謎なんかない
ライリンが有ったのは、今吉大将の船だった。
今吉大将。神矢大将とは同い年で仲がいい。神矢とは異なり、努力で4年前大将の座まで上りつめてきた人間だ。厳しい一面もあるが、明るい性格で部下からの信頼も厚い。桜木とは緑川船時代、一緒だった。
今吉船と合流すると、今吉船の医務官からライリンを受け取った。すぐに治療が行われた。
「今吉大将、ありがとうございました」
植村が緊張しながらお礼を言う。
「いや、うちに有って良かったよ」
そう言いながらタバコに火をつけた。
今吉はヘビースモーカーなのだ。
「今吉!」
桜木の声は明るかった。
「桜ちゃん!」
今吉は桜木に駆け寄ると抱きつき、その後、頭を撫でた。
また、よくわからない関係性が出てきたと甲上は思った。
2人は4年ぶりの再会を喜んだ。
以前に桜木が大将昇進の同意書にサインする際、今吉の意見を求めていなかったことから、それほど深い関係にあるとは思っていなかった甲上だったが、この2人の様子を見ていると違うようだった。
「そうだ!
紹介するよ、うちの副船長」
今吉が自分の船の副船長を桜木に紹介した。
「千賀大佐であります」
千賀は緊張した面持ちで敬礼した。
「例の件は千賀から聞いてくれ」
千賀は桜木を部屋に案内した。
「桜ちゃんとの生活はどうですかな?甲上監査官」
今吉の急な質問に甲上は戸惑った。
「桜木中将自身もその周りも謎ばかりで困ってます」
甲上はつい本当のことを言ってしまった。
「謎な関係?
そんなもん、ありませんよ。
みんながみんな、それぞれの思いを持って、それぞれの人間に関わってるだけです。
桜ちゃんにも謎なんかありません。
彼女は桜木渚。
海を守りたくて海兵になり、15年以上、海兵で居続けているだけ。
それだけです」
今吉は微笑んだ。
「それぞれ…」
桜木と千賀が出てきた。
「名前、覚えてもらったか?」
今吉が千賀に聞く。
「覚えたよね~、千賀ちゃん」
桜木が千賀に抱きついたため、千賀は驚いてしまった。
今吉は笑っていた。
夜。
兵士たちの間で桜木が話題になっていた。
一人の兵士のために無線を片っ端からかけた姿が、兵士たちに響いていたのだ。
兵士たちが話しているのを甲上は物陰から聞いていた。
「桜木中将、なんだかんだ言って、俺たちのこと思ってくれてんだな」
「なあ、びっくりしたよ」
桜木はやはり噂通りの人間ではない。
『史上最悪の船長』とは本人によって作られた姿なのだと甲上は確信した。
治療を受けた兵士は次の日にはだいぶ回復していた。




