バングルの謎
翌日の昼過ぎに激戦区に入ってすぐ、強鷲号のメンバーは桜木のより一層強い姿を目の当たりにすることになった。
そして、それは同時に植村以外の人間は未経験だった、海兵の仕事の厳しさを知った出来事でも有った。
もちろん、甲上にとっても…。
激戦区域内に入る前に強鷲号は一度攻撃を受けた。
大砲を中心とした遠距離戦で、わりと早く片付き、怪我人も出なかった。
そして、激戦区に入ってすぐにも攻撃を受けた。
始めは遠距離戦で、桜木もいつも通り眺めているだけだったが、そのうちに海賊たちが強鷲号に乗り込んできて、船の上は瞬く間に騒然とした。
桜木は様子を見ながら靴紐を結び直すと、
「部屋の中にいて」
と甲上や医務官、給仕官たちに部屋の中にいるよう言った。
そう言えば、戦闘に参加してないとき、桜木はいつものそのメンバーの近くにいた。
私たちを守っていたのか?
甲上には一瞬そんな考えが浮かんだ。
しかし、そんな考えがすぐに消えてしまうほど、戦闘は激化した。
そんな中で桜木の動きが妙にクローズアップして見えた。
まるで、忍者のような軽い身のこなし。
跳びはねながら蹴りあげたり、回し蹴りしたり、バグ宙して避けたりと大きく優雅な動き。
その大きな動きに隙を作らないスピード。
更にフェイントとも加えられ、相手は桜木の動きについていけない状態だった。
そして、甲上は気づいた。
相手が桜木の頭部目掛けて突き出した剣先を、腕につけたバングルで弾く。
短剣のため極近距離戦になるなかで、バングルは小手代わりに使われていたのだった。戦闘中に納得している暇などないが、それでも納得させられる使い方だった。
そして、甲上は思った。
やっぱりこの人は中将なんだと。
植村も伊竜も指宿も相当強い。
でも、彼女はそんなレベルじゃなかった。
海軍に来て一番激しく見える戦闘だった。
それでも、この程度では負ける気なんかしない、そんな余裕の感じられる戦い方だった。
しかし、やっぱりこの戦闘は激しかった。
もちろん強鷲号の勝利では終わったが、重傷者を含めた怪我人が多数出た。
血の匂いが漂う。
「伊竜、怪我人の把握。
動ける人は応急手当にまわって」
植村は右腕を押さえていたが、冷静な指示を出していた。
しかし、植村だけだった。
他は呆然としていたり、疲弊していたり、自分の怪我に苦しんだり。
医務官たちも足がすくんでいた。
強鷲号の医務官2人はどちらも昨年の途中から入った子と今年入った子で、まだ経験が浅い。
本来ならこの組み合わせにはしないのだが、医務官の数が足らず、仕方なかったのだ。
「ほら、しっかり!
あなたたちが治療しなかったら、誰が治療するの?」
そう叱責したのは桜木だった。
その言葉で医務官以外も目が覚めた。




