史上最悪の中将
「桜木中将、あなたは天気が変わること、気づいてましたよね?」
この一週間の中で、甲上は一番怒っていた。
たとえ、天候の変化に雨宮が気づかなくても、少しではあるが航海士を経験したことある植村、学校で学んできた伊竜も気づいていたため、船が沈むことは無かっただろう。
それでも、先に気づいていた桜木が何も言わなかったことが甲上には許せなかった。
桜木は間違えなく気づいていた。
一瞬の表情の変化
そして経歴
彼女は王の巡視船の航海士を務めたことがある。それは航海士としては確かな実力が有るということを意味していた。
「万一、船が沈んでいたら、どうするつもりだったんですか?」
甲上は今にも襲いかかりそうな勢いだった。
「僕を試したんですか?」
雨宮は今にも泣きそうな、でも、怒りの感情も含まれた表情をしていた。
「そうだよ、試したんだよ」
桜木は笑みを浮かべながらあっさりとそう返した。
「そして、どうするつもりだったのか?の質問の答えだけど、どうもしない。てか、どうもできない。
沈んだら、死ぬだけ。
船長と航海士がしっかりしてない船が行くつく先は沈むのみ。
だったら沈めばいい。
それが、私たちの運命だ。
他に何がある?」
「やめて、渚」
植村は半年以上の付き合いをしてきた船員たちも見たことない真剣な顔をしていた。
「また、そうやって悪者になるつもり?
『史上最悪の中将』
今度はそう呼ばれたいの?
そうやってまた周りを敵ばかりにして、一人になるつもり?
4年前みたいに…」
友達だからこその思いが、植村の中に溢れているんだと、甲上は感じたが、一つ一つの言葉の意味をわかるほど、2人の関係性も、桜木の過去も知らなかった。
「私の言葉を周りがどう受け止めるかは周り次第だ。
私は私が思うことしか言ってない。
それに、私の周りは敵ばかりじゃない。
一華もその一人でしょ?」
少しばかり植村のほうが身長が高いため、桜木は優しい顔で、詰め寄ってきた植村を見上げた。
「そうだけど…」
植村はそれ以上何も返せなかった。
兵士たちへの影響を考えたら、すぐにでも出ていってほしいと思う甲上と指宿。しかし、両者にも植村の気持ちを無視することはできず、伊竜もおそらくそう考えているからなのか、何も発言しなかった。ただ、植村も船長としては、他への影響を考えた時に、このままでいいとは思っていなかった。
問題なのは桜木本人。
船の空気が悪いなかで、桜木は海を眺めては楽しそうにし、周りの気持ちを考えようとしている様子すら見せなかった。