2章続きその2
「イオ=グランシス」
年齢17歳、男性。
身長176cm.体重74kg.
各適正。
魔導適性:A+.
竜騎士適性:S.
空戦適正:A+.
砲撃適正:B+.
契約竜。
守護竜ランクB
白竜「インシェン=カスト」
その他。
・真面目で努力家、その点だけでなく人としてのカリスマが人々を惹きつけ、多くの人が彼に憧れている。
・どんな時でも恐ろしく冷静で自らが犠牲になることすら恐れず、度々ウォルターに、「死ぬことを恐ろ、そうしないと次お前に憧れた人が死ぬぞ」と怒られたりする。
・優れた戦略眼は小隊長として十分の実力を持っているが、死を恐れないために隊員と自分を犠牲にしかねない。と小隊長には向かないと評価されている。
外周を目指して歩き、18:04時。
外周へ到着し右へ曲がり、1分ほど歩くと見えた、古びた看板には「Claris」と書かれ窓から覗く店内はレトロチック。ウォルターの好きなタイプの喫茶店。今は閉店の文字書かれた看板が店のドアにかけられている。
後ろから泣くような、歓喜に満ちたような。店長らしき男性、何故そう思うかは彼が身につけているエプロンに店名が書いていたから。彼が目を潤ませながら開口一番、
「レクシーが彼氏連れて来たあぁぁぁ!!」
レクシィーを強く抱きしめ中年男性は感動で目から感動の証が流れ落ちそうになっている。
ウォルターは苦笑をこぼし、ここまでの親の早合点を見たことがあまりない。
「お父さん、違うってば!!」
父の間違いを説得する娘。ウォルターには懐かしく、虚しく眩しくもある自然な普通の家族。
数分間光景を眺めていると終わり、レクシィーにより中へ通され、カウンター席に座るとレクシィーの父親から謝罪される。
「恋愛に興味が無いうちの子もようやくかと思ってしまいましてね……申し訳ない限りです…」
実年齢は40代手前なのだろうが30代前半の見た目、それは魔力がもたらす呪いとも言える恩恵の一つ、老化速度の遅延による長寿。20代に差し掛かるまでの身体的成長は1500年代から変わらないと証明されているが、老化速度は遅くなっていくことが証明されている。
「いえ、それじゃ先輩、話をしましょう」
そこに割り込んだのはレクシィーの父親で、
「いやいや、それじゃ申し訳がありませんから。コーヒー、よければ飲んでってください」
30代の外見に不釣り合いな喋り方。ウォルターには何も思わないのだが、隣に座るレクシィーにはやめてほしかったようで、お父さんその喋り方やめてよ…。などと弱く呟いた。肝心の父親、とウォルターは聞こえてないらしく、父親は淹れる準備をしながらウォルターとコーヒーの好みで盛り上がっていた。
やはり何度言っても変える気の無い喋り方、それを注意するのが馬鹿らしく思えていた、ただレクシィーは自分さえも気づかない溜息をつくのみで、ふたりの子どもっぽさに落胆していた。
しかし、いつもウォルターは気怠げな顔しか、しないのではと思ったレクシィーには、朗報で仲良くなれそうだと感じてもいたが。
それからしばらくして、もう淹れ終わる頃に話を一旦終わらせ、ウォルターは意識をレクシィーに向けて、
「ところでレクシィー先輩、この小隊で問題だと思うところってどこにありますか?」
「技術的な面も、大体Cランクに行くかどうかくらいだと思ってるし、人でも足りてないかな。私が思うにそれだけかな」
少しウォルターは考えて話す。
「否定はしませんし同意します。俺が思うにその二つに加えてなんですけど、まずもって先立つのは連携、いわば信頼関係です」
「確かに言われればそうかも。1年でそれなりだけど他と比べると、やっぱりね」
少しレクシィーも思うことがあるようで自嘲気味の愛想笑い。これ以上話しても、レクシィーが萎れた花になるのが何故か見えたからだ。
小隊の話はここで切り上げ、目の前に置かれたブラックコーヒーを眺め一言、
「いい豆ですね。ちゃんとしてますし」
今コーヒー豆とは天空島北区の一角で魔術か魔法によって育てられ、各都市にそれぞれ出回るが高度4000mにもなる土地では、魔術にしろ魔法にしろ適した環境を用意しても、中々良品は出来上がらない。
それでもしっかりと香りがしている。一体どんな淹れ方か。そう気になるがまずは一口。
これより先は、レクシィーが呆れるほど長く、話し合っていたので割愛させていただくことにする。
・・・
その日、20:13時。
昨日の満月は少し欠けて青ではなく、少し赤くなっていた。それは薄い炎や血を連想するもの。
レクシィーと別れて家への帰路の途中、ウォルターは西区へ寄り道をしながら帰っていた。西区は天空島1番の治安の悪さが目立つ、道端にはゴミが散乱して裏路地ではもっと酷い、街の在りようはもはやスラム街。
とは言えここは高度4000mと昆虫の類は存在していないのが、まだ救いと言える。ただし街灯は他の区と比べて少なく警備隊も近寄らない場所である。さらに今日はブラッドムーン、月明かりが照らすこの島はほのかに赤暗く不気味さを醸し出していた。
特段未成年者が夜出歩くことへの背徳感も無ければ、そこら辺で散乱するゴミにも何も思わないでいた。
考えも無く、ただの散歩としてほっつき歩く中で何かが焼け焦げた臭いがした。それは今まで嗅いだことがないような、いや、あった、これは。そう気付いた時ウォルターは裏路地へと進んでいた。
(人が焼ける臭いか…!裏路地からか?)
特に慌てもせずただ冷静に考えていた。それ程までにウォルターや、竜騎士と言うのは死を目の当たりにしていると言うことでもある。
西区の南区付近での裏路地は狭隘で進む分には十分であるが、戦いとなると回避が難しい。
異臭のする方向に進むにつれ路地の幅は広がっていき、人がふたり歩けるくらいに広がっていた。するとその奥に目に焼きつく光景が広がっていた。
「…マジかよ」
少年と思しき人物の前方足元、燃え尽きかけている黒い物体、それは人間の形をしたモノ。全身が真っ黒に焦げて顔も誰か分からないほど酷い。目は閉じているように見えたが口は大きく開き、死ぬ直前までおそらくは……そこまで考えてやめる。
「おいお前、それをやったのはお前か?」
警戒色を強め、短くウォルターが尋ねる。
目線の先に居た少年は振り返ると、顔をターバンのようなもので覆いよく見えないが、おそらくはシエナより幾らか年下くらいと分かる。
少年の右腕は地面に着きそうなくらい長く、竜の力によるもの、それに対して左腕は普通の人間のもの。
竜騎士の証明の背中に翼は無い。
(竜契士か…!これはマズイ、敵だとしたら非常に不利だし何とか逃げないと)
俺の周りでは、竜契士はよく竜騎士と比較されるが戦う場所が違う、空戦では当然竜騎士、地上では竜の力を引き出せる竜契士が強いと断言する。
竜騎士は兵器として扱いやすく、大量配備、生産が可能であるだけが竜契士よりも優れているだけ。個の戦闘力では圧倒的に竜契士が上。ましてや今現在一人分の戦力にすらならない俺が勝てる相手ではない。
「……………オマエハ…竜騎士カ」
空間に溶けるような静かな声、それは疑ったわけではなくただ呟いた。それだけのこと。
「はぁ…?どう言う意味だ?」
間の抜けた声だった、そんな声で返答した。
内心では向こうに躊躇が無く、もう既に俺が新たなターゲットと決まっているのは解った。ではどうするか、極力話を長引かせて助けが来るまで待つか、それとも逃げる方法を考えるか。
この場合、後者が生存率は高い。
「……ッッ!!」
飛ぶ前に気合を入れ少年は飛び出す、結果として約3mの距離を1秒足らずでやって来る、ウォルターは母親の形見である銃剣(魔砲剣の一種)を魔力によって作られた倉庫から引き出し、拳を受け止める。
「ぬっおっ!!」
足が地面から離れ、少し飛ぶ、背後の民家まで約6mを飛ばされ、民家の壁に背を強打し一瞬意識が飛びそうになる。
彼の持つ、魔砲剣。剣と言うには片刃であることから刀の仲間のようと形容した方が適当で、刃や峰には薔薇や桜の葉があしらわれており、刃も薄くピンク色である。それでも剣の剛性ある、先程の打撃を受けてもなお、折れるほどヤワなものではない。
「あー、いってぇ…ガキ、パワーは認めてやるし危害を加える気は無いからその腕下ろせよ」
剣は向けたまま左手を地面につきながら、立ち上がる。
ウォルターの頭にはまだこの少年が犯人なのか決定打となる確信も証拠も無い。ならば今は只の通りすがりの少年と思い接する他ない、それが願望であることを知りながら。
「カンケイナイ、オマエが竜騎士ならコロスマデ」
やっぱり黒か、竜騎士と分かってコイツは殺しに来てた、今ので決定的だ。
殺らなきゃ、殺られる。
「業火なる炎、今ここに災いなるものを、防ぎ退けよ」
ウォルターは魔力の半分をつぎ込み、3節詠唱の初級魔法ファイアウォール、その改変魔法。それはウォルターとアリアが幼い頃に研究、いや遊びで探していた初級魔法を改変し魔力消費は初級で、威力を中級相当にすること。
ファイアウォールという魔法は位置と向き、範囲を決めてその場所に火の壁を立ち上がらせる。それだけの魔法であるが、最も防壁として効果が大きく込めた魔力量で範囲、火の壁の厚さを変えられる自由度の高い魔法。
だが、欠点として徐々に火が弱って最終的に消える、それもどれほど魔力を込めようと10秒程度で、
「ウウ…ラァァア!!!」
火の壁が未だ勢力を保つ中、顔を覆い苦しみながらも突き破り、越えたと同時にウォルターの顔を殴りつけに行く。
「それは予想内だっ!!」
先程は踏ん張る前に受け太刀をした上に、腕と両足を部分竜化させていなかったが、今度はしっかり踏ん張り、右腕と両足を竜化し、そして力を込めた一撃を合わせる。
一瞬の余裕の無い時間で少年の目を見る。
それは何かの覚悟のようなものを視た、けれどそれは執着に似た憎しみから来ている。
力比べて負けたのは、ウォルターだった。
今度こそ勝てると踏んだ、それでも負けた。
幸いにも壁にこそ打ち付けはしなかったが、石畳みの地面に尻餅をつく。少年はすぐに後ろに飛び退く、ウォルターの腕は強く痺れている。
立ち上がり、ガキを睨んで剣を向ける。意識しても剣先が震えカタカタと俺を嗤う。頬を伝う冷や汗。焦燥に満ちてゆく心。
(益々逃げられないなこれは、向こうは怯む気配無し。パワーでも負ける、策を弄してもダメなら…)
静かに覚悟を決めてゆく。
「煌々たる閃光よ、我が友を守る力よ、今ここにて速く疾れ!!」
凛とした声に3節の詠唱。これはよく聞き慣れたイオの声、超級魔法、雷迅。
剣自体、又は振るった剣先を帯電させたり、電撃を飛ばし攻撃することも出来る。魔力を多く込めて撃てば人の命を奪うことも可能しかし、速度は遅く木に火が燃え移るよりも少し早い程度。
それでも今は助かった。
雷撃がウォルターの目の前を過ぎる前にもう既に少年は逃げていた。気配はもう無く力を抜き、ふぅ。と一息。
「ウォルター先輩、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。イオ、命拾いしたぞありがとう」
それ別に感謝されることでも。そう言い張るイオは何故この状況なのか聞きたいそうで、ウォルターはどう説明すべきか悩んだが、隠すほどのものではない。
ウォルターがそう判断すると会ったことを全て話し始める。
「まず接敵するまでの流れは、レクシ…いや八〇六の指揮官になったから、小隊長と今後の方針を話していたら夜になって、帰ってる途中で何かが焼ける臭いがしたから来るとあのガキがいた。
竜騎士だな。って理由だけで襲いかかって、さらには殺すって言われたから自己防衛してた」
「自己防衛…ですか」
イオの目は、その有様で言うか。と目が言っていたが今は無視することにする。
「色々ありますけど一先ず棚上げします、ウォルター先輩は一旦家に帰ってください明日生徒会室にまた来てください」
「うげっ…もしかして…」
「もしかしなくても説教以外ないでしょう」
ウォルターには踏ん反り返って言われている気がした。イオはそんなことしていないが。