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9 幼馴染から婚約者に  ※ 幼馴染視点

 あー、もうっ! 信じらんないっ、信じらんないっ、信じらんないっ!


 今日は私の人生の記念すべき日だった。


 おじいちゃんと一緒に水無月家に正式に婚約の挨拶に行く。


 おじいちゃんは紋付の立派な和装で、私は高校生の正装である制服で行くことになった。


 素足は品がないだろうと黒色のサマーストッキングを履いたけどちょっと見た目が暑苦しかったかしらと後で思った。


 水無月のおばあちゃんも啓一さんも紋付という最も格式の高い和装で私たちを迎えてくれた。


 軽くお話して、口上を述べるだけのはずだったのにもうっ、おじいちゃんったらあんな恥ずかしいことを啓一さんの前で話すなんて。


 啓一さんは知らなかったみたいだけど、実は私と啓一さんとはもう随分前から仮の婚約という関係にはあったのだ。とはいってもそれは九曜家と水無月家との間、あくまでも家と家とでのお話。


 時代錯誤と言われるかもしれないけどそれには理由があった。


 啓一さん、以前の私の呼び方に合わせれば啓にいちゃんが帰省しなくなってからしばらくして私はひどく体調を崩した。


 あの頃は楽しいこともなく苦しいことばかりで生きていても仕方がないとさえ思っていた。唯一の楽しみだった啓にいちゃんとも会えず、目的もなくただただ時間を過ごすことに空しささえ覚えていた。


 そんなとき、おじいちゃんが私を元気付けようと以前私が口走っていた啓にいちゃんと婚約したいと言っていた話を水無月のおばあちゃんにしたそうだ。


 おじいちゃんが頼んで、私を元気付けるため仮の婚約者ということにしてもらったらしい。


 そんな事情は知らなかったけどおじいちゃんから私の病気が良くなったら啓にいちゃんと婚約できるよって話をしてくれた。


 その言葉に私は元気と勇気をもらった。


 生きる希望が湧いてきた。


 このままでは終われないという人生の欲が出てきた。


 その後は新しい薬もできて病気は次第に良くなっていった。


 でもその新しい薬も実は副作用があって慣れるまでが最初は大変だった。


 後から確認したら仮の婚約者というだけで、正式な婚約者になるためにはいくつか条件があると言われた。


 まずは、私が健康になること。


 水無月家はこのあたりで一番格式の高い古い家柄ということもあって家として正式に婚約者とするのであれば跡継ぎをきちん産めるだけの健康な女性でないと認められないと言われた。啓にいちゃん自身が私を選んで恋愛結婚するのであればそんなことは言わないけれど家と家として婚約するのであればそこは譲れないらしい。


 あと1つは、今はもう戦前ではないので啓にいちゃん本人が婚約に反対しないこと。


 この2つの条件が揃えば晴れて正式に婚約者になれるという話だった。


 私の目標が決まった。


 まずは病気を克服して健康な身体になること。


 水無月家の嫁として、啓にいちゃんの妻として、何よりも私自身啓にいちゃんとの子供は絶対に産みたい。


 そのためにはこんな病気なんかに負けていられない。


 薬も効いてその後病気は完全に治った。


 私の身体もちょうど成長期に入ったこともあってか食欲も増し、これまでとは全然違う身体付きに育った。


 むしろ太り過ぎないように注意しなければならないほどだ。


 今では私のことを病弱だとか不健康であると言う人は誰もいなくなった。


 そして次の目標は、啓にいちゃんを振り向かせること。


 女として、啓にいちゃんから婚約して欲しいと言われるいい女になること。


 私はお肌のお手入れから魅力的に見える体型の維持までまずは見た目に気を配った。


 ファッションも啓にいちゃんは都会の人だからその周りの人に負けないように雑誌を読んで都会の流行も研究した。


 外見だけではなく、中身も伴わないと愛想を尽かされてしまうかもしれない。


 勉強だけではなく所作や立ち居振る舞いについても学んだ。


 これまで張りのなかった、ただただ退屈で灰色な日々が次第に忙しく、そして充実して色付いたものになっていった。


 そんな私の変化に私の周りも徐々に変わってきた。


 具体的には周りの同級生たちの私への接し方が変わってきた。


 以前のような路傍の石の様な扱いではなく、壊れ物を扱うかのうように態度が急変した。


 手の平を返すとでもいうんだろうか。


 私としても悪い気はしなかったけど、それを冷めた目で見る自分がいた。


 ときどき告白してくる人もいたけど、全部断った。


 そしてとうとう、長年に渡る私の努力が実を結ぶ日がやってきたのだ。


 あの日、啓にいちゃんと、いや啓一さんと別れて自宅でお昼ご飯を食べた後、水無月のおばあちゃんが突然家にやってきてうちのおじいちゃんと話を始めた。


 そして、私は水無月啓一さんの正式な婚約者になった。


 その話はすぐにおじいちゃんからうちの親戚に連絡がいった。


 正式に婚約が決まった次の日、私が高校の夏季講習から帰ったとき、近所に住む私の叔父さんとたまたま電車が一緒だったらしくて会って話をした。


 叔父さんはお母さんの歳の離れた弟だ。


 叔父さんは私たちが子供の頃に一緒に遊んでいたことや私が啓にいちゃんを好きなことも知っている人だ。


 そんな叔父さんから婚約おめでとうと言われて、嬉しさと恥ずかしさで私は思わずだらしない顔をしてしまったと思う。


 叔父さんは結婚もしていて子供も二人いる。


 奥さんとラブラブなのは近所でも評判だ。


 私も啓一さんとそんな夫婦になれたらいいなと思った。

 本作(本編)は本日中に完結予定です。


 もうしばらくお付き合い下さい。


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 本作と本作の関連作品である「神女優の幼馴染はなぜか平凡な俺に依存している」とのクロスオーバー作品(続編)です。  リンクを張って飛びやすくしました。  

幼馴染たちの協奏曲(コンチェルト)~続・後日談
― 新着の感想 ―
[良い点] サヤちゃん視点での回想、同級生が婚約を知っていた謎がわかりました。 仮婚約までのサヤちゃんの努力が凄かったのですね。 [気になる点] 危なく10話を先に読みそうになりました。連投ありがと…
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