医務官たちへ
夕食後、医務官2人が植村と桜木のそばに来て頭を下げた。
「すいませんでした。
しっかりしなきゃいけなかったのに…」
「わかってるならいいよ」
素っ気ない植村。
更に、桜木は
「あんたたちがしっかりしてくれなきゃ、死ぬのは私たちなんだけど」
と厳しい言葉を投げた。
口調も真剣で、船内は一瞬で凍りついた。
「ちょっと、もう少し優しく…」
甲上のそんな制止を桜木は無視した。
「言っておくけど、今日なんて序の口。
もっとひどい状況なんていくらでもある。
その度に驚いて仕事できないなら、辞めた方がいい。
甲上さん、あんたもだ。
優しく言ってなんとかなる仕事じゃない」
医務官たちの目からはボロボロと涙がこぼれ始めた。
「…とか、言うのはここまで。
やっぱり慣れないことはしない方がいいね」
桜木が頭を掻くのを見て、植村だけが笑いだした。
2人についていけない周り。
医務官たちも涙を浮かべたまま、きょとんとした顔をしていた。
桜木は優しく、でも、少し慣れない様子で話し始めた。
「…私たちの仕事は怪我をするのは日常茶飯事…
そして、いつ死んでもおかしくない…
名誉の負傷や死って言われるならまだしも、何も言われないことや、仕方ないと片付けられるのが当たり前。
…だから…自分なんかどうなってもいい。ここで死んでもいい、って思うことが有るのもまた事実。
そんなとき、自分の帰りを待っていてくれる人がいる。
自分の体を心配してくれる人がいる。
そういう人たちの存在が自分を救ってくれる。
だから、私たちはすごくあなたたちに感謝してる。
ただ、兵士以外の業務をこなす人たちと馴れ合うことは私たち側でも禁じられているし、兵士の心を迷わせるような発言はもちろん、必要以上の発言はしないよう、教育されてきたと思う。
それが兵士が兵士としての実力を発揮するために必要な距離だから。
それに、それぞれプライドも有る。
感謝とかを伝えるのを苦手な人も多い。
それでも、私たちはあなたたちの存在を有難いと思ってる。
それだけはどんなに辛いときでも忘れないで欲しい」
桜木の言葉に、医務官たちから違う種類の涙が流れ始めていた。
「…まっ、とかなんとか言っときながら、私も散々迷惑かけたり、泣かせてきた一人なんだけどさ。
治療してもらったところを怪我して帰ってくるなんてしょっちゅうだし、治療拒否もしたことあるし…
…一応、中将だから厳しい言葉をかける時もある。
私がこの船にいて、君たちもこの船の医務官をやってる限り、私は何度も君たちに迷惑をかけるよ。
辛い思いもさせるよ。
私以外の兵士たちの分も含めたら、数えたくなくなるぐらい辛い思いも悲しい思いもすると思う。
それでも簡単にめげない欲しい。
一人でも多く支えてくれる存在が私たちには必要なんだ。
わかってくれる?」
「はい」




