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1 プロローグ

前作からの方も初めましての方もよろしくお願いします。


――ガタンっ、ガタンゴトンっ、ガタンゴトンっ



 新幹線とローカル線とを乗り継いで半日。


 俺はぼんやりと車窓を流れる景色を眺めていた。


 季節は夏。


 目に入るのは一面の水田に青々と育っている稲。


 さーっと吹く一陣の風が稲を薙いで一面の緑はうねって波のようにさざないでいる。



(久しぶりだな……)



 父親の故郷、いわゆる実家と呼ばれる場所に俺、水無月啓一みなづきけいいちが帰省するのは指折り数えて8年ぶりのことだ。


 小学生の時分には夏休みには毎年帰省して10日から2週間ほど祖母の家で過ごしていた。


 しかし、部活に受験にと忙しくなってからは帰省することができておらず、ずるずるとそのままになっていた。




山足谷やまあしだに~、山足谷~』


 祖母の家の最寄駅。


 目的地の駅に着くと荷物を抱えて列車の先頭にある出口へと向かった。


 電車の、ではない。


 この路線は電化されていないからだ。


 もっとも、一両編成なので実は列車でもないように思えるのだがそうするとこれを何と呼べばいいのかわからないので取り敢えずはこの表現で許して欲しい。


 ここまで言えば分かってもらえるだろうが、俺の祖母の家はとんでもない田舎にある。


 ご想像の通り、この山足谷駅は無人駅だ。


 ワンマンカーなので運転士さんに切符を渡して列車(仮)を降りてようやく目的地のホームに立つことができた。


 この路線は単線でこの駅は途中にあるモブ駅に過ぎずホームは一つしかない。


 剥き出しの灰色、風雨に晒されたコンクリートのホームだけというその場所は駅という名のオブジェ。


 俺以外に降りる人はいなかった。




――シャワシャワシャワシャワ


 ホームに降りると聞こえてくるのは蝉の大合唱。


 ギラギラと照りつける夏の太陽が暑いを通り越して皮膚に刺さって痛い。


 さっきまで冷房の効いた車内にいたためそのギャップもあってか一気に汗が噴き出す。


 いつまでもこんなところにはいられないと俺は荷物を持って足早に駅を去った。







「啓ちゃん、よく帰ってきたね~」


 駅から徒歩5分。


 久しぶりの実家に着くと祖母が温かく迎えてくれた。


「ただいま、ばーちゃん」


 都会ではなかなかお目に掛かれない日本家屋。


 戦前は地主だったうちの家はそこそこ大きな家だ。


 玄関とホール部分だけで6畳以上の広さがある。


 恐らく俺の家の俺の部屋よりも広いだろう。


 まずは仏間でじいちゃんを含むご先祖様たちに線香をあげてから居間へと通された。


「あ~っ、美味うまい!」


 ばあちゃんに冷たい麦茶を出してもらい、一気に飲み干す。


「それで啓ちゃんは1週間泊まるってことで良かったかね?」

「うん、しばらくお世話になります」


 俺は今年大学に無事に入学して今は夏休みだ。


 両親から一段落ついたんだから帰省して墓参りの一つでもしてこいと言われてやってきた。


 俺としても心の洗濯も兼ねてこうして帰省してきたというところだ。


 こうして久しぶりに戻ってきてまず頭に思い浮かぶ人がいる。


 俺には帰省する度に一緒に遊んでいた幼馴染がいた。


 フルネームは覚えていないが『サヤちゃん』と呼んでいた俺よりも年下の女の子だ。


 サヤちゃんは生まれつきの病気か何かで身体が弱く線の細い小さな子だった。


 お人形のように整った顔立ちではあったが何よりも儚く、放っておけば消えてしまうのではないかと心配になる子だった。


 そんなサヤちゃんはこの地域の他の子供たち、田舎育ちのワンパク小僧共とは一緒に遊んでもらえないようで一人でいることが多かった。


 俺も地元の子供たちから見れば余所者だったのでサヤちゃんとは悪く言えばハブられた者同士だった。


 そんな俺にばあちゃんから『一緒に遊んであげておくれ』と言われて素直な俺はサヤちゃんと一緒に遊んで過ごしていたというわけだ。


 もう随分前なので顔もはっきり覚えていないけど元気だろうか。


 サヤちゃんはまだこの辺りに住んでいるのだろうか。


 そう疑問に思ってばあちゃんに聞いてみるとサヤちゃんはまだこの近所に住んでいるという話だった。


 サヤちゃんの本名は九曜沙耶香くようさやか


 俺より2つ年下の高校2年生だと教えてもらった。

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 本作と本作の関連作品である「神女優の幼馴染はなぜか平凡な俺に依存している」とのクロスオーバー作品(続編)です。  リンクを張って飛びやすくしました。  

幼馴染たちの協奏曲(コンチェルト)~続・後日談
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