犠牲
本部に戻ると、早速カイルの話になった。
「カイルがまた動き出したと思うか?」
桐生が、桜木に聞く。
「わかりません」
桜木は無表情だった。
「これから何か起きると思うか?」
「わかりません」
「わかりません、か…
お前、それ以外に言うことない…」
「それより、なぜ植村大佐を一人で特任に行かせたんですか?」
植村が割って入ろうと思ったが、桜木がその隙を与えなかった。
「あの時点ではカイルの仕業だとわからなくても、危険な任務になることぐらい予測がついたはず。
面倒見てきた部下をあなただって簡単には失いたくないはずだ」
「私は人選ミスだとは思っていない。
ただ、想像力には欠如していたと思う」
桐生は桜木と真正面から向き合った。
それは誰も間に入れない緊張感を生むものだった。
「想像力?
それが長の言うことか?
だからあなたは元帥に向いていないんだ」
「お前に何を言われようと私が元帥だ。
ただ、未熟な元帥だ。
だからこそ、優秀な部下のありがたみがわかる。
お前も植村もその一人だ」
「なるほど。
私が気づいて植村の特任に手を出しておけば良かったということですか?」
「そういう意味ではない!
お前も大切な部下だと言っているだろうが」
「あまい!
なんの犠牲も無しにやっていけることじゃない!」
桜木が声を荒らげた。
「そうやって4年前、お前たちは抱え込んでいったのか?」
決して責め立てようとはしない口調の桐生とは違い、桜木は追い込まれているような様子だった。
「…4年前のことは関係ありません」
桜木はそのまま去っていった。
誰も引き留めることができなった。
引き留められる空気ではなかった。
甲上は志摩にこれまでのことを報告した。
「もし、カイルが動き出しているのならば、キャリア体制改革どころではなくなってくるな。
それに、桜木が噂とは異なる人間像となってくると、追い出す追い出さないの問題の前に見極めが必要になってくるな」
志摩は考え込んでいた。
「そうですね」
甲上は桜木の様々な表情を思い出していた。
一人の人間の中に様々な面が有ることは、わかっていることだ。
それでも今回は桜木の様々な面を見てしまったように感じる。
「服装はともかく、戦闘でも知能面でも優秀ですし、性格も真面目な面も見られました」
「そうか…
とりあえず、任務を続けてくれ」
「はい」




