海兵になった理由
皆が寝静まった夜。
「やっぱり本当はすごく優しい方なんですね?」
「それは、あなたの目が相当腐ってるということで、よろしいですか?」
夜、桜木が一人で酒を飲んでいたところに、若干テンションが高い甲上が来たためか、桜木は不機嫌そうだった。
そんな様子をものともせず甲上が隣に座ったため、桜木は少し驚いた。
静かに数センチ離れ、反対を向きながらお酒を飲む桜木。
丸々と大きく輝く月の光を気持ち良さそうに浴びる甲上。
「桜木さんて、実はハイテンションで不真面目な人じゃないですよね?
本当は静かな時も多くて、真面目な方なんですよね?
もっと真面目なところを見せれば、中将らしく見えるのに、どうしてです?」
桜木は大きくため息をついた後に、甲上と一緒に月を眺めた。
「13年前ある人が死んだ」
本宮のことだ。
甲上はそう思ったが、口を挟むことはしなかった。
「それまでその人によってまとまって海軍だったから、意見のすれ違いが起きた。
それでも、後を引き継いだ弓長さんが頑張ったからなんとかなってたけど、そこにキャリア体制の話が入ってきた。
結果、ベテラン勢の多くがやめた。
それから桐生派・宗谷派なんてできて…
女海兵はただでさえ少なかったのに、さらに減った。
海兵になった動機はちっぽけだけど、それでも、海軍で生き残りたい。
命の恩人で育ての親である宗谷さんのためにも海軍で生き残りたい。
私には海軍しかないから…
だから、あへて目立つ人間になることを選んだ。
元々堅苦しいの嫌いだったから簡単にできたよ」
桜木はいたずらっ子のように笑った。
「そんな人間がどうやって他の人に信用してもらったんですか?」
甲上は呆れていた。
「頑張ったから」
「はあ?」
「不思議だよね~
頑張ってるとみんないつの間にか認めてくれた。
それだけのこと…
時間はかかったけどね」
そこまで言って桜木はようやく甲上を見た。
急に見つめられた甲上はなんだか恥ずかしくなってしまい、目が泳いでしまった。
「私は特別なんかじゃない。
確かに海軍の中じゃ浮いてるかも知れないけど、世間ではこんな人間いくらでもいる」
「それは…そうかも知れないですけど…」
「今、見なければいけないものを間違えるな。
今、やらなければいけないことを間違えるな。
ただ、私が海兵の人格から外れているのは確か…
そこは注意し続けろ。
周りの海兵たちのために…」
そう言って桜木は立ち去ってしまった。
甲上は桜木の海軍への想い、そして、海軍の中で生き残ってきた大変さを知って考え込んでしまった。
監査本部は女性の数は少ないが、男性社会というほどではないし、自分の先輩にも女性がいる。
だがきっと、桜木にはそんな存在も少なく近くに居なかったのかも知れない。
彼女はどれだけ大変な思いをしてきたのだろうか。




