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ハゥラスの心

「退避ーっ!」


 ラウル様の声が響き渡ると、ドア付近にいた人たちは一斉に駆け出した。「ホテルから出るんだ!」「みんな逃げろ!」と各部屋を回る。ラウル様も「レオン! アリス殿を守れ!」と言って、宿泊客の避難誘導に向かった。


「言われなくても! さあ、僕たちも行くよ!」


 レオンがそう言うけれど、私は動くことが出来なかった。これだけの力が臨界点を突破したら、大爆発を起こすだろう。


 おそらく、今から逃げても間に合わない。


 私の脳裏には、街で出会った人たちや、先ほどの賑やかな光景が甦る。無関係の人たちを、巻き込むわけにはいかない。なんとかしなくては。


「何をしているんだ!」


 レオンが急かし、私の手を引く様子を、ニタニタとハゥラスが見ている。その顔は、意地悪く憎らしいのに、なぜか泣きそうな顔にも見えた。


 ……誰かに似ている?


 その面差しが、呪いによって心のままに動けなかったであろう、ラウル様のイメージと重なったとき、私の中で、一つの考えが閃いた。


 彼も、そうなのかもしれない。


 見た目や言動で分かりづらかったけれど、ハゥラスから発せられる感情は、深い悲しみだったように思う。どれだけ悪態をついていても、その根底にあるのは、怒りや憎しみではない。悲哀だ。


「……何が、そんなに悲しいのですか?」


「っ!?」


「あなたの悲しみを、私に分けてください」


 予想もしない言葉に驚いたのか、ハゥラスは目を見開いたままだ。きっと、考え事をしているのだろう、魔力の圧縮スピードが明らかに落ちている。


 頭の中で言葉を選びながら、私は彼との距離を詰めて行く。


「正気か!?」


 レオンは狼狽えるが、好機を逃すわけにはいかない。集中を切らさないように、ハゥラスだけを視界に入れる。


「……復讐は、ご自身が望んだことですか? もしかしたら、違うのではないですか?」


「そ、そんなこと、貴様に言う義務はない!」


 動揺しているのを見ると、当たらずとも遠からずといったところだろうか。ハゥラスを追い詰めたのは、何だろう。


「心を強く持ってください。あなたの人生は、あなたが決めて良いのですよ。私はあなたの味方になり、友となりましょう。もう、一人で苦しまなくて良いのです。どうか、振り上げた拳を下ろしてはもらえないでしょうか」


 私の言葉が、少しは届いたのだろうか。彼は俯き、黙ってしまった。


「もうやめてくれ!」


 大人しくなったハゥラスを見て、逃げるなら今しかないと判断したのか、レオンが私の腕を強く引く。


「待って!」


 その会話を聞いて、彼は絶望の色を濃くした顔を上げた。


「……行くのか。お前も俺を見捨てるのだな。先ほどの言葉は嘘だったのか。……少しでも信じた、俺が愚かだった」


 そんなつまりはないのに!


 しかし、精神的に不安定なハゥラスは、そう受け取ってしまった。期待させておいて裏切るなんて、人として最悪だ。せっかく開きかけた彼の心を閉ざすだけではなく、さらに傷付けた。


 もう、何を言っても信じてもらえないだろう。


 彼の目が赤く光り、再び魔力の圧縮が行われていく。その動きに迷いはない。ハゥラスは今度こそ、私たちを道連れにして死ぬつもりだ。


「やめて!」


 動こうとしない私を抱き上げるようと、レオンが手を離した瞬間、この足は、ハゥラスに向かって走り出していた。

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