静かな月と赤い炎。
「各適正の説明」
竜騎士適正とは。
竜と契約者の相性の良さを表すものでありそれだけでなく、その人が竜の力を引き出せているのか、その人は竜騎士の素質があるのか、などを加味した結果を適正と一括りにした総称で、実は三つにわかれている。竜人相性、竜能力解放率、竜化潜在能力、これら全てを合わせて竜騎士適正と言う。
魔導適正とは。
魔法を使った時の威力、範囲の選定、使える魔法の種類、最も重要評価点とされる魔力キャパシティーの大きさ。
それらを全て合わせてランク付けされる、魔法の種類は初級魔法から、中級、上級、超級、究極、極大そう区別され、中級あたりでC+. 上級B+. 最上級でA+. 究極でS. 極大でS+.となるが、普通(成人後)はB+.またはA-.がせいぜいである。
なお、D-.で、6歳児くらいであり、D.では8歳、D+.で10歳、C-.11歳、C.12歳、C+.13歳、B.で15歳、B+.20歳前後である。
空戦適正とは。
基本文字の通りで、空中戦での戦闘能力や機動力(最高速や加速力)、航空技術能力などの能力の高さよって決まる平均化するとB+.程度となっている。
砲撃適正とは。
攻撃魔法などの命中精度、威力コントロール、攻撃範囲制御に関することであり、ホーミング能力のある魔法などは含まれていない。
同年同月同日17:00時
学園のとある一室、その部屋には厳粛、いや静粛と言うのが適当だろうか、部屋の中では仕事が執り行われていた、ペンの走る音。紙と紙が擦れる音。印の押される音。
大体はこの程度でたまに後輩からの見落としの修正を言われる程度、いつもと変わらないはず。
「アリア先輩?どうしました?」
静かで優しくもあり、凛とした声が少し不安そうであった。手が止まっていた。それを心配して後輩に気を使わせていたようで、
「いえ、大丈夫。さ、シエナも仕事しましょう」
はぁ…。とあまり納得してないようではあるが仕事に戻る。
後輩の名は「シエナ=リンク・ウェスト」アリアと同じく第2階級の貴族の娘。アリアとは違った点で美しい精緻な顔立ち。暗めの緑のような色の髪と切れ長の目、髪は腰まで届く長さに、伸びた背筋、身長は160cmは越えると思われる。着る服さえ違えばきっと子供には見えないだろう。
アリアは言葉では大丈夫と言っても今までそれで信じた結果、アリアの疲労が溜まり続けるのは小隊的な意味と生徒会長の体力的な意味としても、とても看過できるものではない。
後輩が心で休んで貰おうと決心しているのに対し、アリアの手元にあるウォルター宛の書類にサインをした時からある、何か言い知れぬ胸騒ぎを密かに感じていた。
「失礼します、おふたりとも今日もお疲れ様です」
一瞬気を抜いてたら内開きの扉が開き見知った顔がやって来た。
彼は「イオ=グランシス」第六二一小隊所属だ、やや銀髪っぽい白髪はダンテと似ていたしかし、身体つきはダンテとは違っていた。理由として、部屋に入って来た彼は騎士2型、戦士よりも重武装になりがちなためにダンテと違い全身を鍛える必要がある。横幅はウォルター以上(ダンテよりも実は横幅はある)、身長ではウォルターとダンテの中間辺りの少年だ。
顔はほどほどに良い程度だが、ウォルターやダンテのように大雑把にネクタイを結んだり、着崩れていることもなくしっかりした印象を与える、さらには性格までも良いとなればイケメンと言えるのだろう。
「風紀委員会は今日の巡回終わりました。それでは僕らは街の巡回に行きます、結界が僕らの代わりなので発行したパスを忘れないでくださいアリア先輩。ではシエナ、アリア先輩を頼むよ」
「わかりました、気をつけてくださいイオ先輩」
うん、では失礼します。そう言って去って行こうとした時、ガチャ。ドアが開いたその開いた軌道がイオにぶつかる、幸いにも背中にちょんと当たった程度だが、
「おお…イオか…すまん大丈夫か?」
呼び出しを受けていたウォルターだった、
「ええ、ウォルター先輩は?」
「大丈夫、お前ほどじゃないさ、悪い」
いえいえ。いやいや。としばらくふたりが結構真面目に謝り合っているのをアリアは眺めていた。
「あの、ふざけるのはまた今度にしてもらえませんか?ですよね?アリア先輩」
微笑みながら眺めていたら急に話を振られ、ふぇ?などと抜けた声を上げた。頭が痛くなる失望を思いつつ、先輩3人がダメだと悟ったシエナはそのまま何もなかったように話した。
「一先ず、イオ先輩はお早くパトロールへ、ウォルター"さん"はお話があるので入り口で突っ立ってないでこちらへ。アリア先輩は後でゆっくりお話しをしましょう」
それぞれ、ええ。ああ。ええ、では失礼します。そう言ってイオはパトロールへ、ウォルターは生徒会長の書机の前に。
シエナはひとつ、小さな咳払いを挟み、
「それではウォルター"さん"これを」
アリアから見て右隣に居たシエナは、ウォルターに10枚程の紙がホチキスでまとめられた紙束を渡され、題名を見やった、
「第八〇六小隊について……?なんだこれ、これがなんで俺に?」
腹を割って話せば"この直後は"何故俺にこんなのが渡されたのか分からなかった。アリアの苦笑で気付いたが、
「なるほどな…俺の進退ってそう言うことか、で、俺に新人教育で結果を出せってことだな」
少し言い淀んだが結局言った。
「ええ、そう捉えて結構です、と言うよりも…そうです正解です。さてシエナ、お使いに。朱肉を買いに行ってきてください心許ないので」
アリアはいつも大抵のものは、ふたつほど予備をこの部屋に用意している。それでも言外でふたりで話がしたいと言っているのを汲み逃すほど鈍感ではない。
「分かりました、いつものところでいいですか?それとも前に話した新しいところに買いに行きますか?」
「いつものところ」は大体2〜3分で着くがシエナが見つけた「新しいところ」は10分程必要だ。これはシエナなりの分かりにくい気遣い。
「では今日は新しいところで、冒険しましょう?」
「分かりましたそれでは失礼します」
アリアの座る書机の引き出しから財布を取り出し出て行った。
しばし静寂が流れた、それが1分もしないうちに、
「学園は"無能者"を置いておく余裕は無いようですね、もっとも"真の無能者がいる"と言うのに全く皮肉なものです」
"真の無能者"はウォルターではないと言っている“ように聞こえるいや、少し考えればそう言ったと分かる。簡潔にまとめるなら"8割程の全校生徒並びにほぼ全ての教員が不要だと言っている"のだから。
「今のは浅はかな発言だな。使い物にならない竜騎士を置かないのは普通のことだ、教官とか教師になりたいなら地上に降りろって話だからな」
少しアリアは考え、ウォルターの言葉の意味を理解し尊重して。そうですね、少し血が上ってたようです。そう言ってから本題へ入る。
「学園側がこれ以上実習に参加しないなら"退学"と言う決断をしようとしてると聞きまして、"私が勝手に"あなたの代理人として交渉しました」
普通の喋る速度でさらりと、とんでもないことを言ったアリアにウォルターは話の途中で食ってかかる。
「おい待て、色々文句言わせろ」
簡潔にそれだけを言った、
「何故です?当然のことでしょう?」
色々同時に言いたくなったが口は一つしかないと常識的なことに気付いて、一つずつぶつける。
「まず、学園側が何故いきなり"退学"なんだ、"留年"の間違いだろう?」
「いえ、間違いではありません」
非常に落ち着いた口調でそれは子供諭す親だ。
「それについては去年だが…心当たりがあり過ぎる、もういい。で、何故お前がその退学になることを"知っていた"?それは決定次第、"該当者のみ"通達するのが通常、それは該当者もその周りも知らず、"教員しか知らない"筈だ」
「私の家はその辺りで肥え太る第1階級の貴族達の家より人脈と力があるんですよ?簡単です」
余分な感情を切り落とし少しずつ心を殺してゆく。
その感情と心を殺したのはここに至るまでのウォルターに対する腐敗貴族達の態度とウォルターを退学へ追い込もうとして、数人の腐敗貴族達が一枚噛んでいた故だ無論彼らは"裁いた"が。そのことを考えていると返答は非常に冷淡な口調での答えになった。
アリアは控えめに言ったとして、ウォルターを敬愛している。
その彼を死ぬ直前まで見下していた、元々裁く予定だったのを早めただけだ。アリアは腐敗貴族達には絶対に死を与えようとしてるのだった。
「そうか、じゃあ何故"俺の代理人"なんて言った」
「あなたの父親に言いましょうか?素直に引くと思いますが」
呆れ返った声であくまでも冷静で事務的に伝える。そのアリアの目の奥、もう光は見えない。窓から差し込む夕日が俺には不気味に思えた。
最早、俺は何も言うまい。
「腐敗貴族達も一枚噛んでいたので裁いておきました。ウォルター、リストの数人が減りましたよ」
違う。"言えない"俺にはアリアの取った行動、腐敗貴族達を法律ではなく自らの手で裁いたアリアを責める権利なんて持って良い筈が無い。何故なら俺自身も同じことをしているから。
アリアの声は少し嬉しそうに聞こえるがそんな腐敗貴族達を裁くことに快楽を得ない。むしろ逆だ、それでも、愉しそうに聞こえるのだ。
シエナは半年と少し前、俺たちが腐敗貴族達を殺している現場に遭遇したことがあり知っている。そのシエナは今は部屋にいないし、推測だが今のこのアリアに対して思うこと、それは"尊敬"など優しいものではない"畏怖"そう呼べるシロモノ。
俺はただ反対することもせずアリアに従う。
「……………もういい…聞いた俺が馬鹿だった、それでどこに行けばいい?」
いつもと何も変わってない、
ーーワタシハスベキトコヲシタ。
「3階の302号室に待機してもらってます、そこで今日は顔合わせをお願いします、私から大体説明はしてあるので」
この時は弱い者を虐めているのなら無理にでもそれを止めるまで。それが私の考え、狂っているのか狂ってないのか既に私はそんな判断も出来なくなっていた。
ーーコレデイイ、マチガッテナイ。
その時の私は、疲れ果てた心が折れ壊れているなど気付かなかった。
「そうか、わかった」
財布の中の所持金が足りないと気付いて戻って来ると、会話を少しだけ聞いたシエナは異様な会話だと思った。それは学生がするような会話ではない。
シエナには、ぼんやりとした姉と元気な弟達がいるからかしっかりとしている風に見えるが、内面は至って普通の少女で、周りの子が話す恋愛談義やファッションについても興味があった。
本来ならとある人物に憧れでもしてなければきっと自らの意思も言えず、両親の敷いたレール、政治家へ道を進んでいたろう。でもその道を自ら壊した、それは今、目の前にいるアリアとウォルターのふたりに憧れた他ならない。
目の前で広がるこの狂気を見ることではなかった今までよく知っていた筈のアリアと言う少女、彼女の心の片鱗をここまで恐れたのは今まで無い所か疑ったことすらない今もだ。
それでも今聞いてしまったあの会話、目の前に存在しているのが憧れの存在なのか?断じて違う。その間違いをどう"治せば良いか"そのことは分かり得なかった、ただひとつ、目の前の少年なら"治せる"のではないかと思う。
「じゃあ、俺は行くぞ、仕事頑張れよ」
踵を返し歩いて言った、ドアを開け出て行った。シエナに気付いたアリアは気付かなかった自分へ僅かな苦笑を浮かべ、
「それでは私達も仕事をしましょう」
しばらく返事を返すことが出来なかった、
「はい…分かりました…」
ふたりは再び沈黙の中仕事を始めた。