ヤバイ、今アメリカにいる。
俺は目が覚めると、空が見えた。真っ青な、広々とした空だった。気持ちの良い風や草の匂いが、自然の空間にいることを実感させられる。
そこでガバッと体を起こした。
辺りを見渡すと、草原が一面に広がっている。ちらほらと白黒の模様の生き物が見えた。乳牛だろうか?その緑色の世界にぽつんと一件の民家が佇んでいた。そしてその世界を朝焼けが照らしている。
何で!?
風が吹いている。雑草がサラサラと流れる。その音を聞いていると、高校に行って授業を受けて帰るという毎日が、とてもちっぽけに思えた。
そうじゃなくて!
高校を卒業し、更に大学に通って大学卒業の肩書きを得られて、ましな職に就ければそれでいいやと思っていた。あんな狭い世界で俺はなんて無駄な時間を過ごしていたのだろう。世界はこんなに広いのに。
広いのに。
...。
ココドコ!?
やばいなこれ、マジでやばい。何がヤバイって、俺の記憶が正しければ
「今日テストだよな!?」
しかも今日のテストは一発勝負の英語のテストだ。補講とかそういう救済措置なんて用意されていない。つまり、
「今日テスト受けられないと、高校卒業できないんじゃ...」
背筋が凍りつく。さっきまでの風による涼しさが忌々しく思えた。あーもう涼しいなこんちくしょーめ!
まずはあの家に行くべきだ。情報がない。それにテストは今日の午後4時頃だ、まだ日が昇って浅いこの時間ならまだ間に合うかもしれない!
俺はその小さな民家へ走った!白い柵を飛び越える。
だが近づくに連れて、段々と、恐ろしいことに気づいてくる。
良く見ると平べったい、二階がないような家。オレンジ色の屋根。
何だろう、判断がつかない。俺は都市部で育ったから、ビル街しか見たことがなく、こういった民家を見ることがなかった。だから日本の牧場というのがこういった建物だという確信ができなかった。
だが何となく「ココドコ!?」の答えが、わかりそうな気がした。
辺りには原っぱ、そしてこの民家のネームプレートには"John"と書かれている。それに外国の映画で良く見る、民家から離れた赤い郵便受けが、新聞を咥えているのが見えた。
恐る恐る、その紙面を見る。
"USAToday"
膝を着き、崩れ落ちた。
「マジかよ、ココ、アメリカ!?」
アメリカの何処かは分からない。そして何故アメリカにいるのかも分からない。だけど、高校卒業は絶望的となった。
...いや待て、そうでもないかもしれない。ここがアメリカなら、時差は確か-13時間。現在の時刻が分かれば、この13時間の間で日本に帰国し、帰られるかもしれない!まだ間に合う!
そのためにはまず、この民家に時間を訊ねなくてはならない。
...。
何を迷っている!今は一分一秒が惜しいんだ!
コンコン!
がちゃ。ドアが開かれた。
「who are you?」
ふーーーー!!英語だ~!「誰?」って言ってるー!
だが意味が分かっただけまだましだ、良かったー、今日のために英語の勉強しておいて。
「あぁ、ええとその、I am kyoya ! あー...突然、あ!suddenly! suddenly I am America! from Japan!」
伝わったかなー?
「あれ、君キョウヤじゃないか?」
「えぇ!?何で名前知って...あ!Johnってあの交換留学生のジョンか!?」
拙い英語、ましてやギリギリ突然であることを言えた英語で意志が伝わったかと思いきや、驚いた。小学生の時に一時交換留学生として日本に来ていたジョンだった!
「久しぶりだなおい!最近何してるの?」
「今は高校で...ってそうじゃなくて、今何時か分かる?」
懐かしさに花を咲かしている場合じゃない。急いで時間を確かめないと。さもないとテストに遅れてしまう!
「何時って...英語で何て言うんだろう?」
ジョンがニヤニヤと不適に笑って問題を出してきた。こいつは昔からイタズラ好きだったな、そして答えないといつまでも笑ってくるやつだった!今それどころじゃないのにー!
「えーと...なんだったかな~、what time...! is───」
「はい、時間切れ」
ジリリリリリ!
「はぁ!?」
チュンチュン。雀の声が、窓越しに聞こえてくる。辺りを見渡しても緑一つなく、風もない。牛もいない。見慣れた自分の部屋だった。
急いで振り向く!
「what time is it now !?」
枕元でジリジリ響く時計はまだ朝の6時くらいを針で指しており、遅刻など想像もつかない。ほっと一息だ。あー良かったー。
あ、明日のテストって何だっけかな、
布団から脱出し、鞄の中に入っている予定表を見た。
...ん?英語?
今日のテストの予定を確認する。
...地理。あ、なるほど、そういうこと。
俺は急いで地理の範囲を頭に叩き込んだ。
暗記パン...暗記パンをくれぇ!