麩菓子
さて…仕事が増えたな…
本当に今回の仕事は周りに振り回されている気がする。
まあ自分が振り回されやすい性格だと言うのも悪いのだが…
新田は地べたに座り込んで麩菓子を食べていた。
「うまし!」
「こちらの世界に来ても麩菓子を食べるのをやめないんだな…」
「私の頭は麩菓子で出来ているようなものですから」
新田は毎日麩菓子を食べている。
『脳みその容量を増やすのにいいんです』と体調が悪い日であろうと必ず一日一個は食べるのである。
確かコートの中にある麩菓子のストックは10個だったはず…
「新田、お前コートの中の麩菓子のストックが切れたらどうするんだ…?」
「ジェネにどうにかして貰いますよ」
「全く…」
「あっ、ジェネに麩菓子が入っていた袋の処理だけでもしてもらえばよかった」
そう言いながら新田はコートの内側に麩菓子の入っていた袋をしまった。
人使い…いや神使いが荒いやつだな…
私達よりも下手に出るところや褞袍を着ていたところから見ても非常に人間臭い…
何やかんや自然と能力と言うものを受け入れてる私も私で傍から見たらヤバい人だよな…
新田が麩菓子を食べ終わり立ち上がった。
「お待たせしましたっと。あっ、そうそう、この神託室は防音なので今後もここで先程のような集会をしたりしますのでご承知お願いします」
「了解。それでこの後は宿に行ってみるか?」
「予約が一杯だと困りますから早めに行っておきましょう」
新田が信託室の扉を開けると、アイデスさんがランプらしき物を磨いていた。
「おや、先程の方々ではないですか。ジェネ様と話は出来ましたか?」
「はい、とてもお美しい方でした」
「そうでございましょう、あれほど人の為になさる神様が他にどこにいるでしょうか」
「またお話を聞きたくなりましたね」
「ええ、是非ともまたいらしてください。ジェネ様の御加護があらんことを…」
新田が上手に受け答えをして、私達は教会を後にした。
あそこまで人に接する神様なら普通に加護がありそうなものだな。
新田がまた何か考え込んでいる。
「そんな顔ばかりしているな…」
「あれ、先輩気づきませんでしたか?」
「何がだ?」
「先輩はまぁ教会に行くことほぼ無いですし、異世界物を読まないから違和感を感じなかったのでしょう…さっきアイデス神父が『ジェネ様の御加護があらんことを』と言っていたじゃないですか」
「確かに言っていたが、それの何に違和感があるんだ?」
「先輩、この『加護があらんことを』を意訳するとどうなりますか?」
「確か『加護がありますように』だろう?」
「それ、何に沿って訳しましたか?」
「一応古典だが…!」
さすがの私でも察しがついた。
もし中世ヨーロッパに近しい世界だとしたらこの文法があるのはおかしい…
転移者がいたと言っていたが、その本人が言われるならまだしも、本人が言うということは考えにくい。
「ん?今何か言ったか?」
「いえ何でもありませんよ」
新田はそう言って再び険しい顔に戻った。
何か新田が言いかけてた気がしたのだが…
いつもの異世界を語る様子とは全く違うから何か変な感じだな…
いつもなら異世界小説の話はテンション高めで楽しそうに語ってくるのだが、やはり理想と現実は違うのだろうか?
私達は噴水広場を抜け、向かいの通りへ向かった。
「そういえば…クトル、お前が起きた後、神託室に行っていたようだったが何していたんだ?」
「あぁ、あの時ですか?あの時は先に貴重品をジェネの所に送っていたんですよ。スマホがこの世界でブッ壊れられても困りますからね。と言うか先輩があの時間に昼寝するのも珍しいですね」
「何故だか分からないが眠くなったからな…仕事を事前にこなせないことに加え、何もやることが無かったからかも知れない」
「そうだったんですか」
そんな話をした後、しばらくしてそれらしき宿屋についた。
まあまあ癖が強いカタカナでピスコラと書かれている看板がある。
周りの建物よりも少し大きいくらいの建物だ。
この店は木のドアで、外から中は見えないようになっている。
歩いた道を見た感じ、私達が今いる所が宿屋が多いようだ。
しかし、土地があるからか大通りの幅が非常に広いな…
新田を見ると何とも言えない顔でこちらを見てきた。
「すまん…また周りを観察しすぎていた」
「別に大丈夫ですよ、情報整理というのは重要な事ですから。まぁ私の方を気にしてくれたことは良かったですよ」
普通、そういう時の感情は『嬉しい』では無いだろうか?
新田が宿屋の扉の前まで移動した。
「さぁ先輩、私達の第一の活動拠点へいざ行かん!」
いざ行かんは古典的文法では無かったか?と思いながら私は新田に続いて宿屋に入った。
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