俺はヒロイン!
「好きです!俺と付き合って下さいっ!」
まいった。これはまいったぞ…。
俺は今、男にこくられている。
いや、相手がホモとか…そういうことじゃねんだ。
ちがくて…。俺が、その…。
女装してたせいなんだ。
実は、色々とわけがある。
俺は決して、そういう趣味じゃない!!
女装好きだとか…、そんな理由じゃないんだ…。
突然だが、俺は生粋なバスケ少年だ。
だが…、突然、クラスメイトの演劇部のやつが…
「演劇部の公演が今度あるんだけど…、出るやつがほとんど退部しちゃったんだ!!…なんか、顧問と喧嘩になってな…。それで!!…その、女役が一人足りないんだ…。しかも、ヒロイン役だっ!」
と、訴えてきたのだ。
「へぇー…。ご臨終。」
「そうか、ありがとう!やってくれるんだな、ヒロイン!!」
「…は?」
「ありがとう!!お前に相談してみてよかったよ!!…俺はいい友達をもって、最高に幸せだ!」
「はい?ちょ、まて。誰がやるって言っ…っう!」
待て待て。そんな、悲しそうな目で見ないでくれ。
俺は…、その悲しそうな子犬のような目に耐えられないんだ。(キャラにあわねぇとか言うなよ)
「…分かったよ。やればいいんだろ?」
「ありがとう!君のことは一生忘れない!!」
演劇部のやつは、俺をゆっくりと追いかけ、追いつき…見事にダイブした。
…地面に。
…とまあ、こういうわけで。俺は女装するハメになってしまった。
俺に頼み込んだ演劇部部長以外、みんなは俺のことを女だと思っているようだった。
部長が、「ヒロインの代役がみつかった」と言い、俺を紹介した時。
俺は、当然自己紹介をしようとする。だが…
<かわいい…名前なんて言うんだろ…><ちょ、まじ俺らラッキーボーイズじゃね??あいつらやめてくれてサンキュー>
…という、明らかに本当の女子だと思わせる発言が出たのだ。
…同じ学校だろ、お前らと言いたくなる。
俺は、その女子疑惑をとっぱらうために、さっさと名前を言おうと思った。
なのに、部長は…
『おい!お前黙ってろよ!』
と言い出したのだ。なんなんだ、と思いながらも、黙った。
「えーと。この子は、生島由香子ちゃんだ。…由香子ちゃん。あそこ座って。」
おいおいおいおいおいおい。待てよ。おかしいだろー!
生島由香子て誰だよ、おい!!
一文字も合ってないんですけど?俺、佐伯竜太だしっ!!
拒否したかった。しかし。
男たちのピンク視線は絶えない。
ここは、なりきってやるまでだ!!
と、決意したのだ。
「由香子でぇす!みんな…よ・ろ・し・く・ねっ!」
かわいく言ったつもりだが…
(おえー。これ、世にいうぶりっ子なんじゃ…!?)
はっとして、ぱっとみんなを見る。
オーラが、萌えぇ〜と叫んでいる。大丈夫そうだ。
しかし、このキャラは改めなければ。
…ということで、言った後で「…今の、スキンシップ。ジョークだからっ」と言っておいた。
「ねぇねぇ、由香子ちゃん!…何部なの?」
ギクッ。おいおい…それはさすがに…。見に来られたらバレるよな…。
…部長がこえーし。
「お…あたし?…帰宅部だけど」
「まじ〜?…演劇部はいんねぇ?」
「…ごめん、そういうのめんどくさいから。お…あたし、部長の頼みだから引き受けたの。」
「そっかぁ…。部長の頼み?部長、信頼されてんだなー、やっぱ。」
あた…俺は、ふと思いつく。
こいつら、俺を色目で見てやがるから…、ちょっと懲らしめる。
「信頼…?かもね。あたし、部長だから好きになったんだと思うの。部長って、男らしいよね。」
「…好き?部長?男らしい?………………。」
「「「「ええええーーーーーーーーっ!!?」」」」
「え、由香子ちゃんて付きあってんの?部長と??」
「さぁ…」
微笑すると、男たちは俺を切なそうな目で見て、部長を睨んだ。
これでよりつかないだろう、と思っていた。なのに…
リハーサルが終わった頃、関口というやつに呼び出された。
すると、こくられたのである。
「…やっぱ、俺じゃだめ、だよな…。」
しゅんとしているのをみると、俺はまた…
悲しそうで、子犬のような目。
俺には、それが耐えられず。
「あたしでよければ!いいよ!」
慰める気持ちで、言ってしまった。
ああ、言わなければよかった。
明日は本番。
俺、もうこれから「生島由香子」として生きようかな…