表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

駅のホームで、スッポンポン!

作者: 幸田遥


 私は腕時計を見た。

 次の電車まであと35分ある。



 私は一人、無人駅で電車が来るのを待っていた。




 太陽の光で明るいホームの一部に、駅舎によってできた日陰がある。

 私はそこに陣取って、電車を待っているのだ。




 地面にカバンを置き、スーツのジャケットをそのカバンの横に置いた。



「ふ〜暑い。汗でびしょびしょだよ」


 長袖のジャケットを脱いで幾分かマシにはなったものの、まだ暑い。


 半袖のワイシャツは、体にぴったりとフィットしており、通気性が良いとは言えない。脇のところはすでに汗で色が変わっている。



「どうしよう、ワイシャツも脱いじゃおうか。誰も見てないし」


 無人駅には誰もいない。

 用事があった家から、ここに歩いてくるまでにも、誰にも会わなかった。



 田舎の無人駅だ。



 私は、ワイシャツのボタンに手をかけた。


 前を開けば、空気の感じ方が明らかに違った。



「あ〜涼しい、ワイシャツは脱いで正解だな」


 私は、肩と首に涼しい風を感じた。




 上はキャミソール、下はスーツのスカートの軽装になったが、問題ないだろう。



 だって、誰も見ていないから。





 上が涼しくなったら、下が気になってきた。


 スーツのスカートは、風を通しにくい。

 このスカートは、広がったスカートではない。


 風は全く入ってこない。



「よし。誰も見ていない」


 私は、次に、スカートに手をかけた。



 スルッ


 と言う音ではなく、


 もっと湿った、


 ズリッ


 という音を立てて、スカートは私の太ももを降りてゆく。


 汗でベトベトになった太ももである、スカートは滑らない。



 足からスカートを脱ぎ去ると、風が太ももに直接当たる。



「おぉ、全然違う! これは涼しい!」


 足に感じる風を、私はしばし満喫した。


 不恰好かな? と思い、靴も脱いで、裸足になった。日陰のホームはひんやりとしていて、気持ち良い。




 私は、カバンの中からペットボトルの水を取り出す。



 ゴクゴク


 と、水を飲めば、そのまま汗となって体から出て来たかのように、私の体全体に汗がにじむ。



 私は、ハンドタオルで汗を拭う。

 ハンドタオルは、もう汗でびしょびしょだった。



 胸のあたりとお腹にも汗をかいていたため、キャミソールに汗がにじんでいる。



「もう、いいや」


 私は諦めた。


 汗でびしょびしょになったハンドタオルをカバンにしまい、汗がにじんだキャミソールに手をかけた。




 そして私は、下着だけになった。


 ネット通販で買った上下お揃いの黒色の下着。


 レースがついており、下はティーバックの紐パンだ。




 このいやらしい下着は汗を吸ってしっとりとしていた。



「はぁ〜、まだ暑い」



 私は、思う。


 この色が、暑苦しい。

 レースも、暑苦しい。

 ティーバックも、涼しげだからいい? そんなことはない! 汗を吸ってジメジメしだしたティーバックは、最悪だ!



「ええい、暑い。もう、いいや!」


 私は下着に手をかけた。




 胸の先端に、すっと感じる涼しい風が気持ち良い。



「ふぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


 これ以上脱ぐものがなくなった私は、大きく背伸びをして、体全体で風を感じた。






 ブーブーブー


 と、音が聞こえた。私が背伸びをしていたまさにその時だ。



 ホームの横に、古びた電話のようなものが見える。


 どうやら、その電話が鳴っているようだ。



 ブーブーブー


 無人駅のホームを見渡しても、もちろん私一人だ。



「とるか……。」


 私は仕方なく、受話器を取りに行く。



 靴まで脱いでいたので、歩くと足の裏が痛い。


 つま先歩きで、そろり、そろり、と歩を進めた。


 その電話は日陰から出たところにある。もちろんホームは熱い。


 しかし、足の裏の熱くも痛い感触は、少し気持ち良かった。




 ガチャ


 私は受話器を手に取り、耳につける。



「……あの」


 受話器からは低い男の声が聞こえてきた。



「はい……。」


 私は、その男の声に応える。



「非常に申し上げにくいのですが、この無人駅には、防犯のために……。」



「ぼ……、防犯のため……に?」


 私は、男の声を繰り返した。



「カメラが設置され……。」



「あっ……。」



 ゴクリ……。


 私は唾を飲んだ。そして、ゆっくりと辺りを見回す。




 私は防犯カメラと目が合った。







「いやぁぁーーーーーーーーー」








 私は、受話器を放り出した。



 私は急いだ。



 ホームに置いてある、自分の服に向かって。



 足の裏は、もう気にならない。



 もはや、それどころではない。



 よく考えれば、分かることだった。



 無人駅は無人かもしれないが、防犯カメラが設置されていてもおかしくはない。



「はぁ〜」


 私は、冷や汗をかきながら、ホームに置いておいた服に、急いで手を伸ばす。








 カサッ




 急いでティーバックを履こうと、それに右足を入れた時だった。


 ()()が、私の右足をかすった。




「ぬあ!」



 黒いティーバックの紐パンの細い紐の部分に、一匹の大きな『ムカデ』が引っかかっていた。


 10cmほどの大きなムカデだ。


 黒のティーバックとは異色を放つ黒光りした胴体に、オレンジ色の細い足が、数十組。

 それは、ササササッと足を動かし、胴体をウネウネと動かしている。




「カ……。」



 声が出ない。



 私はすでに右足を紐パンに通していた。

 そして、その細い紐には、奴が引っかかっている。




「ぐぁっ……。」


 私は左腕に全力で力を入れてしまった。



 ビリッ


 と、私のお気に入りの紐パンは、右のほうが千切れてしまった。




 しかし、そんなことを気にしている余裕はない。



 私は、右足から自由になった紐パンを、そのまま勢いよく、ホームに投げ捨てた。




 カシャ


 ムカデは宙に舞い、乾いた音を立ててホームに落ちた。奴は仰向けで、悶えている。



「あ〜ぁああああああああぁ」


 私は、大きく声をあげながら、背中に登ってくる感情と必死に戦う。


 恐怖と気持ち悪さが混じった感情だ。




 燦々と太陽が降り注ぐ明るいホームで、仰向けになったムカデは、体をウネウネとうねらせている。


 必死に起き上がろうと、足をササササッと、動かしている。



「あぁぁ〜、無理無理無理無理……。」


 私はその場で、大声で叫んだ。



 誰かに聞かせるためではない、自分を落ち着けるために、叫ぶのだ。


 奴が動いている姿を見るだけでも、背中に何かが走る。





 カハッ


 息を整えるようにして、唾を飲む。


 しかし、もう飲む唾はない……。



 暑さのせいと、叫び声のせいで、喉はカラカラに乾いていた。




「なんで、私の紐パンに?」


 私は呆然とする。





 奴は、涼しいところを求めて、日陰を探していただけだろう。

 奴は、日陰を好む。


 奴は、湿ったところを求めて、湿気を探していただけだろう。

 奴は、湿気を好む。





「もしも〜し、大丈夫ですかぁ〜?」


 どこかから小さく、声が聞こえる。



「はぁ、はぁ」


 私は息を落ち着けながら、声の主を探した。

 その声は、私が放り投げた受話器からだ。



 悶えて体を動かしているムカデから視線を逸らさないようにしつつも、受話器に向かった。



「大丈夫ですか? 何度も叫び声が聞こえましたので。すみませんねぇ、なんか驚かせてしまったようで……。」


「い、いえ。悪いのは、私ですから。ほんと、すみませんでした」



 ガチャ


 今度は、受話器をきちんとおいた。




「ふぅ〜、疲れた……。」


 見られていると言う恥ずかしさは、もはや消えていた。




 バシッ


 バシッ


 バシッ



 私は、全ての服を、これでもかというくらいに入念に(はた)いた後に、それらを着た。



 腕時計を見ると、電車の到着まであと5分だった。



 あれから30分も経ったのだ。


 裸でいた時間がそれほど長いものとは思わない。しかし、時間が経つのは早いものだ。




「あれ……?」


 先ほどまでムカデが悶えていたところに目をやると、奴の姿はすでになかった。


 どこかにいったのであろう。






 ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン



 大きな音を立てて、電車がやってくる。

 2両編成の短い電車だ。



 私は、ホームに置いておいたカバンを持ち上げた。






 カサッ


 と、カバンの中で()()が動いた小さな音は、電車の音にかき消された。




「ふぅ、やれやれ」


 私は小さく息を吐き、電車に乗った。










 奴は、日陰と湿気を好む。


 汗でびしょびしょになったハンドタオルも、奴の大好物です。








 おっと、あなたのカバンの中にも、いるかもしれませんよ?





お読みいただきありがとうございます。

評価、感想、レビュー、ウェルカムです。


本作品に『秋の桜子さま(https://mypage.syosetu.com/1329229/)』よりSSをいただきました。活動報告に載せていましたが、こちらにも載せておきます。ぜひお楽しみくださいませ。


以下がSSです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



はぁ……、疲れたわ。私はようやく到着した、最寄り駅を出た。途中コンビニに寄ってパンツを買おうと思ったのだけど、電車の中も大丈夫だったし、早く家に帰りたかったから、止めにして暗い夜道を歩いていると……。


コツコツ……ヒタヒタ……コツコツ……ヒタヒタ


え!何これ後ろに誰かいる……。そう言えばこのあたり不審者とか聞いたけど。私はゾクゾクとする。そして……


だめよ!紐パンムカデに取られちゃったのよ!ウエルカムバンザイはダメダメ!変態に、


こいつ変態


と思われるの……、イヤー!人生において、最大の恐怖が私を襲う!色々と妄想してしまう。変態が、


おいこの前の女な、のーパンツだったんだぜ!


なんて変態仲間に自慢する?変態。


準備いいなぁ、お姉さん、ではありがたく


なんて喜ぶ変態。


そんなのイヤぁぁぁ!



必死に私は走る。

変態も必死に追いかける。

私は必死に駆ける。

変態も必死についてくる。


そして……、


きやぁぁ!私は転んでしまった。貞操の最大の危機!!真夏の悪夢が始まるの!覆い被さろうとする変態に、目を閉じて、持っていた鞄をめちゃくちゃに振り回したの!


その時!


「ふえ?ぎ!い、痛い痛い痛い!ヒィィぃぃ!」


変態が顔を抑えて退散して行った……。鞄が何処かに当たったのかしら……。ホッとして立ち上がろうとしたら……


「お嬢さん大丈夫」


鞄を拾ってくれる着流しのイケメンが……、


「え、ええ、大丈夫です。もしかして貴方が?」


にっこりと笑い手を差し出してくる。白の麻の着物に黒黒とした、百足の染め抜きが……、百足……イケメンが着れば良いものね。私はありがとうございますと手を取った。


その後、私達はめでたくお付き合いをし結婚したの。初夜のベットで、あのムカデに感謝しなくちゃ、と話すと。


「幸せだからいいよ、愛してるよ」


そう言うの。幸せだからいい。なんのことかしら。




(終)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i473898
秋の桜子さまよりいただきました。
リンク先は『魔法少女マンゴスチン』です。
好評連載中です!
i471546
こちらもどうぞ!完結しました!
― 新着の感想 ―
[一言] お姉さん…あの黒い下着、どうしたんでせうね? ええ、夏の無人駅で、ホームに落としたあの黒い下着ですよ。 無人駅に落ちてる異質なものは、こうやって発生していくんだなと妙に納得しました。(笑)…
[良い点] いやー、いくら無人駅だからって、そんな大胆な! と思ってたら、やっぱり見られてた。 日常の中のスリルを感じる作品ですね。 下着が上下おそろいというのが、ポイント高しでした。
[良い点] 通報しなかった職員の優しさ。 駅に全裸のお姉さんが居たら、どう声をかけようか非常に困りますね。 とりあえず見なかったことにして、隅っこで電車を待つことになることでしょう。 [一言] ムカ…
2021/09/26 16:48 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ