7 初恋の人 ※ 幼馴染視点
いつ好きになったのか分からない。
それだけ最初から私はあの人のこと好きだったのだと思う。
私の名前は九曜沙耶香。
生まれつき病弱で身体が弱く、おとなしい子供だった。
今流行りの言葉で言えば陰キャとでもいうのだろうか。
外で思いっきり遊ぶということができず同年代の周りの子たちからはお荷物扱い。一人で家の中で過ごすということが多かったし、それも体調が悪くて寝込んでいることもしばしばだった。
私の目に映る世界は灰色だった。
目が悪いわけではない。
夏の盛りに大きな入道雲がモクモクとしている真っ青なはずの空を見ても灰色にしか見えなかった。
夏休みは嫌いだった。
学校に行けば授業なり行事なりで時間を過ごすことができる。
しかし、夏休み。
無限とも思える長い時間、わたしは退屈だった。
外からは同年代の子供たちの遊ぶ声が聞こえる。
うっとうしくて、憎らしくて、腹立たしくて。
そしてそんな醜い感情を持つ自分自身のことが何よりも悲しくて嫌いだった。
あるとき、そんな私に友達ができた。
水無月啓一くん。
水無月のおばあちゃんのところのお孫さんで私よりも2つ年上の男の子。
いつもは都会に住んでいて夏休みにこの田舎にくるということでどういうきっかけかは覚えていないけど一緒に遊ぶことになった。
啓一くん、啓にいちゃんは周りの他の子たちとは違った。
私に合わせた遊びをしてくれたし、私の体調が悪いときには気遣ってくれたし、本を読んでくれたりもした。
体調がいいときには一緒に沢に遊びに行って、遊び疲れて帰るときにはおんぶしてもらって帰ることもあった。
そんな啓にいちゃんのことが私は直ぐに大好きになった。
後から思い返せば最初は男女のそれではなかったのだろう。
しかしあるとき、私は思い知ることになる。
「啓にいちゃん、帰ってこないの?」
お母さんから今年は啓一くんは帰ってこないという話を聞いた。
ショックだった。
夏休みの唯一の楽しみが無くなり私はひどく落ち込んだ。
啓にいちゃんに会いたい……
そのとき初めてそれは友人に対するそれではなく、恋い焦がれる感情であることを私は知った。
瞼を閉じれば思い出されるのは啓にいちゃんのやさしい笑顔。
おんぶしてもらったときのがっしりとした男の子の逞しい背中の感触を覚えている。
何よりも一緒にいて守られているようで安心した。
いつの頃からか私は啓にいちゃんに恋をしていた。
どうしたら啓にいちゃんに会えるのか?
幼い私がいろいろと考えた末に至った結論があった。
啓にいちゃんと結婚すれば、夫婦になればいつもは遠くにいても絶対に会いにきてくれるはずだ。
でも子供だからまだ結婚はできないってお父さんとお母さんは言った。
「婚約だったらできるんだけどね」
――婚約
――結婚の約束
私はいつしか啓にいちゃんと婚約したいと思うようになった。