わせて、ラウル様が微笑む。
「返事は今でなくても構わない。ご両親と相談もしたいだろう。ただ、もう一度、プロポーズさせてくれるかな」
彼は、再び片膝をつき、指輪を差し出すと、真っ直ぐに私の目を見つめる。
「アリス、心から君を愛している。君と一緒に人生を歩みたいんだ。二人で幸せになろう。俺と結婚してください」
(もう! こんなの、断れるわけないじゃない!)
彼の強い想いが、私の頑なになっていた心を動かした。というより、心を鷲掴みにされて、ぐちゃぐちゃにされたと言ってもいい。
本音と建前が混ざり合って、新たな気持ちが芽生え始めている。まさか、こんな想いが自分の中に生まれるなんて、一年前は考えもしなかった。
「あの……」
他の人に気を遣ったり、世間体を気にしたりするのは、もうやめよう。自分を軸にして考えなくては、絶対に後悔するのだから。
「私も、今まで言えなかったことがあります」
勇気を持って真心を示してくれた彼に、恥ずかしいと言っている場合ではない。
母が覚悟を決めろと言っていたではないか。この一言が、多くの人の未来を変えてしまうことになっても、また、たくさんの人を悲しませることになったとしても、私は目の前の彼を大切にしたい。
自分の人生に責任を持つ時が来たのだ。
私が幸せになることで、敗者復活戦の参加者の皆さんに報いることができるかもしれない。
「ラウル様が、好きみたいです」
とうとう言ってしまったと身体がこわばるが、ラウル様は目を潤ませていた。
「……夢だろうか。君から、そんな言葉をもらえるなんて……!」
誠実に向き合ってくれた彼に対して、きちんと言わなくてはならないと、彼の手を取った。
「だから、返事は、はい、です」
その瞬間、「うわああああああ!」と地鳴りのような声が聞こえて振り向くと、たくさんの騎士の皆さまが泣きながら走って来る。
「ラウルおめでとう! 一発殴らせろ!」
「名誉会長! ここまで長かったな!」
「ラウルのおかげで、俺たちは夢を見られた! ありがとう!」
口々に祝福の言葉をくれるが、ちょっと待ってもらいたい。誰もいないと思っていたから、こんなことやあんなことが出来たし、言えたのだ。
「もしかして、もしかすると、全部、見られていたのー!?」
恥ずかしすぎてしねる。
私が絶叫すると、ラウル様は苦笑いして「ごめん、俺も気付かなかった」と言って抱きしめてくれた。
一通りの騒ぎが収まったところで、お茶会の会場へ戻ると、泣き濡れたレオンがいた。ローズとユルに慰れめられている。ラウル様の手を解いて、レオンの側へ行く。
「レオン。私、決めたわ」
「それでいいの? もう戻れないよ?」
我が国の法律では、離婚は認められていない。だからこそ、慎重に婚約者を選ぶのだ。
「うん」
「そうか。アリスが決めたなら仕方ないね。
本当は、僕に勝ち目がないことは、分かっていたんだ。でも、夢を見ていたかった。かっこ悪いよね」
ポロポロと涙をこぼすレオンを見て、私もたまらない気持ちになった。
「そんなことはないですわ。ラウル様と張り合えるのは、レオンしかいなかったのですから。あなたがプレッシャーをかけたから、ラウル様も負けじと頑張れたのですわ」
「ちえっ、負けてくれればよかったのに。ローズも、板挟みでつらかっただろう。ごめん」
「いいえ」
ローズは気丈に否定するが、泣かないのを必死に我慢しているのが分かる。
「アリス、拒否できないと分かっていて、君の優しさにつけ込んでいたんだ。ごめんね。アリスを愛した日々に悔いはないよ。今までありがとう」
握手を求めてきたレオンの手を、ぎゅっと握りしめる。
「ありがとう、レオン。これからも、友だちでいてくれる?」
「もちろん。僕が親友をやめたら、ローズしかいなくなるだろう?」
「悔しいけれど、その通りなの」
笑いながら、涙がこぼれる。生まれた時から一緒に育ってきたのだ。レオンのいない人生は考えられない。
三人の友情はとても大切なもので、代わりなどいない。レオンとは恋人にはなれなかったけれど、大切な人には変わりない。かけがけのない親友だ。
私とローズ、レオンは泣きながら抱き合う。この涙が天に還って、想いが昇華することを祈りながら。




