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仲間の励まし(ラウル視点)

「ラウル、大丈夫だ。チャンスはまだある」


 去ったアリス殿を見送ったまま、思い出の中にいた俺は、マルセルの声で現実に引き戻された。


 どうやら、俺の澱んだ雰囲気で察して、慰めてくれたらしい。彼から敗者復活戦のルールを教えてもらい、少しホッとした。


「彼女が新たな婚約者を選ぶまでは、俺は首の皮一枚で繋がっているのか」


 少しの反動で首が落ちそうだが、ちょうどいいペナルティだ。完全に落ちる前に、状況を変えたい。


「正式な婚約者に、戻れるかもしれないぞ」


 マルセルはそう言ってくれるが、そんなに簡単な話ではないだろう。しかし、こうなったら、なりふり構っていられない。みっともなくても、カッコ悪くても、正面から彼女にぶつかるしかない。


「傷心のラウル様に、最新情報を提供いたしますわ」


 殿下はそう仰ると、二人の居場所とスケジュールを教えてくださった。この服では入店できないから、騎士団の制服に着替えるべきだとも。


「あの子、殿方の制服姿に弱いですから、存分に見せてやってくださいませ」


 不思議だ。


 殿下のご好意を邪推するわけではないが、ご友人の恋が実るほうが、喜ばしいだろうに。


「殿下、無礼を承知でお尋ねします。自分を応援してくださるのには、何か理由があるのでしょうか?」


 殿下は、いたずらっ子の顔で微笑む。年相応の表情を見て、しっかりしておいでの殿下も、まだ学生なのだと思い出した。


「うふふ。物事を決めるのに、私情を挟むのは好きではありませんの。それに、アリスの旦那様が気になって、大会をこっそり見ておりましたのよ。ラウル様、私の目に狂いはなかったと、証明してくださいませ」


 今日や昨日からの話ではない。殿下は全てをご存知の上で、全幅の信頼を寄せてくださっているのだ。ここまで言われたら、俺は、もう行くしかない。


「必ずや、ご期待に応えられるよう、全力を尽くします」


 弱い心に蓋をして、一礼する。

 殿下から、嬉しそうな雰囲気が伝わってきた。


 彼女のいる場所は、大勢の人が集まっているからすぐに分かったが、いつ出て行けば良いか、タイミングが掴めない。結局、サロンからレストランに移動する様子や、食事を楽しむ二人を、遠くから眺めるだけだった。


 コロコロと表情を変えて、朗らかに笑う彼女は、俺といたときとは別人だ。


 あんな顔で笑うのか。

 無邪気で無防備で、なんて可愛いんだ。


 感動すると同時に、自分が彼女にさせていた表情を思い出して、猛省する。終わったことを悔やんでも仕方がないのは分かっているし、何らかの邪魔な力が働いたのも承知している。それでも、自分のしたことが許せない。


 顔を覆って立ち尽くす俺に、周りの男たちが、「どうした?」「大丈夫か?」と心配してくれる。みんなの優しさが余計に辛い。君らを負かして彼女の婚約者になれたというのに、こんなことになって本当にすまない。


「お前、ラウルじゃないか?」


 どん底に落ちている俺は、浮上するまで時間が必要だ。すぐに答えられないでいると、そいつは近付いて来て、肩を掴んだ。


「俺だよ! お前の相棒だ!」


 驚いて声の主を見ると、あの頃と変わらない笑顔の友がいた。何度も会いに行こうとして、その一歩がどうしても踏み出せなかった、懐かしい彼が。


「……俺は、夢を見ているのか?」


 あの日から、その身を案じ、回復を祈っていた。

 夢でもいいから、お前に会いたかったんだ。


「ああ! 飛び切り、いい夢だろう!」


「クロード!」


 あれから二年、外に出られるまで回復したのか。昔と変わらない姿を見られて嬉しい気持ちと、婚約者として再会することご出来なかった自分の情けなさに、俺の涙腺は崩壊した。 


「すまない! 応援してくれたのに! こんなことになってしまった!」


「泣くな、大丈夫だ。敗者復活戦は、よくあることらしい。まだまだ、これからだぞ」


 え、よくあることなのか? 

 歴代の婚約者が、同じ愚行をしたとは思えないし、こんなことが毎回あったら、周りもたまらないだろう。


「優勝者のラウルさん?」


「わあ、お会いできて光栄です!」


「一緒に頑張りましょう!」


 俺たちの会話を聞いていた敗者復活戦の参加者から、励ましの声が寄せられた。その温かい気持ちに、驚いて声も出ない。


 みんな、俺を恨まないのか?  

 妬まないのか?


「そんな顔をするな。俺たちは、純粋にアリス様の幸せを願っているんだ。今日も昔が懐かしくなって、みんなで盛り上がっていたんだ。なあ! あのころは、楽しかったよな!」


 周りから、「そうだ、そうだ!」と声が上がる。


「それに、俺たちは高嶺の花に憧れているだけで、本気で婿になれると思ってないよ。だが、お前は違うだろう?」


 彼らは、アリス殿を愛でて、幸せな気持ちになれるだけで満足なのだという。なるほど、ファンの心理に近いのか。


 その時、周りの男たちが「うわあ!」と慌て始めた。レストランの中を覗くと、レオンが彼女の手を握っているではないか。


 見れば分かる。

 今、彼女は愛の告白をされたのだ。

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