知ってるよ
次の日、海賊に襲撃された。
激しい近距離戦。
次々に兵士が怪我していくのを、甲上は部屋の中から見ていることしかできなかった。
平木は死ぬかも知れないと思っただろう。
甲上は思わず目を瞑った。
目を開けると桜木が平木を庇うように立ち、手の甲には刀が突き刺さり血が流れていた。
驚いた顔の平木。
「平木!
剣を拾え!戦い続けろ!」
桜木の大きな声が響く。
互いに怪我人が多数出たところで、海賊たちは逃げようとした。
「追わなくていい」
植村がそう言ったあと桜木の顔を見た。
桜木は優しい表情で頷いた。
それが決して尻込みしたわけではないことは甲上にもわかった。
半数以上の兵士が戦闘不能に陥っている状況の中ではあまりにも危険だったからだ。
医務官たちがほとんどの兵士の治療を終え、自分で応急処置だけ行っていた桜木の治療に当たっているところに、平木がやってきた。
「すいませんでした」
「大丈夫だよ。手だけだし」
あっさり答える桜木。
「…あの、私の名前ご存知だったんですね?」
「名前?そんなの4年前から知ってるよ」
「えっ?」
「訓練のたびに泣いてるから、すぐに辞めたいとか言い出すんじゃないかってドキドキしてたからね。
なんせ海軍で女の子は貴重だから。
ちょっとでも頑張ってくれると嬉しいなあって」
涙が止まらない平木。
「なんで?私、なんか悪いこと言った?」
慌てる桜木。
「ちょうど泣きたかったんだよね」
微笑む植村。
「顔洗って来ます」
涙を拭きながら、走り去る平木の後ろ姿を、まだ驚いた顔で見つめる桜木。
「あーあ。泣かせちゃった」
植村の口調はからかっていた。
「やっぱり私なんか言った?」
困り果てる桜木を見て、みんなはクスクス笑うか、笑いを堪えていた。
「桜木中将って、案外天然なんですね」
指宿のその言葉に桜木は不思議そうな顔をした。
夕飯時。
すっかり普段通りに戻っていた平木を、桜木は心配そうに見つめていた。
「何か?」
「いや、昼間私、ひどいこと言った?
言ったなら、謝るっていうか…」
もう、ここまで来るとみんな大爆笑だった。
困りながら不思議そうな桜木。
でも、少しずつその表情が寂しそうになった。
「あー、ごめん。笑いすぎた」
慌てる植村。
「いや、こういう雰囲気に憧れてたんだよなぁって、思って…
宗谷さんの船がこんな感じだったんだ。
みんなキリッとしてるのに、和やかで、笑いが絶えなくて…
船長になったらそういう雰囲気の船を作りたいって思ってたんだけど…
やめよっか、こんな話」
無理に笑う桜木。
「なら、これから作ればいいのではないですか?」
甲上の言葉に桜木が返すことはなかった。




