終わった平和な時間
平和な日々は一ヶ月もしないで終わった。
第二副船長で唯一年配の薪少将が古巣である第一支部が危機的状況にあるといい、戻されたのだ。
それでも、薪が抜けただけのメンバーなら、経験値に不安が有るというくらいで、甲上がひどく心配するほどでも無かった。
問題なのは新しく配属されることになった桜木渚中将。
大佐以上で副船長以上の経験が2年以上有る者が船を持つ資格を与えられている中で、強鷲号は植村以外はその資格を持っていない。つまり、植村に何か有れば、その代わりをする者がいないということである。
よって、そこそこ上級の士官が配属されることは、みんなが予想していた。
しかし…
まさかの出来事に甲上は、ため息をつかずにはいられなかった。
桜木が配属されることが決まって以降、船の中は桜木の噂話で盛り上がった。
「超スピード昇進の裏側、知ってるか?」
「女使ったとか、媚売ったとかって話だろ?」
「てか、いくら媚売ったところで、ふざけた人を中将にするとか、弓長前元帥も頭がおかしいよな。
軍服はまともに着ない。
言葉遣いもなってない。
船長やった時も船長の役目なんか果たしたことない」
「役目どころか、船員の名前すら覚えてなかったよ」
そう呟いたのは、4年前桜木が船長務めた風装号の新人兵だった平木愛だった。
「先輩の将来の夢って、桜木中将みたいにはならないことなんすよね?」
「ええ、そうよ。
絶対、あの人みたいな船長にはならない」
そう言い放った平木な目は強かったが、どこか寂しさのようなものを周りは感じずにはいられなかった。