帰宅は誰と
ユルが行ってしまった。意外にあっさり引いてくれてホッとする。
「ふう、諦めてくれて良かったわ」
私の言葉を聞いて、レオンがひっくり返る。
「君の耳はどうかしてる! ユルは全く諦めていないからね」
そうなのか。
いまいち表現方法が曖昧で分かりづらい。
階下が賑やかになってきた。ホテル側に危険はないと彼らが伝えたのか、人が戻ってきたようだ。やっと平穏な日常が戻ってきた。
「奴の身元が気になるな」
「アリスに求婚したことからも、貴族であることは間違いありませんね。ローズなら知っているかもしれませんし、僕も調べてみます」
今後の対応を相談する二人は、まだまだ元気そうだが、私はもう限界だ。ふわっと、意識が遠のく感覚がする。
「アリス殿、眠いのか?」
「……はい、少し」
いえ、かなり眠いです。
許されるのなら、今すぐ寝たい。
「無理もないよ。この部屋は検分するだろうから、僕の部屋で寝る? ベッドは一つだけど、問題ないよ」
「却下だ。他に空いている部屋があるかもしれないが、警備上の不安がある。俺が家まで送ろう」
そういえば、私には護衛もいなかった。何かあればホテルの責任になってしまう。これ以上、他人様に迷惑をかけるのは避けたい。
「いいえ、僕が送ります! だって、あなたはもう、自由だから!」
いや、人は生まれながらにして自由だと、誰かが言っていた気がするぞ。しかし、どうしよう。今の私に思い付く選択肢は、以下の三つ。
①ラウル様と帰宅する。
②レオンと帰宅する。
③三人で帰宅する。
それがもたらす現実は、こんなところだろうか。
①騒動が沈静化した証明。
②婚約者交代の意思表示。
③さらなる混沌。
そこへ、マルセル様が飛び込んできた。
「ご無事で何よりです! ラウル、ハゥラスはどうなった!」
「死んだ。遺体は消えた。呪いの影響だろう」
「そんなことあるのか!? 上が納得するかなあ」
彼は困ったように、頭をガリガリ掻いた。
「事実だと押し通せ。すまないが、俺はアリス殿を家まで送る」
ラウル様が先手を打った。何も知らないマルセル様は、素直に了承する。
「分かった。後は任せておけ。レオン、悪いが残って説明してくれるか?」
「え、あ、……はい」
意外だ。
レオンは、唇を噛み締めながらも受け入れた。二人は面識があるようだし、身分的には下になるマルセル様の要望を断れないとは、どんな関係か気になる。
「レオン、何と言ったらいいか。その、ごめんなさい」
「……いいんだ。せめて、馬車の中では、いつもの鈍い君でいてくれ」
なんて?
レオンは気丈に振る舞うが、先ほどの勢いは消えて、全てを諦めたような悲しい顔をしている。
「……あーあ、こんなに早くクリアしちゃうなんて、さすがは優勝者だよ」
クリアとは?
彼の言っている意味は分からないが、無理して明るく振る舞っている姿に、心が痛む。昨日の愚かな私が、彼を振り回してしまった。本当にごめんなさい。
「アリス殿、帰る前に服を着替えるといい」
それもそうだ。
メイドさんに来てもらって、ズタズタのドレスからワンピースに着替えた。改めてドレスを見ると、なかなか際どい裂け方をしているではないか。
危ない、危ない。
みなさまに見苦しいものをお見せしてしまうところだったと、シーツで隠してくれたラウル様に感謝した。




