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ボーリング場で

【少し時間を遡ってサヤちゃんとのボーリング場デートの話】



 デートでサヤちゃんとボーリングをすることになった。


「サヤちゃんはボーリング、したことあるの?」


「はい、ありますよ。ここにも高校の友達と来たことがありますし。ただ、凄く下手ですけど」


 サヤちゃんの通う高校の近くにあるショッピングモールに併設されているだけあって日頃から高校生が多く来る場所らしい。


 受付の人に案内された俺たちのレーンの隣も中学生か高校生だろうと思われる男4人組がプレイしていた。


 その4人組。


 多分隠しているつもりだろうけど俺たちの方を気にしているのが丸分かりだ。


 いや、正確には俺は意図的に視界から外されていてサヤちゃんの方に気が向いていることが駄々洩れだった。


 まあ、俺でも近くにサヤちゃんみたいなかわいい子がいたらまったく気にしないでいられる自信はない。


「じゃあ、サヤちゃん、お先にどうぞ」


「はい、ではいきます!」


 サヤちゃんはふんすと鼻息を荒くして自分に気合いを入れる。


 サヤちゃんはボーリングの玉を両手で抱えて……両手!?


 サヤちゃんはヨチヨチとした動き、なんというか、そう!


 陸地を歩くイワトビペンギンみたいな動きで投球場所にまで進んでいくと「えいっ!」と声を上げて玉を転がした。


 いや、あれは転がしたではない。


 玉を落として傾斜で転がっていっただけだ。



――コロコロコロコロ、がたん



「あー」


 サヤちゃんが残念そうな声を上げる。


 レーンの途中までフラフラと転がっていったボーリングの玉は推力不足で右端の溝へと落ちてしまった。


「残念、ガターでした」


「どっ、どんまい……」


「よし、今度こそっ!」


 サヤちゃんの玉が戻ってきたところで再びサヤちゃんが投球の態勢に入る。


 うん、どう見てもボーリングの正しい投げ方ではない。


 しかし、人によって投げやすいフォームというのもあるだろうからしばらく様子を見ることにした。


「えいっ!」


 今度はちょっと勢いをつけて一応は投げることができたみたいで玉が転がるのにもわずかに勢いがついている。



――ゴロゴロごろごろコロコロころ、ぽスン



「あっ、2本倒れました!」


 玉が勢いを失い溝に吸い込まれる直前にピンの端の方をわずかにかすめピンは2本パタパタと倒れた。


「うっ、うん、ナイスボール?」


「今度は啓一さんの番ですよ」


 俺は自分の玉を手に持つ。


 やはり自分に合った重さであることが一番重要だろう。


 軽すぎず重すぎず。


 とはいえ、俺もそこまでボーリングが得意なわけではなく、何が良くて何が悪いとまで論評できるような立場ではない。


 ただ、まあ、彼女の前で恥ずかしいようなどうにもならないレベルではないと思う。


「じゃあ、いくよ」


 俺は腰を落としてしっかりとテイクバックをとり、腕を前へと振り出してタイミング良く投げた。



――ゴロゴロごろごろゴロゴロごろごろ、パコン


 

 うん、ストライクは取れなかったが9本倒した。


 久しぶりのボーリングの第1投目にしては上出来だろう。


「凄い凄い、いっぱい倒れました!」


 これくらいで喜んでくれるとは思わなかったがそれにしてもサヤちゃんはいったいどうしたものか。


 それから数フレームそれぞれが思い思いに投げた。


 サヤちゃんはそれでも2回に1回はガターだし、倒すことができても1本か2本という調子だった。


「行きま、あっ」


 そう言ったサヤちゃんは投球動作に入ってヨチヨチとレーンに近づいたところでこけてしまった。


「サヤちゃん!?」


「う~、こけてしまいました」


 幸いどこも怪我をしていないようで安心した。


 手にもっていた玉は落としてしまい、直ぐに溝に吸い込まれたがスコアなんかは正直どうでもいいことだ。


 やはり正しい投球フォームでないと危ないし怪我をしかねない。


 あの玉の持ち方ではいつ玉を落としても不思議ではないしそうすると足を怪我しかねない。


「サヤちゃん、良かったら投げ方を教えようか?」


「やっぱり変ですよね。私も自分の投げ方が悪いことは分かっているんですが、なかなか……」


「友達からは何か言われなかったの?」


「サヤはそのままでいいからとか、それが癒しだからとか言われました」


「それは何というか……」


 サヤちゃんの友達からの扱いが何となく分かった。


 婚約者としてはちょっと不本意だがどうやらマスコット的な立ち位置にあるみたいだ。


 ちょうど俺の投球の番だったので、サヤちゃんに玉の持ち方から教えることにする。


 そもそも玉の重さがサヤちゃんに合っているかどうかから確認する必要がある。


「この玉を片手で持てる?」


「う~ん、どうでしょう? ちょっと難しいかもしれませんね」


 サヤちゃんは昔から病弱で身体を動かすことも少なかった。


 他の人よりも力が弱いということもあるだろう。


「じゃあ、一緒に玉を選びに行こう」


 俺たちは休憩ついでに玉を交換することにした。


 サヤちゃんに片手で持ってみて一番しっくりくる重さのものを選んでもらう。


「コレにしようと思います」


 自分たちのレーンに戻って今度は玉の持ち方、それから投げ方をゆっくりと解説しながら実際に俺が投げて見せた。



――パッコーン



 ちょうどスポットに入ったらしくストライクがとれた。


「凄いっ! 全部倒れました」


「じゃあ、今度はサヤちゃんの番だよ」


「はいっ!」


 サヤちゃんは片手で玉を持ち、もう片手は玉に添えるだけ。


 そして前に進んでいくがあれ?


 手と足の動きがちょっとちぐはぐ。


 後ろに腕を引いて振り子の要領で勢いをつけて腕を前にと投げ出そうとする。


 そう、そこでタイミング良く玉を手から離し、はな……し?


「う~、投げられませんでした」


 サヤちゃんの手には玉が残ったまま。

 

 どうやら投げるタイミングを逸してしまったらしい。


「じゃあ、一緒に投げてみようか」


「一緒にですか?」





 俺はサヤちゃんの真後ろにぴったりと身体をくっつけて文字通り、手取り足取り教えることにした。


「じゃあ、足を前に、そう。そして腕を後ろに引いて」


「……はい」


 サヤちゃんにくっつくことでサヤちゃんの体温を感じる。


 サヤちゃんの肌はしっとりとして少し汗ばんでいるのがわかった。


 サヤちゃんの右手に俺の手を添えることで投球フォームのガイドをする。


「そこで手を離して!」


 球を放つタイミングを指示するとサヤちゃんの手から球が放たれた。



――ゴロゴロごろごろゴロごろろろっ



――ポコン


 

 さすがに歪な投球フォームになってしまったので真っすぐに転がらなかったし玉にも勢いはなかった。


 しかし、ピンの向かって右側のエリアに玉は当たり4本のピンが倒れた。


「倒れましたっ!」


 固唾を飲んで玉の行方を見守っていたサヤちゃんがそういって手を叩いた。


「じゃあ、今度は自分だけでやってみて」


「はいっ!」


 玉が戻ってくるとサヤちゃんはゆっくりとした動きながらさっき俺が手を取って教えた通りに身体を動かしていく。


 そしてタイミングよく玉を投げた。



――ぽコン



 玉は真っすぐにど真ん中に入っていき、残っていた6本のピンのうち4本が倒れた。


「やりましたっ! 合計8本、過去最高、新記録ですっ!」


 サヤちゃんはそう言って俺の方へと振り返ると俺との距離を詰めて抱き着いてきた。


「おっと」


 とっさのことでサヤちゃんの身体を受け止める。


 いつも静かなサヤちゃんにしてはちょっとというかかなりテンションが上がってしまったようだ。


 ふと周りを見ると隣の中高生グループだけでなく、ちょっと離れた場所の親子連れや老人グループで来ていた人たちも俺たちの方をニヤニヤしながら見ていた。


「ちょっ、サヤちゃん!」


「はっ、すみません。嬉しさのあまり、つい」


 サヤちゃんはテヘっという表情を浮かべて俺からゆっくりと離れた。


 あー、でも勿体ないというかもっとくっついていたかったというか残念な気持ちもある。


「さあ、今度は啓一さんの番ですよ?」


「よし、じゃあ、彼女にもっといいところを見せてやるか!」


 こうして残りフレーム、俺とサヤちゃんはめいいっぱいボーリングを楽しんだ。





「あれ? お隣さんのグループがいませんね。帰られたんでしょうか?」


 ちょうど1ゲームを終えた頃。


 俺たちが帰ろうと思って隣を見るとさっきまでいたはずの中高生4人グループはおらず、空きレーンになっていた。


「俺たちより先に来ていたみたいだから終わったのかもしれないね」


「そうでしょうね」


 そんなやりとりをして俺たちは帰った。


 ただ、このボーリング場から出る直前に俺は気付いてしまった。


 俺たちの隣にいた4人組は俺たちから遠く離れたこのボーリング場の一番端のレーンに移動していたことに。



(あー、ひょっとして俺、何かやっちゃいました?)



 ライトノベルの主人公ではないけれど、何となくそんなセリフが頭に浮かんだ。 

【お知らせ】


 本作と本作の関連作品である「神女優の幼馴染はなぜか平凡な俺に依存している」とのクロスオーバー作品を始めました。


 タイトル「幼馴染たちの協奏曲コンチェルト~続・後日談」


  https://ncode.syosetu.com/n4727hd/


 ↓ にリンクを張って飛びやすくしました(8/14)。


 形の上では別作品になりますが本作の後日談の一部です。


 興味のある方は読んでみて下さい。

 

 当該作品はあくまでも既存2作品の後日談ですので「検索除外設定」という特殊な設定で投稿しています。


 聞きなれない設定だとは思いますが平たくご説明しますと、上記のアドレスから直にしか飛べないと思っていただければ間違いないと思います。

 シークレットモードとでも言った方が分かりやすいかもしれません。

 本当? と思わる方はいろいろと試してみて下さい。

 小説家になろう内のあらゆる検索に引っ掛からないはずです(ランキングにも載りません)。

 作者のマイページの作品一覧にも載りません。

 

 中身は本作の続きものですので当該作品にはタグやまともなあらすじは書いていません。


 今後、当面の間、現実恋愛ジャンルの作品は基本的に上記作品のあらすじ内において告知し新規投稿作品については一般投稿はせずに検索除外設定で投稿する予定です。

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 本作と本作の関連作品である「神女優の幼馴染はなぜか平凡な俺に依存している」とのクロスオーバー作品(続編)です。  リンクを張って飛びやすくしました。  

幼馴染たちの協奏曲(コンチェルト)~続・後日談
― 新着の感想 ―
[良い点] ボーリングのボールが転がる擬音に癒され、サヤちゃんに癒されます。 啓一君とサヤちゃんの二人に周囲が癒され、男子中高生は・・・・・ [気になる点] 二人のラブラブが更に上昇! まぁ、婚約ホヤ…
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