殿下からのご褒美(ラウル視点)
「殿下、どうかそのへんで……」
見るに見かねて、マルセルが間に入ってくれた。殿下は「言い過ぎましたわ」と仰ると、悲しそうな顔をした。
「……あなたなら、アリスを救ってくださると信じて、親友を託しましたのよ。レオンに任せるべきだったのか、などと思わせないでくださいませ」
「……レオンとは、まさか」
マルセルが息を呑む。
「『建国の盾』の誉を持つ、ティータ家のご子息ですわ」
レオンは『かなともの会』の現会長で、最大のライバルだ。大会の最終審査で結果が発表されたとき、燃えるような目で「絶対に諦めない!」と叫んでいた。
「彼は、すでに動いていますわ。公爵家は総力を上げて、巻き返しを図るでしょうね」
「……レオンが」
彼には、家柄では勝てない。頭脳明晰で眉目秀麗な彼は、国民からも広く愛されている。
それに対して、俺には何もない。
「今、アリスを追う以外に、あなたに何ができまして?」
ここで諦めたら、二度と彼女の婚約者を名乗れなくなる、と言われたのだ。
アリス殿とレオンが並ぶ姿を、俺は笑って見ていられるのだろうか。
(……そんなこと、できるわけがない!)
頭を振って背筋を伸ばし、殿下の正面に立つ。
「不甲斐ない姿をお見せして、申し訳ありません。アリス殿のもとへ参ります」
殿下は、嬉しそうに微笑む。
「頑張るラウル様に、一つご褒美を差し上げますわ。あなたのお気持ちを、周りの方々が代弁出来ないのは、ご存知ですわね」
「はい。例の妨害のことですね」
詳しくは知らないが、第三者が、俺とアリス殿の仲を取り持とうとすると、必ず禍が起こるのだ。
ギルツ家はもちろん承知していて、婚約を結ぶ際に、彼女と近しい人物を集めて説明している。
なぜか、それが彼女には知らされていないし、俺も直接聞いたわけではない。
だが、禍は確かに存在する。
親切心から世話を焼こうとした者が、次々と被害に遭ったからだ。特に、『かなともの会』のメンバーからは、被害者が多数出たと聞いて、大変申し訳なく思った。おそらく、ギルツ家の関係者も同じだろう。
禍の深刻度は人それぞれで、肥溜めに落ちるという軽微なものから、命に関わる甚大なものまであったらしい。どうやら、話す内容が重ければ重いほど、ひどい禍に見舞われると考えられる。
その噂は一気に広まり、皆が口をつぐむようになった。俺も、これ以上の被害者を出したくなかったから、自分のおかしな行動で悩んでいることを、マルセル以外には話していない。
「そうですわ。その禍が、違う形でラウル様にも作用しているとしたら、どうかしら」
殿下の目が、キラリと光った。




