秘密は秘密のままに
桜木の嫌な予感は的中することになった。
「黄瀬さん!?」
ドーナツエンドで待っていたのは、陸軍の黄瀬大将だった。
「嬢ちゃん、呼び出してすまんな。
早速で悪いんだが、これを見てほしいんだ」
そう言って桜木に手渡したのは、一冊の外国語の本だった。
それを見て、表情が強ばる桜木。
丁寧に1ページ1ページを確認していく。
その間、誰も声を発することはなかった。
「間違いなくカイル語です。
中身は小説で、特に何か記されているということもありません」
本を返す桜木の手は、やっと持っているようなほど力がなかった。
それぞれに「カイル…」と呟く。
そしてまた黙り込んでしまった。
甲上も父のことを思い出していた。
その亡骸を前に泣き叫ぶ母の姿を思い出していた。
重い空気の中、最初に口を開いたのは桜木だった。
その表情は無表情だった。
「とにかく、蜂須賀元帥に連絡を。
私もきーきと連絡を取ります」
「わかった。
嬢ちゃん、一人で抱え込むなよ」
それは躊躇いながら発せられた言葉だった。
「抱え込むも何も、まだ何も起きてないですよ」
無理に笑う桜木の姿に、それ以上の言葉を伝えられる者はいなかった。
船に戻り桜木が元帥に電話を入れている後ろで植村が呟いた。
「また、なんでカイルは…」
長年、リアンとカイルは仲が悪いというか、敵視されている。
何かあれば戦争に発展しかねない状態が続いており、4年前の大事件は戦争に発展しなかったという点においては奇跡と言える。
桜木は話し終えると植村と替わった。
植村船は今回の一件おいてはここまでとなることになった。逃げた海賊の捜索は別の人間が、各外国の協力を受けながら続けることになる。
電話が終わったところで、甲上は桜木に詰めよった。
「4年前のことを教えてください。
それが今回のことと関係があるかもしれない」
「4年前の事件は4年前で終わっています」
桜木は無表情のままだった。
「本当に何も関係がないと言い切れるんですか?」
「甲上さん、秘密は秘密のまはまにしておいたほうがいいこともあるんですよ」




